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閑話・王都に居る少女の話2

学園へ到着すると、貴族や平民が混ざりあう学園の門を抜け、入学式の会場となる場所で私はお目当ての攻略対象者を探し歩く。

しかし人が犇めくなか彼らを見つけることができない。


まぁ入学式が始まれば必ず一人は会えるものね、ふふふ。

入学式が始まると、学園の代表者であるガゼル様が壇上に上がり、入学生への挨拶が行われるんだから。


私は胸のトキメキを抑えきれず、終始ニヤニヤした表情で壇上を見上げる。

会場の雑音が消え、ライトが消されると壇上に光が集まる。

舞台の袖から優雅に歩いてくる一人の男性のシルエットが見えた。

やっときた・・・!


ゆっくりライトに照らされた舞台に上がり面をあげ、生徒達を見渡しているのは、平凡な容姿の貴族らしき少年の姿。

えっ誰・・・?

あれ?おかしいなここで彼が登場するはずなのに・・・。

平凡貴族少年は簡単に挨拶を済ませると壇上を後にした。

次ね、きっとかれは前振りなのよ。

ゲームで今の彼の登場は省かれていたのかもしれないわね。


しかし次に登場してきたのはピシッとスーツをまとった50代ぐらいの男性だ。

え・・どうして?ここで彼との最初の出会いが壇上越しで始まるはずなのに。

えええ・・・なんでなんでなんで!!


そうこうしているうちに入学式は終了し、会場が慌ただしくなった。

放心状態の私は気を取り直し足早に会場を抜け、次の攻略対象と出会う為この学園で一番大きい木がある校庭裏へと急ぐ。


はぁはぁはぁ・・・よかったまだ誰もきていないようね。

木のほとりで腰かけ、ゲームにも登場していた黒猫を見つけ抱きかかえる。

これでバッチリよ!

ここで始業式の始まりの鐘が鳴り響いた後、学園を見回りをしていた彼に発見されるの!


学園の始まりのチャイムが鳴り、そろそろ彼がくる・・・

猫を抱きしめドキドキして待っていると・・・

清掃のおじさんのようなモップとバケツを下げた、デップリとした体格の人がこちらへやってくる。


「君、もう始業の鐘が鳴っただろう、はやく教室へ戻りなさい」


私は唖然とその言葉を聞く。

ちょっとまって・・・その言葉を言うのはあなたじゃない!!!

彼なのよ・・・、ちょっと・・・どうなってるのよ・・・。

私はうつむき加減で、すみませんと謝罪した後、デップリしたおじさんをすり抜け教室へと走っていった。


どうなってるの?なんでなのよおおおおおおお!

と走りながら心の中で叫び声をあげた。


次こそ、彼は同級生だから教室にいけば会えるはずよ!

私は入学生が集まる教室の前へとやってくる。

ゆっくり教室の扉を開けると、シーンと静まり返った生徒たちの視線が私へと集中する。

すみません、道に迷ってしまって・・・と先生へ伝えると俯き加減で足早に空いている席へと腰かけた。

窓際の後ろから2番目、ここは乙女ゲームの主人公が座っていた席で間違いない!

彼は私の席の隣になって、眩しい笑顔を見せてくれるのよ!

隣にいるはずの彼の姿を確認するため、私はワクワクしながら隣の席へゆっくり視線を向けると・・・

そこには・・・平民をバカにしたような視線を私へと送る、傲慢な態度の少年の姿があった。

絶望で目の前が暗くなる。

うそでしょ・・・彼はどこへいったの・・・?

私は焦って教室内を見渡すが、彼の特徴であるオレンジヘアーが見当たらない。


ちょっとまって・・・いったいどうなってるの?

私は入る学園を間違えたのかしら・・・?


放心状態のままホームルームは終了し、皆帰宅の準備を始める。


私は何とか気力を奮い立たせ最後の希望、最上級生の彼に出会うために、旧校舎へと走っていった。


人のいない旧校舎へ足を踏み入れると・・・

ピアノの美しい演奏が鳴り響く。

整備されていないボロボロの廊下を歩き私は音のするほうへと足を向ける。

よかった、このピアノの音がならなかったらどうしようかと思ったわ・・・。

彼との出会いはこの旧校舎だ。

美しいピアノの音を聞きつけ、彼が演奏している部屋で彼と出会いが始まる。

次第に聞こえる音が大きくなり、ピアノが置いてあるであろう部屋の前で立ち止まった。

私は息を大きく吸い込むと、静かにドアを開けた。


ピアノの音がとまり、

鍵盤を見つめながら演奏していた深い青髪が目に入った。

あぁ・・・やっと攻略対象にあえた!


