閑話 アランの心情・前編
残酷な描写があります。苦手な方はお気をつけください。
僕は物心ついた頃から一人だった。
父と母がいない・・・僕と同じような境遇の子供たちと町の片隅でひっそりと過ごしていた。
お金がなく食べ物を買うこともできない僕は、人の畑から食べ物を盗んだり、残飯などを漁る毎日だった。
街へ出れば、汚らしいと石を投げられ、どこかにいけ!と煙たがられる。
僕はそんな存在だった。
そんな生活の中、目的もなくただただ過ごしていたある日、綺麗な服をきた男に声をかけられた。
「可哀そうに、君も私の家においで、美味しいものがいっぱい食べられる」
ニコニコ笑うおじさんに、僕は怪しいと思いながらも美味しいご飯が食べたくて・・・
つい手をとってしまった。
そこから僕の地獄の生活が始まった。
真っ白い部屋に案内されたかと思うと、僕以外にもみすぼらしい服を着た小さな姿がたくさんあった。
僕は怖くなって逃げ出そうとしたが、僕をつれてきたおじさんは僕を軽々と持ち上げると、ゴミのように部屋の中へと投げ捨てた。
地面がぶつかった痛みで床に踞ると、扉が閉まり世界は真っ暗になった。
部屋の中には泣き叫ぶ子供もいたが、泣き声を聞きつけた数人の男たちが勢いよく扉から入ってくると、泣き叫ぶ子供を殴り付け静かにさせていく。
僕は小刻みに震えながらその様子に目と耳をふさいでいた。
それから僕たちは朝早く、見たこともない山へと連れていかれ、男も女も関係なく、手が痺れるまで岩を削り、土を掘らされた。
太陽が沈みきると大人たちは、僕たちをロープで繋ぎ、山を下らせる。
真っ白な建物に戻ると、一日一食の硬いパンと冷たいスープを与えられる・・・そんな日々だった。
毎日、毎日、毎日、毎日・・・・休みなく地獄が続く。
そんな生活の中で逃げ出す者や倒れた者もいたが、待機している数人の大人たちに捕らえられ、袋に詰め込まれると、そのまま山の奥へと消えて行く。
連れていかれた子供達に二度と会うことはなかった。
手の皮はむけ、血が固まっていった。
服や体は薄汚れ、異様な臭いがし始める。
栄養失調により体は痩せ細り、真っ直ぐ歩けなくなっていった。
僕は生きることが辛くて、怖くて、苦しくて・・・でも死ぬのも嫌だった。
僕の周りにいた子供が一人減り、また一人減り・・・
真っ白い部屋を埋め尽くしていた子供たちは、一年たつ頃には数十人になっていた。
出口見えない絶望の中、僕は次第に手や足に力が入らなくなってくる。
あぁもう僕は死ぬのかな、そんな事を考えていると、瞼の裏で血走った目をした僕がまだ生きたい、こんなところで死にたくない・・・と強く訴えてくるのだった。
ここへ来てどれぐらい経ったのだろうか・・・。
部屋の中で今日もグッタリと横たわる僕は空を見つめていた。
意識が遠退き、瞼を閉じようとすると、外が何やら騒がしいことに気が付いた。
僕は慌てて起き上がると、震える足を丸め、部屋の隅へと身を隠す。
ガクガク
あいつらまた僕たちを殴りにきたのかな・・・・。
ドンッ
勢いよく白い扉が開いた。
僕は隠れるように体を小さく丸め、恐怖に体を震わせる。
しかしいつもの野太い声が聞こえない。
僕は恐る恐る顔を上げるとそこには・・・
僕と同じぐらいだろうか、幼い顔立ちをしたお姫様のような少女が立っていた。
月明かりに照らされ淡い赤の髪が輝いて幻想的だった。
彼女は部屋にいる子供たちに目を向けると、苦しそうな、そして悔しそうな様子を見せた。
「来るのが遅くなってごめんなさい、すぐに温かいパンとスープ用意させるから待っていて!」
そう叫ぶと彼女は扉の向こうへと消えていった。
僕はあの時食べたパンとスープの味は一生忘れることはないだろう。
翌日、彼女は朝早くから僕たちのところにやってくると、また温かいパンと果物を持ってきてくれた。
いきなり食べるとお腹がビックリしちゃうから気を付けるのよ!
彼女はそう言いながら僕たちが食べている姿を笑顔で眺めていた。
そんな神様みたいなお姫様は食事はもちろん、僕たちに新しい服を与え、医者を呼び、僕たちに治療を施してくれた。
皆が元気を取り戻し、静かだったこの部屋に笑い声が聞こえるようになった。
そうして、彼女と僕たちの生活が始まった。
彼女は僕と同じ6歳だとそう聞いた時は正直驚きだった。
堂々として常に毅然とし、大人に交じるように会話しているお姫様は、どうみても僕と同じ年だとは思えなかった。
彼女は白い部屋にいた子供たちに字を教え、計算を学ばせていく。
一通り出来るようになると、そこから子供たちの意見も交えつつ様々な事を学ばせてくれた。
騎士になりたいとの声を聞けば、自分の邸から連れてきた剣の先生を招き、剣術の指導を行った。
彼女自身も相当な剣の腕前だったことに驚きだった。
商売がしたいと言えば、彼女はどこからか商人を連れて来ると商人達の声を交えながらノウハウを教えてくれた。
メイドになりたいと言えば邸からメイドを呼び、礼儀作法の授業をひらいた。
絵描きになりたいと言えば、彼女は顎に手を添え、考える表情をしたかと思うと、急いで紙とペンを用意し、目に見える物を皆で描いていった。
彼女のそばにいる誰もが、彼女の事を好きになった。
もちろん、僕も・・・。
僕は彼女の前だと緊張してうまくしゃべれない為、挨拶や軽い会話ぐらいしかしたことがなかった。
もっと彼女と話がしたいのに・・・
そんな事を考えていたある日、彼女は経済について学んでいた僕のノートをじっと見つめると、驚いた様子で目を大きく見開き、僕に話しかけてきた。
この日を境に、僕は彼女と良く話をするようになった。
彼女は・・・僕には手のとどかない存在だった彼女が僕に経済学や、社会制度、公民と様々な知識を僕だけに与えてくれた。
それが嬉しくて、楽しくて・・・僕は彼女の期待に応えるように更に深い知識を身につけ吸収していった。
僕が10歳なったある日彼女が
「ねぇ、アランまだ将来の事決めてなかったよね?、もし興味があれば・・・私の専属執事になってくれないかな!!」
僕は嬉しさのあまり躍りだしそうな心を抑え、冷静を装いながら謙遜の言葉を口にした。
そんな僕に彼女は
「アランがいいの!!」
そう言い切り、僕の手を強く握った彼女に、僕は最高の笑顔を浮かべ引き受けた。
それからすぐに僕は彼女の邸へと案内されると、まずは邸の執事として教養を身につけながら、彼女を守る存在として、体術や剣も習得していった。
そうして僕が12歳になった日、ようやく彼女の専属執事に昇格した。
彼女はこの数年で体に丸みがおび、元々美しい顔立ちが大人びたことで色気を纏うようになった。
僕はそんな彼女前へ跪くと、彼女の手の甲へ忠誠のキスを落とした。




