12.御影 陽介の閃き・・・
「は……はい」
姉さんがぼくの命令に従って長時間、電話している。かれこれ一時間経った頃、やっと彼女はスマートフォンを床に置き、疲れたのかその場に座り込んでしまった。
「どうだった? いい収穫を得られた?」
「ええ。宮古さんと同じ弓道部に入っていた人と連絡を取ることができたわ!」
「嘘っ!?」
ぼくはベッドの上で読んでいた漫画を放り投げて、彼女のもとへと駆け寄った。彼女の情報網が半端ないのだろう。最初から情報収集を彼女に任せておけばよかったと後悔しながら、情報を求めた。
「それで、それで?」
「浜野さんの湿布については、面白いことに宮古さんが関わっていたわ。これ、東堂さんにそのまま送った方がいいのかなあ?」
「いいよ。明日、伝えとくから」
「もうメッセージをグループに少しずつ送ってるから」
「うっそー!?」
試験だという嘘がバレるのが怖くて震える。さらにこの事を問い詰められれば、ぼくは追跡中の失敗を話すことになるだろう。なんだろう、秘密主義って。なんだろう、個人情報って。
ぼくの心は宇宙に投げ出されたような感覚に浸った。もう、どうでもよい。滅茶苦茶にあがいてやろう。
「入部試験って何? 絵里利」
「そんなの出した覚えないんだけど……」
姉さんのスマートフォンの画面に映っている古月さんと東堂さんのトークを見るだけで怖いという感じることしかできないのだが、ここは開き直って褒めてもらおうという気で進んでいこう!
「姉ちゃん。ぼくにもさっきの続きを話して!」
「ええ。実は部活中の事故じゃないみたいなんだけど、ぶつかって宮古さんが浜野さんに怪我をさせちゃったらしいの」
「え!?」
怪我をさせた上でストーカー行為に発展したのなら、許すことのできない野郎である。そう呟いていると、彼女は手を横に振って「違う」と伝えてきた。
「どういうことなんだ?」
「違うと思うわよ。だって、彼はしっかり彼女のアフターケアをやってたみたいだし」
「……? 話をまとめてもらっていい?」
彼女の話によると、事故があって浜野さんは宮古さんに怪我をさせられてしまったそうだ。しかし、彼は彼女の足に適切な処置をした。だけれど、それだけで終わりではなかった。浜野さんが足の痛みで大会のとき、足の痛みのせいで存分な成績を出すことができなかったらしい。それで責任を感じた宮古さんが彼女に弓道の相談をしていたようだ。
驚愕して頭がこんがらがってしまう。宮古さんと浜野さんの関係がストーカーとその被害者……? 家が近隣? だったら、彼女は東堂さんに何故それを話さなかった?
答えは一つ。
「どうしたそんな真剣な顔して……ねえ陽君?」
「けど何故今更? この完全犯罪計画部を知らなかったから? けど、この話なら別の人でも……いや。こっちの方がいいのか」
ぼくの思考に誰の声も音も入り込まない。真っ暗な異空間で……すぐに姉さんに呼び戻されてしまった。
「ねえねえ。試験ないじゃん」
「あ……あああ! ごめんなさーい!」
彼女は怒ってはいなかったのだが、こちらが騙していたという負い目もあり、好き放題遊ばれてしまう。最悪だ……。
真夜中、ぼくは絶対に嘘をつかないと決意する。
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決行の日。いつもより風が吹き荒れていて、緑色の葉が空中を流れていくのを何度も目にした。
その日の昼頃東堂さんにどう謝ろうか、試行錯誤していたぼく。
「どうするんだよ……」
ぼくを困らせているものは他にもあった。腑に落ちない点だ。
どうして今になって、計画を実行しようとしているか。それだけの答えがどうしても出せなかった。
教室の机に頭を突っ伏して、考える。
「ねえ。昨日、トーク見てなかったみたいだから伝えとくね。浜野先輩は勢いよく襲撃して欲しい……だけだって。それと貴方のお姉さんは今回の実行に含まれてないって。後、昨日のどうやら、絵里利にもバレたみたいだし……後、できることはやるわよ?」
顔を上げた。古月さんがいる。だが、周りには誰もいなかった。そうか。……次の時間はグラウンドで体育だったな。
この時間は人の目を気にせず、二人で部活のことを話せる。
「東堂さん。どうするんだよ」
悩むぼくにきつい冗談をかましてきた。
「二人で部活を辞めるしか……昨日出して、今日返してもらう部活届……変に思われるだろうなあ」
冗談、勘弁してほしい。そんな思いはなかった。
ただ彼女の言葉に繋がっていなかったパズルのピースが次々とはまっていく。何故。こんな簡単なことが分からなったのか不思議だ。
ぼくは閃きに歓喜の声を上げる。そうでもしなければ、高まったこの気持ちが大爆発を起こす!
「それだ! それがヒントだったんだ!?」
「えっ? 何々? あっ! もう時間だし、着替えないと!」
「ああ。急がないと」
時計が目に入り、ぼくと古月さんは体育着を取り出し……
「ちょっ! ちょっと!」
「もうしょうがないでしょ! あっち向いてて!」
教室で着替え始めた彼女。小さい体がやけに目立つ……そんな状態を見ないようにと窓の外を見る。
今は作戦が成功することよりも教師がこないように願うばかりであった。
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「分かった……その作戦で行きましょ。陽介君。ユニちゃん。今回、貴方たちのやった失敗の重大さは分かってるわよね。でも関係ないし……今は完全犯罪決行!」
「「はい!」」
古月さんとぼくは申しわけなさそうな表情ではなく、決意に燃えた顔をしている。勿論東堂さんも燃えていた。
ぼくの推理ショーも終わった。後は戦いに向かうだけだ!




