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閑話 アドルフとの関係・前編

俺の父ちゃんは男爵家で、王都の中でも有名な騎士だった。

でも母ちゃんと出会って、王都からこの辺境の地へ移住し、今は剣の先生や警備兵の教育をしている。

母ちゃんはこの街で食堂をひらいていた平民だった。

何でも王都の食堂へ働きにでたときに、父ちゃんと知り合ったらしい・・・。


父ちゃんと母ちゃんは仲が良く、おしどり夫婦として街で有名だ。

そんな二人から生まれたのがアドルフ、俺だった。


そして俺の爺ちゃんは昔この地で戦争があった頃、隣国からこの地を守った英雄として有名だった。

5万の兵にたった数千の兵で追い返した話は有名だ。

俺はそんな爺さんを尊敬し、憧れていた。


3歳で剣を持ち、俺は爺さんの真似をしてよく剣の素振りをしていた。

いつか俺も英雄になってやる!

そう意気込んでいる俺に爺さんは、


「英雄になるよりも、たった一人を守れる力を手に入れなさい」


そう話した爺さんの言葉の意味は幼い俺には理解できなかった。


毎日毎日金魚の糞のように爺さんの後を追いかけ、剣術の教えてもらっていた。

俺が7歳になった頃、父さんは領主に呼ばれたらしく領主の屋敷へと出掛けていった。

爺さんと剣の練習をしながら俺は父さんの背中を見送った。


その日から父さんは、毎日領主の邸宅へと向かうようになった。

そして戻ってくると、難しい表情を浮かべ何かをじっと考え込んでいた。

俺は庭で素振りをしながら、眉間にしわを寄せる父さんの様子を眺めていた。

そんな日が半年ほど続いたある日、爺さんが俺に声をかけてきた。


「明日の稽古はなしだ、アドルフ、領主の邸宅へ行ってきなさい」


爺さんの突然の言葉に意味が分からず目を丸くしたが、俺は黙って頷いた。



俺は正装を纏い、腰に剣を下げ、父さんの後に続くように大きな門を潜る。

左右に広がる見事な庭園を横目に、屋敷へと足を進めた。

すれ違う執事らしき人たちが俺たちへ礼をとっていく中、正面にでかい扉が見えてきた。

父さんは執事へ何かを告げると、俺に目を向けた。

俺も父さんに視線をあわせるが、何も言わないまま、また正面へと向き直った。

父さんはこんなとこで何をしてんだろう・・・?

そんな事を考えていると、扉がゆっくりと開いた。

そこには純白のワンピースを身にまとった、淡い赤髪の可憐な少女が淑女の礼をとっていた。


「ようこそ、お越しくださいました」


彼女は子供らしい笑顔を父さんと俺に向けると、屋敷の中へと案内する。

彼女は俺をじっと見つめると、宜しくお願いしますわと笑顔を向けた。


案内されるまま屋敷の中を進んでいくと、広い庭へと出た。

ここの庭は俺が歩いてきた庭園とは違い、花は咲いておらず、空き地のような空間になっていた。

彼女は庭にあるテラスへ案内すると、着替えて来ますわと俺たちを残し去っていった。

父さんはどうして俺をここに連れてきたんだ?

俺は横目に父さんを確認するが何の反応もない。

婚約者の紹介ではなさそうだしな・・・。


戻ってきた彼女は、肩まで伸びていた赤紫色の髪を一つにまとめ、先ほどきていたドレスとは違い女性にあまり見ない動きやすい服に、ズボン姿だった。

ふと彼女の腰に目を向けると、そこには剣をぶら下げていた。

まさか・・・・!


おれは焦ったようすで父さんに目を向けると、彼女の可愛らしい声が聞こえてきた。


「改めて、宜しくお願いしますわ」


そう言うと華奢のように見える彼女は、父さんの前で剣を構えた。

俺たちの前で、彼女はまだ拙い剣を振り抜いていく。

何度も何度も、彼女の額に汗が流れ始めた。

彼女の様子を見た父さんは、彼女に走れと指示をだすと、彼女は汗をそのままに走り出した。


「アドルフ、お嬢さんと打ち合ってやってくれないか?」


「おれは女と剣術ごっこなんてする暇はねぇ!こっち遊びでやってんじゃねぇんだよ」


俺は咄嗟にそう怒鳴り返すと、必死に走っている幼い彼女の悲しそうな様子が目を掠めた。

走り終えた彼女は父さんの前に来ると真剣な顔つきで、


「師匠、私の実力ではご子息様にまったく歯が立ちませんか?」


彼女は父さんを師匠と呼んだ。

師匠……?


「そうだな、最初は怪我もすると思うが・・・打ち合えないことはない」


彼女は真剣な眼差しで俺を見据えると、頭を勢いよく下げた。


「どうかお願いします、私と剣を交えて頂けないでしょうか」


「ちょっとまて、お前は女だろう……?剣なんて必要ねぇだろう」


そう諭してみるも、彼女は頭を下げたままだ。


「顔を上げろ、俺は遊びで剣はむけねぇ」


彼女は面を上げると、瞳が悲しそうに揺れていた。

彼女はその後何度も何度も俺に頼み込んできた。

それを俺は突っぱねる。


「私は強くならねばならないの……絶対諦めないわ」


そう呟いた彼女に俺は困惑した表情を浮かべた。

なんで女がそんなに……?



