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7 大宴会を開こう作戦

18位にあがっていました! ありがとうございます!

「さあ、これをどう対処すればよいかしら? 二人の意見を聞かせてもらえないかしら?」


 これ、ただのイベントではないな。王は笑っているけど、ほかの重臣たちはかなり沈痛な面持ちというか、真剣に地図を見つめている。


 一歩間違えば国が分裂したり滅んだりしかねない決断なのだ。みんながそういう顔になるのもわかる。


 そして、それを形の上では御伽衆同士の競い合いだからということにして、議論の俎上そじょうに軽く載せたのだ。


 これを王が考えたとしたら、やっぱり王はかなり頭が切れる。

 そういえば、日本でも将軍がくじ引きで決まった時、最初から細工をしていたのではないかというような説があった気がする。

 当時も、将軍を決めるのにガチのくじ引きをやったはずがない。公平に決めたっていうパフォーマンスだって思った人は絶対いたと思う。このクリスタリアって子も利発な点で選べれたのかもしれない。


 もっとも、暴君や独裁者になって振る舞う人って、たいてい暗愚な人じゃないのが難しいところなんだけどね……。


 さてと、この場合の正解って果たしてなんなんだろう?


 ものすごくわかりやすい答えとしては、強硬論か、慎重論のどっちかだ。

 放っておけば独立に向けた動きを強めるから早く滅ぼせと言うか、うかつに刺激して戦争になると大変なことになるから融和政策をもう少しとってみてはと言うか。


 どっちも言葉だけならもっともなものに聞こえる。


 だけど、そんな誰でも言えそうな提案で、果たして王は納得してくれるだろうか?


 戦争に勝てる確証、たとえば相手の都護府の側近がこっちに内通してるとかいったことを知っていれば、強硬論を出す根拠になるけど、そういう機密に関してはこの世界に来たばかりの僕が把握できているわけがない。


 じっと絵図を見つめる。

 王都と北境都護府の間に何かないか?


 そして、そこに極めて特徴的なものが描かれていることに気づいた。


 とてもきれいな形状をした山が描かれている。

 ナコナ山――付近には大きな湖もあり、湖に映る山並みはとても美しいものとして、この国の詩や歌にもよく出てくる。

 日本で言うところの富士山みたいなものだ。山のふもとには深い森があって、そのあたりがエルフ発祥の地と言われていたりもするらしい。そういったことはクルルックさんの話から聞いた。


 そうか! これを使えばいい!


「ふん、お前はずっと地図を眺めているだけだな。ここはこちらから行かせてもらうぞ」


 どうやらノーチさんのほうはこれは勝てると思ったらしい。こっちは新参も新参だからそう考えるのも無理はない。


「じゃあ、ノーチ、意見を出しなさい」

 王が目でノーチさんに促した。


「はっ! 北境都護府の総督アンタールには弟がおります。このアンタールに次の総督の座を譲ることをちらつかせてやれば、これをこちら側につかすことができます。私には商人の人脈がありますので、密使を送ることも可能でございます」


 得意げにノーチが話した。これは、この人が常日頃から主張していることなんだろう。かなり、自信があるように見える。


「へえ、本当に内部で対立させることができれば、悪いことではないわね」

「はい、敵は総督アンタールのカリスマによって固まっているにすぎません。これが除かれれば、後は北境都護府は無用の長物です!」


 その後も、ノーチさんはこの領主はこちら側につく可能性が高いとか、そういったことを述べて説を補強しようとした。


「――以上、こちらの話を終わります。さあ、カグラとやら、お前はどう出る?」

 勝ち誇った顔で、見つめられた。あまり男に見つめられたくないな。


「まず、もし本当に調略で敵方をこちら側につけられるなら、素晴らしいことだと思います。それはずっと続けていくべきかと」


 あっさり僕が相手の説を支持したので、重臣たちがざわついた。


「おい、カグラ! 机の前でも、戦いは戦いだぞ! しっかりやれ!」

 ミストラさんが声を上げた。どうも応援してくれているらしい。


「ミストラ、静かにしなさい」

 王が諫めた。たしかにまだ戦いの途中なのだ。


「調略はいいかと思います。ただ、基本的に誰がこちら側につきそうというのは、希望的観測の部分が多いように感じました。本当のところ、どうなるかわかりませんし、二枚舌の者もいてもおかしくありません」


 このあたりはただの一般論だけどね。


「なので、これが今すぐ攻め込む根拠にはならないと思います。そもそも、多分負けそうだと思って開戦する者などいません。規模も大きいですし、開戦に踏み込むにはまだ情報を集めるべきです」


 まあ、聞いた感じだと戦えば勝てる可能性もそれなりに高そうではある。

 でも、不確定要素が大きい。とくに王都から離れてる土地の領主がどう動くかあいまいすぎる。


「じゃあ、お前はどうすればいいと言うのだ? 誰がどっちにつきそうかなどと調べられんだろうが! 軍を出せと書状を送れば、すぐに敵の総督にも伝わるぞ!」


「なので、平和的に敵を威圧するのがいいかと思います」


 僕はナコナ山を指さした。


「ナコナ山のふもとの湖で、大きな宴会を催します。もちろん、王都周辺の貴族も領主もぞろぞろ引き連れてです。念のため、軍装をしていてもおかしくはないですよね?」


 僕はちらっと王の顔を見る。

 すでに意図は見抜いたのか、楽しそうな顔をしていた。

 気に入られたかな。まだ、なんとも言えないけど。


「その宴会に参加しないかとナコナ山近辺の領主はもちろん、北部の総督の支配領域に当たる領主にも誘いをかけるのです。これで王に従うつもりなのか、総督に従うつもりなのか、ある程度判断がつきますよね?」


 これは僕のオリジナルではなかった。いや、異世界の土地での作戦ということではオリジナルだけど。


 室町時代、遠方の観光地に行くという口実で、敵を威圧するということをやっていた。

 もちろん、そのまま戦争になどならない。あくまで、下準備だ。


 兵を従えて、軍人の長である将軍が動くのだから、これが戦争を意識したものだと誰でもわかる。でなきゃ、やった意味がない。


 今回も基本は同じだ。


 表面的には王の下に出向いたからといって、総督と敵対したということにはすぐにならない。それでも、総督の覚えは絶対に悪くなる。

 そんなことをしたということは、総督派ではないということの意思表示と変わらない。


「僕の提案は以上です。戦って問題なさそうか、避けたほうがいいのか、判断の材料になるかと思います。いかがでしょうか」


 重臣たちから「たしかに!」「それならどうとでも言い訳が立つ!」「あのカグラという者、女装させるとかわいいだろうな」といった声が聞こえる。


 とりあえず外野の反応は僕のほうがいい。あと、最後のは議論、全然関係ない!


 ノーチさんの意見は誰でも言えるレベルのものだからね。少なくとも意外性も面白さもない。普通のことしか言わないんじゃ、ディベートの印象は悪くなる。


 ぱちぱちとクリスタリアが手を叩いた。


「ありがとう、なかなか面白かったわ。これは社交辞令ではなく、本音よ」


今日ももう一度ぐらい更新したいです。

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