プロローグ・奇怪な事件
私は父の書斎から持ってきてもらった本に目を通すと、翌朝私は奇怪な事件についての対策に乗り出していた。
朝早くに目覚め、街へ繰り出す為、男性用の警備兵の制服に着替えると、ワインレッドの長い髪をまとめる。
腰に剣を下げ、帽子を手に取った。
昨日の夜に用意したある物を袋へと詰め込み懐へと忍ばせる。
準備が終わり鏡の前に立つと、ワインレッドの髪をした肩幅が小さくひ弱そうな男の姿がそこにはあった。
よしっあとは髪だけね。
私はアランを呼び寄せ、昨夜頼んだ物が準備ができているかを確認する。
アランは朝一番に手配をかけていたようで、準備はできておりますと黒い短髪のウィッグを差し出した。
私はワインレッドの髪を隠すようにウィッグを取り付け、手にしていた帽子を深くかぶる。
アランは私の姿を眺め、複雑な表情を浮かべる。
「その格好で街へ・・・出かけるのでしょうか・・・?」
「えぇ、どこからどう見ても男にしかみえないでしょ?」
アランは何とも言えない様子で、深いため息をつくと馬車を用意してきますと部屋を出て行った。
あれ・・・いけてない?
私はもう一度鏡に映る少年の姿を眺めると部屋を後にした。
馬車へと乗り込み警備兵の訓練場所へと足を運ぶ。
アランの姿を確認したアドルフは急ぎ足でこちらへと駆けてきた。
「アラン、昨日もらった伝達だが今調べさせている最中だ、結果はまだわからねぇ」
アランは微笑みを浮かべ横に立つ私へと視線を投げる。
「おぉ?そのちっこいのはだれだ・・・?」
深く帽子をかぶる私にアドルフは視線を向ける。
私は帽子を少し持ち上げ、アドルフを見上げた。
「ちょっ・・・おまっ・・なんでそんなかっこうしてるんだ!?」
私の事がすぐわかったのか、アドルフは目を見張る。
あら、この変装そんなにダメかしら・・・?
「私も被害者女性に会いにいきたくてね、調査に同行をお願いするわ」
声のトーンを落とし周りに聞かれないように告げる。
アドルフはそんな私の様子にアランと同じく深くため息をつくと、ちょっと待ってろと言い残し訓練場へと戻っていった。
アドルフと合流し、最初に行方不明になった女性の元へと訪れる。
女性は警備兵の姿を確認すると、うんざりした表情を浮かべ、渋々といった感じで私たちの元へと来た。
アドルフは行方不明になった時の事をもう一度話してほしいと彼女に申し出た。
「また・・・?本当に何も覚えていないのよ・・・何度聞かれてもわからないものはわからないわ・・・」
彼女は迷惑そうな顔を浮かべ、アドルフを見つめていた。
そんな彼女の様子に私は咳払いをし、いつもより声を低めにして話かける。
「行方不明になるときに着用していた服を見せていただけませんか?カバンや装飾品なども全て」
深く帽子をかぶった私を不思議そうに見据えた後、わかったわと部屋へと案内してくれた。
彼女は部屋へと入ると衣装棚を開き、事件当日に着用していた服を用意する。
私は彼女の様子を事細かく観察していると、すべて用意できたのであろうか、私たちの前にある机に並べていった。
私は一つ一つ手に取り彼女の許可を得て注視しすると、カバンについてあった青い宝石のついたチェーンが目に留まった。
「このチェーンはどこで購入したものでしょうか?」
彼女は私の質問に何かを思い出すような素振りを見せ、確か・・・町はずれの露店で買ったような気がするわ、と答えた。
私はそんな彼女へ懐に忍ばせていた袋を取り出し彼女へと差し出す。
女性は不思議そうな様子を見せた後、恐る恐るその袋を受け取った。
「袋から臭いがすると思う、少し嗅いでみてくれ」