それから父さんは屋敷へ幾度に、俺を連れて行くようになった。

俺の剣を教えてもらいながら、彼女の剣を練習する姿を見ることが日課となっていった。

彼女は父さんの鬼のような指導にまったく凹むことなく、汗だくになりながら剣を振り続けた。

俺の顔を見れば剣を打ち合わせてくれとせがみ、最近は不意討ちで剣を向けて来ることもあった。


「そろそろ、彼女の意気込みを認めてやってもいいんじゃないか?」


父さんはそう語りかけると、俺は足元に目を向け唇を咬んだ。

俺はぶっきら棒な態度で素振りをする彼女へ近づいていくと、


「打ち合ってやってもいい」


そう言い放つと彼女は、見惚れるような美しい笑顔を浮かべた。

その笑顔があまりに眩しくて俺は一瞬惚けてしまった。

俺は慌てて我に返ると、背伸びをして、赤くなった顔を見られないように、彼女の頭をクシャクシャにした。


「そのかわり、怪我しても泣くんじゃねぇぞ!!」


そうぶっきらぼうに答えてやると、彼女は嬉しそうな表情を浮かべながらに、大きく頷いた。


そこから彼女との剣の打ち合いが始まった。

よくよく父さんに彼女の事を聞くと、彼女はまだ5歳だと教えてもらった。

父さんは当初剣を学ぶことを諦めさせるように、かなり厳しい指導を行っていたらしい。

しかし彼女はそんなきつい指導にめげる事無くついてきたようだ。

5歳でしかも女なのに・・・どうしてそこまで必死になんだ、こいつは・・・。


最初の頃は俺に吹き飛ばされ、怪我が絶えなかったが、次第に剣を打ち合えるようになった。

俺も負けてはいられないな。

俺は彼女と真剣に向き合うようになっていった。

彼女の剣に対する姿勢や、剣の技術を認めていく中で、普通の令嬢とは違う彼女に次第に好感を持っていった。


彼女が笑うと俺も嬉しくなる。

彼女が怪我をすると悲しい気持ちになった。

彼女と過ごす時間が増え、彼女の行っている改革や事業の事なども話してくれるようになった。

彼女は事業を進めていくにあたり、何度も危険なところへ率先して足を運ぼうとした。

その度に俺は彼女を止め、叱りつけるが、その場は反省の色を浮かべるものの、治ることはなかった。

はぁ、お転婆もほどほどにしろよ・・・。

俺は彼女の行動を止めることを諦め、彼女が怪我をしないように動くことに徹底するようになった。


そんなある日彼女にずっと思っていた疑問を口にしてみた。


「なぁ、なんでお嬢はそんなに強くなることに必死なんだ?」


彼女は俺の言葉に困った笑顔を見せると、


「自分の身は自分で守りたいのよ」


彼女は5歳とは思えない大人の表情を浮かべ、どこか遠くを眺めていた。

そんな彼女の姿にどこかに行ってしまいそうな不安を覚える。

俺は徐に彼女の頭に手を伸ばすと、髪を思いっきりクシャクシャにしてやった。

すると彼女はいつもの表情に戻り、俺はほっと息を吐いた。


そうして一年の月日が流れた。

彼女の手は令嬢とは思えぬ剣だこができていた。

そんなある日彼女は午前中の剣術が終わると、汗を拭きながら、楽しそうに俺の元へやってきた。


「新しく孤児院を運営することになったの!アドルフも時間があるとき一緒にきてくれないかしら?」


「孤児院・・・?慈善事業でも始めたのか?」


「ふふふ、まぁそんなところね」


可愛らしい笑みを浮かべた彼女に俺はなぜか目を逸らした。



数日後、俺は彼女の後についていくと真っ白な建物が見えてきた。

門を開けるとそこにはたくさんの子供たちが集まってきた。

彼女は剣を打ち合うときには見せたことがない優しい微笑みを浮かべ、自分と同じぐらいの子供たちにパンを配っていった。


彼女は孤児院の子供たちに文字や計算を教えているようで、俺も子供たちの後ろで一緒に聞いていた。

彼女はあるとき、剣術に興味のある子どもが何名もいることが分かると、俺の父さんを呼んで孤児院で剣術の指導を始めた。

それからは俺も孤児院に行くことが日課となり、孤児院の子供たちに交えて剣を振ることになっていった。


そんな生活が進んだある日、広場で剣を学んでいると、彼女が知らない少年と楽しそうに話している姿が目に入った。

あいつ、だれだ?

俺はそんな二人の姿を遠くからじっと見つめていた。

心がモヤモヤする中、どうしてこんな気持ちになるのかその頃の俺は分からなかった。


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