第一章 側近VS執事・パーティーにて(戸籍の男編)
私たちはレストランを後にし、パーティーが行われる侯爵家へと向かった。
侯爵家に近づくと静かだった街並みにざわめく声が聞こえてきた。
私は手にもっていた扇子で口もとを隠し、招待状をアランに用意させる。
受付に着くと、あの優男が立っていた。
私は優男にさりげなく横目で流しみた。
アランが丁寧な動作で招待状を手渡すと、お通り下さいと優男は深く礼を取った。
それに続き、ルーカス様の紹介で訪れた商人だと証明書を提示しすると、ガゼルも難なくパーティー会場へと案内された。
ガゼルがパーティー会場へ着くと、会場にいた多くの女性たちが、現れたガゼルに目を光らせ、熱い視線を送っているのに気が付いた。
あれだけ端正な顔立ちと、さらにここへ参加できるような実力のある男なら女性が放っておくわけないわよね。
ガゼルは会場のアーチを潜り抜けると、あっという間にハイエナのような女性陣に取り囲まれていた。
私はそんな彼を横目に、アランを連れて自分の仕事へと移った。
会場に着くと、この街に住む貴族、街の有力者や商人たちが犇めきあっていた。
私はアランを引き連れ、面識のある者へと挨拶へとまわる。
一通り挨拶を終えると、一息つくように会場の隅っこへと避難し、主催の侯爵家が現れるのを待った。
会場の話声が消え、皆の視線が一点へ集中する。
私もその視線の先を追っていくと、このパーティーの主催者である恰幅のよい侯爵家の男が姿を現した。
「本日は皆さんお集まり頂きありがとうございます、このパーティーを有意義にお楽しみください。」
そう男が挨拶すると、侯爵家の周りに人が集まっていく。
私たちもそれに並ぶ様に足を進めた。
淑女の礼を取り侯爵家の男に微笑みを浮かべると、男は私の姿を驚いた様子で眺めていた。
私が挨拶を行うと、男は私を見定めるような視線を向ける。
何かしら・・・気持ち悪いわね・・・。
私はアランを下がらせ、彼の視線から逃れるように背を向けた。
主催の挨拶も終わり一息つくと、アランに飲み物を取ってくるように命じ、私はまた人が少ない中央から離れた場所へと移動する。
「ようこそいらっしゃいました、領主の大切にされているお嬢様がお見えになられるとは嬉しいかぎりだ。お体の方は宜しいのですか?」
突然の図太い男の声に視線を向けると、このパーティーの主催である侯爵家の男が立っていた。
「はい、最近は少しずつ回復に向かい、こうやってパーティーにも参加できるようになりましたわ。今日は貴族の中でも、とても有名な侯爵家様から招待状を送っていただき、わたくし楽しみにしておりましたの」
そう微笑みを浮かべながら話す私の胸元へと、男はあからさまな視線を向け、にやけた笑顔を浮かべたかと思うと、お楽しみくださいと私の前から消えていった。
バカな男、あんな露骨に見るなんて。
あいつが主犯で、執事がやらされていると考えていたけど・・・この会場であの男の会話や行動を見る限り、そこまで考える力はなさそうね・・・。
まぁ、あれが演技って可能性もあるけど・・・。
私は近くにあった椅子へと腰かけ今日の計画を整理する。
今日の作戦は、アドルフが指名した警備兵の優秀な者を3名用意し、私がパーティー会場に入ったのを確認した後、侯爵家の屋敷へと侵入する。
パーティーにも警備が必要な為、こちらの会場に人員を割くことで本宅が手薄になるこの日がねらい目だった。
侯爵家の男の部屋は事前に調べており、警備騎士たちに見つからないように侵入経路もバッチリだ。
後は、戸籍を売った決定的証拠を見つけ、あの男が逃げさないように、そして・・・自室へと足を運ばないように、私たちが男を監視しておく。
そうして証拠を見つけた後、この会場へと警備兵が乗り込み確保する予定だ。
私は立ち上がると侯爵家の男と、優男の執事の行動に目を光らせながら、近くで話していた貴族達の会話へ紛れ込んでいく。
私はまだ戻らないアランを探すように貴族達の話に相槌をうちながら、会場を見渡していると、この屋敷のメイドなのだろうか、会場で何かを探すようにウロウロしている黒髪にツインテールの愛らしい少女が気になった。
彼女どうしたのかしら?
彼女の姿を目で追っていくと、彼女は侯爵家の男に近づき何かを耳打ちすると、男は満足そうな微笑みを浮かべていた。
侯爵家の男は貴族たちの輪から離れ、本宅へ戻ろうと足を進める。
まずいわね、引き留めないと。
私はそっと貴族の輪から抜け出し、侯爵家の男の後を追った。
本宅へ足を進めていると、優男が突然私の前へと姿を現した。
私は咄嗟に、表情を隠すように扇子を持ち上げる。
扇子を口元にあてたまま優男を凝視すると、男は優しそうな笑顔を浮かべ私の耳元へと顔を近づける。
「主がお呼びでございます、お越し頂いてもよろしいでしょうか?」
私を呼び出すという事は、自室に戻るわけではなさそうね・・・。
何が目的かしら。
私はもう一度アランの姿を探すように会場を見渡すが、彼の姿はどこにも見当たらない。
嫌な予感がするわ・・・。
私は口もとを隠したまま、わかりましたわと答えると、優男の後につづいた。
本宅へと入り、優男の背中を追いかけるようについていくと、扉の前で立ち止まった。
耳を澄ませると中から何か揉めているような声が聞こえてくる。
優男は私へと振り向くと
「あなたの執事が、主の宝石を盗んだようで・・・今こちらで取り押さえております」
私はその言葉に驚愕の表情を浮かべる。
アランはそんなことするはずない、でも一体何のためにアランに濡れ衣をきせるのかしら・・・。
私は優男を鋭い目つきで、睨みつけるように見据えると、男は微笑を浮かべた。
そしてゆっくりと扉に手をかけ、私を部屋の中へと招き入れた。