第一章 側近VS執事・作戦会議(戸籍の男編)
建物が立ち並ぶ繁華街をすぎ移り変わっていた景色が次第に速度を落としていくと・・・
馬車は金持ちや貴族が集まる地区の近くで停止した。
ガゼルは先ほどの見せていた不自然な表情がなくなり、自然な様子を見せていた。
彼はさりげなく私の手をとりスマートにエスコートすると、私を馬車の外へと案内する。
さすが公爵家のおぼっちゃまね、鮮やかなエスコートだことで・・・。
彼にエスコートをされる私を見たアランは、馬車を停めると急ぎ足でこちらへと近づいてくると・・・
ガゼルと私の間へ割り込み、ガゼルに握られていた私の手が離れた。
アランはエメラルドの瞳で私をじっと見つめると、深い微笑みを浮かべ、そっと私が先ほどガゼルと重ねていた手をとった。
うん?アラン、どうしたのかしら・・・?
私はアランと手を重ねたまま、先にレストランの方に挨拶がしたいからと、アランに視線を送り耳元でボソッと、ガゼルがこちらに来ないように指示を出し、目と鼻の先にある店を指さした。
私は彼らを残し、予約していたレストランへと先に足を運ぶ。
彼女の後を追おうとしたガゼルをさりげなくアランは静止させると、彼女の去っていく背中を眺めていた。
静止させたアランに視線を向け、彼女のいなくなった馬車の前でガゼルが話し出した。
「男の過剰な嫉妬は見苦しいよ、それに私にそんな態度をとっていいのかな?これでも私は公爵家だよ」
「ルーカス様より許可をいただいておりますので、それとガゼル様がお嬢様に手を出そうとすれば、いつでも邪魔してくれとおっしゃっておりました。」
二人は笑顔を深めるとお互いに視線を交わしにらみ合った。
そんな様子を人通りが少ない広場にきていた、数人のご令嬢らしき女性たちが、離れた場所からキャキャと騒いでいた。
そんな二人の様子などまったく知らない私は、
早朝で人の行き来が少ない広場を抜け、貴族に人気のあるレストランへと足を運ぶ。
このレストランは私が前世の知識を利用し、この世界にない新しいレシピを提供している。
外部へ漏れないように注意を払い、この店だけでしか味わえない様々な料理を作らせている、私のギルドが管轄しているレストランだ。
貴族たちは新しい物好きが多く、このレストランはかなり売り上げを伸ばしている。
さらにここで食事をできることに価値を高めるため、全席予約制にし一日数十組しか食事を行えないようにした。
今も数年先まで予約がいっぱいだ。
ここには私自身が育てた信頼のできる者を忍ばせているため、内密にしたい話などを行うのには安心して使うことができるようにしてある。
ギルドを通して事前に、領主の娘として予約はしており、信頼できる者に挨拶を行うと、2人から3人へ増えてしまった旨を伝え3人用の個室へと変更してもらう。
そしてアドルフ宛の一通の手紙を、信頼できる者に手渡すと伝達をお願いした。
まだ話したいことがあったが、ガゼルとアランをあまり待たせるのも悪いと思いレストランを背に、彼らを呼びにいく。
彼らが待機している広場の反対側にイケメン二人が、見つめ合っている姿が目に入った。
見つめ合うほど仲良くなったのかしら?
それにしても端正な顔立ちの二人が並ぶと女性陣の視線が集まるわね。
私は人通りの広場に来ていた数人の令嬢たちを見渡し、彼らの姿に頬を染めている姿を眺めた。
私は令嬢たちの羨むような視線を振り払いながら、見つめ合う二人に近づくと、そっと声をかけ、レストランへ誘った。
変更した3人用の個室に入るといつもアランが椅子をひき、エスコートするところをガゼルが先に行動に移した。
私はそんなガゼルに口もとを扇子で隠しながら微笑みを浮かべ席へとついた。
「ところで、ガゼル様はお兄様から何か聞いているのかしら?」
「えぇ、パーティーに参加する旨と、後ルーカスから招待状も預かっておりますよ」
ガゼルは懐からルーカス宛であろう招待状を私へと見せる。
お兄様いつの間に・・・私がこのパーティーに参加することをお父様に聞いたのかしら・・・?