男っぽい言葉遣いで彼女に話しかける。
ゆっくりと袋に鼻を近づけると、彼女は突然悲鳴を上げた。
「この匂い・・・あぁ・・あああああああああ」
狂ったように叫び出す彼女に私は即座に袋を回収し彼女の背中を優しく撫でる。
悲鳴を聞きつけ、彼女の両親が部屋へと駆けつけてきた。
勢いよく開いた扉に何事だと焦った様子で入ってきた両親に、彼女を委ねた。
彼女は落ち着きを取り戻すと、暗い瞳を浮かべ何も言わず部屋を後にした。
次にエイブレムから情報を得た事件後に倒れた女性へと会いに行く。
彼女はまだ目覚めていなかった。
彼女の両親に許可をいただき彼女の部屋へと入室する。
ベットで深い息をしながら死んだように眠っている彼女へ私は先ほどとは違う藁の袋を取り出し、彼女の鼻へとゆっくり近づける。
藁の袋から発する臭いを彼女は深く吸い込んだ後、飛び起きるように目覚めるとせき込み始めた。
突然の出来事に私以外の周囲が呆然とする中、両親は起き上がった彼女へ駆け寄ると優しく抱きしめた。
私は水を用意するようにアランへ指示を出し、目覚めた彼女へと差し出す。
彼女は何が起こっているのかわからない様子で、周囲を不思議そうな顔で見渡していた。
起き上がった彼女の腕には青い宝石をあしらったブレスレットが布団の隙間からのぞかせた。
私はこのブレスレットはどこで購入したのかを確認すると、彼女は考えるような素振りをみせ、町はずれの露店で・・・とボソッと答えた。
やっぱりね・・・。
私は胸元にある青いネックレスを服の上から強く握りしめた。
そのあとも行方不明になった女性を尋ね歩く中、アドルフとアランは何も聞かず私の好きなようにさせてくれる。
一通り行方不明の女性に会ったあと、私は警備兵の服を脱ぎ棄て馬車へと残し、次に露天商へと赴く準備を始めた。
私は新たにラフな男物の服を街で購入し着替えると、アドルフとアランにも着替えるように命じる。
街のはずれにある、人通りが少ない道へと入ると彼女たちが購入したであろう露店を見つけた。
アドルフは私の前に立つと露店に座る男に話しかける。
「よう、ちょっと訊ねたいことがあるんだがいいか?」
ガラの悪い男を演じるアドルフが図太い声で問いかけた。
男は薄気味悪い笑みを浮かべると露店を片づけアドルフへと向き直る。
「青い宝石のついた商品を多く扱っているようだが、どこで手に入れた?」
「青い宝石ですか?・・・いちいちどこで仕入れた商品なんて覚えておりませんよ。」
アドルフはそんな態度をとる露店の男にを威圧的に睨みつけ、胸倉をつかんだ。
男は薄気味悪い笑顔からおびえた様子へと変わり、必死に逃げようともがくが、強い力で拘束されている為アドルフから逃げ出すことができない。
「わっわかった、裏路地にある、あの目立つ酒場に女を買いにいったんだ・・・そこで黒いフードのかぶった男に青い宝石ばかりを売ってもらったんだっ・・・うっ・・・売りさばけと・・・金をもらって・・・」
アドルフは男から手を放し、地面へと転がした。
「どんな男だ・・・?答えろ」
冷たく鋭い声に男は痛いと地面で蹲る。
「わからねぇんだ、その・・・深くフードをかぶっていたから顔は見てねぇ・・・ただ小柄な気味の悪い、しゃがれた声だった・・・そ・・そうだ、そいつに三日後会うことになってんだ・・・。」
「・・・嘘じゃねぇだろうな!」
アドルフが男の髪を掴み、吠えるように男を威圧する。
「うそじゃねぇぇぇ・・・許してくれよぉぉぉ」
その酒場に行ってみる必要があるわね。
私はアドルフの服の裾を軽くひっぱり、もういいわとつぶやくと男を残したまま歩いてきた道を戻っていった。