彼はゆっくりと顔を起こし開いた扉の方へと視線を向けた。

そこには少し皺が見えるブラウンの瞳と目があった。

あれ?イケメンだけどなんか違う・・・。

彼は私より2歳年上のはずだが・・・。

目の前にいる男性はどう見ても40代・・・?

彼じゃない・・・・!!!


私はその場で崩れ落ちた。


どうかしたのかい?大丈夫?と焦った様子でダンディーな演奏者は私へと駆け寄りと優しく背中をなでてくれる。


誰かしらないおじさまの優しさに自然と涙が出てくる。


こんなに頑張って勉強してこの学園に来たのに・・・

もおおおおおおどうなってるのよおおおおおおおおお!!!!と心の中で悲鳴をあげたところで、私の意識はプツリと途切れた。


次に目が覚めると、ベットの上だった。

仰向けのまま私は視線を動かし辺りを見渡す。

ここは・・・?

真っ白いベットに白のシーツ、壁には液体の入った瓶や薬のようなものが置かれていた。

前世での保健室のようなところだわ。

ふと目線をベットのサイドへ移動させると、先ほどのダンディーな男性が私のそばに座っていた。


「突然倒れてビックリしたよ?大丈夫かい?」


心配そうな顔をして私へと問いかける。


「すみません・・・もう平気です、ありがとうございました。」


そうよかったと微笑む姿にうっかり見惚れてしまった。


「女性があんな人気のない旧校舎に来てはいけないよ、では失礼するね」


あ・・・まって!

と声をかける前に彼は出て行ってしまった。

ベットで蹲り一人考え込んでいると白衣を着た女性が入ってきた。


「あら、目が覚めたの?体調は大丈夫?」


心配そうに私へ声をかける。


「はい、お騒がせしました・・・。すみません。」


「そう、顔色がよくなって安心したわ。あなた外部生よね?寮までの道はわかるかしら?」


私は頷き、白衣の美しい女性にお礼を伝えると寮へと足を進めた。


乙女ゲームの設定では寮でライバルキャラになるはずの令嬢と同室になる。

この学園は貴族だろうが平民だろうが入学すれば寮に入らなければいけない規則があるため、私も家が近いにも関わらず寮へ入らなければいけなかった。

憂鬱だ・・・。

確か彼女はこれぞ悪役令嬢と言う容姿と性格をしている。

確か辺境の地から聡明さと美しさを見込まれ、王都へと呼び寄せられた貴族の一人のはずだ。

母親ゆずりの美しいワインレッドの髪靡かせ、プライドが高く、辺境の地からこの地に来たことで必死になって名のある貴族や王子へとアプローチをかける。

そうして邪魔な女を裏でこっそり処分していくとかだったような・・・。

こわっ!


寮の中へ入ると人の姿はあまりなかった。

指定された自分の部屋の前まで来ると、私は一度深呼吸をし、ゆっくり寮の扉を開けた。

きつい目で睨みつけられると予想し、体を強張らせてたが、目の前にいたのは可愛らしいく微笑む少女の姿だった。

あれライバルキャラじゃない?・・・貴族でもなさそうね。


初めましてよろしくお願いします、と華麗にほほ笑む彼女に私も宜しくお願いします、と微笑みを返す。

軽く挨拶を済ませると彼女は出かけてくると部屋を後にした。

私は、一人となった部屋で呆然と立ちすくむ。

どうなってるの?攻略対象もいない、ライバルキャラもいない・・・

これじゃ乙女ゲーム始まらないんじゃないの?


夜、同室の彼女の安らかな寝息を聞きながら、私はベットの上で座り込む。

今日配布された生徒手帳を見つめ学園の名前を確認する。

学園の名前は私の思い出した記憶と同じ。

攻略対象の年齢も、名前もゲームと同じ。

もちろん彼らの事は乙女ゲームの記憶を思い出したときにリサーチ済みだ。

実際に会ったことはないが存在してるのは間違いない。


彼らがいるはずなのに、この学園にいない。


私はふかいため息をつき、こっそりと自室を出る。

誰もいない寮の廊下をただただ歩き、屋上へとつながる扉を開いた。


冷たい風が頬を冷やし、月あかりがあたりを照らす。

前世のように電気がないこの世界では夜になると真っ暗だ。


暗闇の中夜風を感じ、新鮮な空気をいっぱいに吸い込む。


「もおおおおおおお!攻略対象はどこいったのよおおおおおおおおおおおおおおおお」


と私は誰もいない寮の屋上で叫んだ。


これでプロローグ的なお話は終わりです!続いて第一章に入ります。

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