でも今日のパーティーの本当の目的は、知らなそうね・・・。
協力すると言ったが・・・私は付き合いの浅い彼を素直に信用はできない。
どこまで話そうかしら・・・。
考え込む私の様子にガゼルは出会った頃のような不自然な微笑みを浮かべていた。
「今日パーティーに参加するのは、主催している侯爵家の男に用があるからなの」
「あの侯爵家ですか、彼は昔王都にいたことがあるので知っておりますよ」
「それはわかっているわ、でもあなたに迷惑をかけたくないの。彼のお父様は王都で重要人物でしょ?お兄様に頼まれたからと言って、あなたを危険に巻き込むつもりはないのよ・・・。本当はここであなたと別れて行動したいところけど、きっとそれはお兄様から頼まれたガゼル様が許してくれないでしょ。なので私の目的を達成する為にもガゼル様だと気が付かれないように商人として今回パーティーに参加してもらえないかしら?」
一気にまくし立てた私の言葉を聞くと、ガゼルは嘲笑した。
「ふふふ・・・かまいませんよ、でも助けが必要になればいつでも言ってくださいね」
まるで彼の力が必ず必要になると言うかのように彼は私を見据える。
伝えたいことは伝えた。彼の地位は利用できるが、なるべく使いたくないわね・・・。
私は彼を一瞥し、先ほどの信頼できる者に話をするため、席をはずすとアランに視線を送り個室を後にした。
はぁ・・・ガゼルがいなければ、あの部屋で今日の打ち合わせができたのに、まったくもう・・・。
私がいなくなった個室では
アランはガゼルの様子を確認するように視線を向ける。
そんな様子のアランをみてガゼルが頬杖を突き話しかけた。
「ルーカスが今回私を同伴で連れてきた理由が分かったよ。彼女は君を信頼し、そして仲間を守ろうとする姿勢美しいが愚かだ。君も彼女の為ならなんだってするその関係性では君が彼女を守り切れないだろうね」
「どういう意味でしょうか」
アランの瞳が鋭さを増していく。
「君は執事だから、彼女の為なら命も惜しくない覚悟で寄り添っていることは問題はないが、彼女も君を信頼し君を大切に思っている。彼女の様子を見ていて思うんだけど、彼女は君に何かあれば守ろうとするだろう?もしくは君が危険にならないように配慮をしていたり、今まで覚えがあるんじゃないか?」
アランは眉間にしわを寄せ何かを考えるようにガゼルを見つめる。
「今回は貴族だ、相手が悪い。君は平民から彼女の執事になったんだろう?この街は王都に比べると貴族と平民との関係性がそこまで開いていないが、今回主催している侯爵は生粋の貴族だ。彼が白と言えば黒くても白にしてしまう力がある。」
「だから、何が言いたいんでしょうか」
「君を危険に巻き込まないように、貴族が絡んでくると君を遠ざけるかもしくは、君に何かあれば、彼女は助けようと、守ろうとするだろうね。」
嘲るように微笑む男にアランは鋭い目を投げる。
「そんな目で見ても何もかわらないよ、今回何をするのかは知らないが・・・貴族と正面から勝負をかけるのなら私の力が必要になるだろう、君だけじゃ彼女を危険にさらすだけだ」
アランは何も言わず、ガゼルから視線を逸らすとこぶしを強く握り締めた。
私が戻ると、なぜか部屋には重い空気が流れていた。
どうしたのかしら・・・?
私はアランへと視線を向け、様子を伺うといつもよりも元気がないように見える微笑みを浮かべていた。
ガゼルが何かアランへ言ったのかしら?何があったか後でアランに聞きかないと・・・。
私は嘲るような笑みを浮かべるガゼルを強く睨みつけた。
私の鋭い視線に気が付いたガゼルはニッコリと微笑みを浮かべこちらを見据える。
ここでにらみ合っていても仕方がないわ。
「もう少しでパーティーが始まるわ、行きましょう」
私は二人にそう声をかけると視線を一度も合わせることがない二人が黙ったまま席を立った。