ヒトデナシ
たとえ君がどんな目に逢おうと、ヒトデナシのぼくは怒りさえなくて。
ロクデナシのまま立っていた。
けど、嫌われたくはなかったから、それとなくぼくは怒ったふりをして。
加減も知らずにわめき散らしたら、みんなおびえて逃げてった。
深い夜中の零時二分。
始まろうとする一日に、終わりゆく音が響いて。
歪んで壊れた声で叫んでも、心の外には届かない。
君の姿はどこにもなくて、ぼくはまた一人で。
足元で割れた懐中時計が、いつかの零時で止まってた。始まらないまま終わってた。
拾ってかかげてみたところで、時間はやっぱり止まったままで。
代わりに時計が、ふりこみたいにゆらゆら揺れて、風にあおられて飛ばされて。
そのころにはもう、キミの温度なんて無かったから、直そうという気も起きなくて。
ぼくはあっさりとそれを手放して。
トンネルのくちにのまれてしまってから、それが君との最後のかたちだったってきづいた。
渇いた涙がさらさら流れて、ちんぷなハートのホオズキが、ぐずぐずになって傷ついた。
それでもなにも思えなくて。
セカイのふちの、ガードレールを乗り越えて。崖のむこうまで飛び下りた。
ふりかえったらまだ君がいて。ガードレールの内側に、オヒトヨシに泣く君がいて。
それでもぼくに、ヒトデナシのぼくに、君のために泣く涙はなくて。
取り囲む風に身を投げたまま、手ものばさずに落ちてった。
崖のむこうまで着いた時、涙はもう枯れていて。
ちんぷなハートのホオズキが、ぱーんとくだけて広がった。
――――残せるようなタネはなく、けれど中身は、真珠のようで。