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6 同僚との対決

 王国に来て一週間、政治組織や社会情勢はおおかたわかってきた。

 やはり、エルフの国家とはいえ、日本の室町時代に近い要素がある。その知識を利用すれば、上手く立ち回れるかもしれない。


 そういう知識が増えたおかげで、今の自分の立ち位置――御伽おとぎ衆がどういったものかもわかってきた。


 ただし、厳密な法で、御伽衆とはどういう人間から任命して、定員は何人であるといったことが決められているわけではない。


 王の横で太鼓持ちをしたり、遊び相手になったり、相談相手になったりする身分のはっきりしない寵臣を御伽衆と呼び出したというのがはじまりらしい。


 つまり、名前が後からできたわけだ。そういう存在が国のシステムとして必要だと思われたから設置されたわけではない。

 うさんくさい寵臣というのは、どこの王朝にもいたと思うけど、それはこの世界でも同じらしい。


 別に僕の歓迎会が開かれることもなければ、逆に新人として先輩の靴磨きをしないといけないわけでもない。御伽衆の権力の源泉は王と仲がいいという部分にしかないから、ほかの御伽衆同士のつながりはないわけだ。


 それでも御伽衆同士、廊下で顔を合わせたりすることもある。


 向こうから商人風の恰幅のいいエルフの男がやってくる。たしかノーチという名前だった。

 こういう時、僕は余計ないさかいを避けるので、ちゃんと礼をする。


 向こうは素通りしていった。ちょっとイラっとしたけど、文句を言うと余計なことになるので、ここは我慢しておく。


「ふん! きれいな顔だからというだけで、御伽衆に加えられたのだろうが、いい気になるなよ!」

 後ろから思い切りケンカを売られた!


 正直なところ、僕はこう思った。

 小物くさい。

 こんな露骨にケンカ売る奴っているか……? このこと、クリスタリアに言いつけてやってもいいんだけど、悪い気がするし、応対しようか。僕は振り向く。


「ええと、ノーチさんでしたっけ? 僕が御伽衆に加えられたのは顔とかじゃなくて、身寄りない余所者だったので、王が慈悲をかけてくださったからにすぎませんよ」

 そうだ、顔で選ばれてるんだぞと言うわけにもいかないのでこう返す。


「こちらは大商人の経歴を活かし外交顧問として、ここにいるのだ。お前とは格が違う」

「格に関しては、御伽衆は身分に差がなく、全員同格だと思いますが」

「うるさい、揚げ足をとりおって! どうせ王を籠絡することしか考えておらんのだろう!」


 まあ、その中年太りからすると、たしかに年頃のお姫様をときめかせることはできないよな。そんなことのためだけに御伽衆が編制されても問題だから、しょうがないけど。


 ちなみにエルフの寿命はおおかた人間の倍で、歳の取り方もペースが二分の一ぐらいだ。なので、この中年のノーチって人は九十歳ぐらいだろうか。王は二十七歳だというから、2で割れば、おおかた女子中学生あたりだ。


 もっとも本を読むスピードなどは人間と同じに行えるわけだから、知識に関しては王はそれなりのものを持っている。


 黙ったままだと受け入れたととられそうだし反発しておこうか。


「さっきも言いましたけど、御伽衆に加えてくださったのは王です。僕が立候補したわけでもありません。取り入りようがありませんよ。あなたのしてることは王のご判断を否定することですけど」

「ふん! 政治的に何の役にも立てん若造が調子に乗りおって!」


 新人いびりというより、新人に恐怖してるって反応だな。

 おかしくはない。僕たちの地位は王との個人的な信頼関係で成り立っている。

 極端な話、王に死ねと言われれば死ぬしかない。


 そういう環境で、王と仲良くなるかもしれない新人が入るのは心中穏やかではないんだろう。


「あらら、王城でケンカするのはやめてほしいものね」

 廊下の奥から姫が笑いながらやってくる。


 にやにやしているから、おそらくかなり最初のほうから聞いていたな。


 ノーチさんは青い顔をしていた。見られてうれしいシーンではないだろう。


「あの、これは……その……新人が無礼な振る舞いをしたからで……」

 彼はすっかりうつむいて、ふるえている。


「無礼だったかしら? むしろ、あなたこそ同輩におじぎをしていなかったように見えたけれど?」


 やっぱり最初から見ていたな……。あるいはノーチって人がイライラしてることを知っててけたりしたんだろうか。

 はっきりとは言えないけど、この王は、性格は悪そうだもんな……。そりゃ、この歳で王様になったら変になるのもしょうがないかもしれない。


「まあ、別にいいわ。じゃあ、ノーチの専門分野である外交政策で競い合うというのはどうかしら? 実際、カグラの使い道を私もまだわかってないところが多いしね」


 これ、僕とノーチさんとの間で勝負をしろってことか。


 なかなかの厄介ごとに巻き込まれたけど、やるしかないな。

 それに、この国の情勢もある程度つかんでいるし、それを試すのも悪くないかもしれない。



 僕とノーチさんは翌日、城の会議室に連れてこられた。

 ほかにも重臣とおぼしき人が並んでいるし、ミストラさんの姿もある。


 ミストラさんは近衛兵団長という王の側近中の側近に当たる。有力な地方貴族の出身ではあるけれど、本家は長男が継いでいるという。


 これは室町幕府でいうところの奉公衆に近い。


 有力大名の庶子は、本家を継ぐことができない。そのままでは、せいぜい本家を継いだ人間の手足として使われるか、適当な関係寺院に僧侶として入られるかだ。そこで将軍に接近することで、まさに寵臣みたいな地位を狙う者がけっこういた。


 将軍のほうも庶子を重用することで、大名の本家に重圧をかけるような使い方ができる。


 ミストラさんの場合は本気で王に仕えていると思うけど、政治っていうのはいつの世も利害関係があるものだ。


 会議室の巨大なテーブルには、同じように巨大な地図が広げられている。

 そのテーブルのお誕生日席に当たる場所に姫が、両側に僕とノーチさんが向かい合って立っている。


「今、我が国は幸いながら平和よ。だけど、決して看過できない勢力がある。北境都護府が我が国からの独立を目論んでいるのは確実だわ」


 王は微笑みながら、北境都護府の箇所に指揮棒みたいなのをぽんぽんと当てた。


「北境都護府は初代の王の息子の一族。間違いなく王家の人間よ。軍事力も小さな地方領主とは比べ物にならない。ヘタをすると、七県から十県の地方領主を味方につけることができるわ。国を二分する戦いになるかもしれない」


 王が僕と対戦相手を順番に一瞥する。


「さあ、これをどう対処すればよいかしら? 二人の意見を聞かせてもらえないかしら?」


余裕があればもう一度、今日更新します。

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