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プロローグ・王都にはいきませんわ!

私は着替えを済ませ、水場へ戻るとお兄様の姿が見えた。

先ほど休憩に来ていた生徒たちの姿が消え、辺りは静けさを取り戻していた。

水の吹き上げる音や鳥の囀りが耳に届く。


私は早足でお兄様へと駆けよると、腕にしがみつき、商人達へ鋭い視線を投げる。


「今日のお出かけはここで終了ですわ、さようなら」


それだけ言い残すと私はお兄様の腕を引っ張り家路へと急いだ。


屋敷へ着くと、お父様が突然のルーカスの登場に目を丸くしながら、よく戻ったなと優しい微笑みを浮かべた。

2年ぶりの家族3人水入らずの食卓に私は幸せを噛み締めていた。


食事が終わった後も私は部屋へは戻らず、お兄様とソファへ腰かけ王都の話や、学園の生活の話に聞き入っていた。

楽しく談笑を続けていると、突然お兄様が真剣な顔つきで私を見据える。

沈黙が二人を包む。

どうしたのかしら・・・。


「王都へ来るのはいやかい・・・?」


予想もしていなかった言葉に、私は驚き目を丸くする。

お兄様まで・・・?


私は項垂れると、イヤイヤと首を横に振った。


「そっか・・・なら、いいんだ。かわいい妹を無理に王都へ連れて行く事はしないよ」


お兄様まで私を王都へ連れていきたいと思っていることに、何かがひっかかった。

なぜ私そんなに王都へ連れていきたいの・・・?

でもこれを聞いてしまえば、もう逃げられない気がする。

気まずい雰囲気が私たちを包む中、私は話題を変えるように明るい声でお兄様に問いかけた。


「ねぇ、お兄様は王都でもう良い婚約者を見つけましたの?」


私はお兄様の胸に寄りかかりながら答えを待つ。

肩にのっていたお兄様の手が私を抱き込むように、私の頭を強く胸へと押し付ける。


「・・・・・・今はまだ見つかっていないんだ。」


私を抱きしめる腕に力が入り、顔をあげることができないため、お兄様の表情を確認できない。

そんなお兄様の様子に困惑していると、話はここまでにしようかとお兄様は抱きしめていた手を緩め、徐にソファーから立ち上がると、私に背を向けたまま部屋へと戻っていった。


お兄様を見送り自室へと戻ると、エイブラムが私の前に現れた。


「嬢さん、あの怪しい商人たちと接触したようだな。大丈夫だったか?」


彼の問いかけに、私は深いため息を落とす。


「えぇ・・・彼らは怪しいというより・・・そうね、面倒な輩だったわ・・・」


そんな私の様子にエイブレムは不思議そうな表情浮かべた後、顔を引き締めて私へと向き直る。


「新しい情報が入ったんだ、行方不明だった少女の一人が突然倒れた。医者にも見せたようだが原因がわからないらしい・・・外傷がなく、ただ深く深く眠っている」


「なんですって・・・」


私は眉を寄せる、まさか・・・。

昔、書斎に引きこもっていた時に読んでいた歴史書の一つが頭をかすめた。


「警備兵が捜査を進めているが一向に手がかりが得られていない。嬢さんどうする?」


急かせる様子でエイブレムが私へ指示を促す。


私は手を顎へと添え、ソファーへ深く腰掛けると奇怪な事件についての情報を整理し、思案する。


今動くのは危ない気がするが・・・このまま被害がどんどん広がっていく事は避けたい・・・。

さて、どうしようかしら。


トントントン


静けさがおとずれた部屋にノックの音が響いた。

エイブレムは慌てたように入ってきたであろう窓へ足を進めると、月が雲に隠れ暗闇となった外へと走り去っていった。


「お嬢様、夜分遅くに申し訳ございませんが、至急お耳に入れたいことが・・・」


私は扉のノブへと手をかけアランを自室へと招き入れる。

アランは神妙な面持ちで私へと視線を向けると声を押さえるように静かに話した。


「メイドの一人が消えました。」


私は彼の言葉に眉を顰める。

どういうこと・・・?

昔エイブレムの侵入があってから、私の屋敷で働いているメイドや執事には、皆一様に剣術や武術を習得させ、戦えるように訓練し身につけさせている。そんな彼女たちがそんじょそこらのごろつきには負けなるはずがない・・・。


「本日、買い出しに向かわせていたメイド一人がなかなか屋敷へ戻らないので、アドルフへ伝達し捜査の依頼をかけたのですが、見つからず・・・彼の見解では奇怪な事件に巻き込まれたのではないかと・・・」


私は黙ったまま彼の言葉に耳を傾ける。


私の屋敷の者に手を出すなんて良い度胸じゃない・・・。

迷っていても始まらない、絶対に彼らの尻尾を暴いてやるわ・・・。


行方不明になったメイドについての情報を聞き、父の書斎に在る先ほど脳裏によぎったあの本をすぐに私へ届けるように命じる。


「報告ありがとう、アランもう一つ手配してほしい物があるんだけど・・・」


私は背伸びをし彼の耳元へ唇を寄せ、誰にも聞こえないようにそっと囁いた。


かしこまりました、と返事をした彼は私の胸元へと目を向け、何かを言いたそうな表情を浮かべる。

そんな彼の様子に私はニッコリと微笑むと、彼は何も言わずに部屋を出て行った。


薄暗い部屋の中、青く光るネックレスが月明かりに照らされて私の胸元で輝いていた。


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