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5 魔法が自在に使えるようです

 そのあとも僕は魔導書に書いてある魔法を順番に詠唱してみた。

 詠唱というと、大がかりに聞こえるけど、言語を読むことはできるので、それを口で朗読してるようなものだ。


 そしたら、ことごとく魔法が発動した。おかげで部屋のベッドが氷でカチカチになったりした。この氷の上で寝たら凍死するな……。


「この世界の魔法って簡単に使えすぎませんか?」

「そんなことはありませんよぅ……。異世界からいらっしゃったことと関係があるとしか思えません……。と、とにかく、すぐに姫にご連絡いたしますので、お待ちくださぁい!」

 今、姫って言ったな。

 やっぱり、クリスタリアはまだ姫と認識されてるんだな。


 ばたばたとクルルックさんは走っていってしまった。

 たしかにいくらなんでも、口に出すだけで誰でも魔法が使えるというのはおかしいか。


 しばらくすると、むすっとした表情の王、クリスタリアがクルルックさんと一緒にやってきた。


「異世界から来たカグラがいきなり魔法を使ってるですって? そんなのウソに決まってるじゃない。私はウソが大嫌いなのよ」

「ウソではないんですぅ……。とにかく本当ですからぁ……」

「たしかにベッドは凍ってるけど、これ、誰かのイタズラじゃないの?」


 思った以上に信用されてないなあ。僕も、幼稚園児が高校の数学を解いてるって言われたら疑うだろうし、そういうものなのかな。


「陛下、それじゃ、この強めの火炎を撃つ魔法を、窓から外に向かって使います。それで信じてもらえますか?」

 僕もまだ試してないけど、これまで一切失敗がなかったから大丈夫だろう。炎の魔法ってシンプルなイメージがあるし。


「勝手にしなさい。ウソだったら本当に処罰するからね。絶対だからね」

 僕は窓の掛け金をはずして、外側に広げると、本を持って、詠唱を行った。


「『火の精霊よ、森の民である我に今こそその暴力と同義の炎を貸し与えたまえ』」


 真っ赤な炎のかたまりみたいなものが手から噴き出た。

「あつっ! 出した僕まで熱い!」


 目の前に炎が出たから、それは熱い。危うく火傷するところだった。


「そ、そんな……。こんなことってあるかしら……」

 王も呆然としていた。


「全部の魔法を試したわけではないですが、シンプルな効果の魔法だと、どうやら使えるみたいです」

 驚かれていることはわかるけど、僕のほうには実感がないので、どれぐらいすごいことか全然わからない。


「身寄りのない異世界人を拾ったら、こんな逸材だっただなんて! 素晴らしいわ! ほんとに素晴らしい! 国内随一の魔法使いかもしれないわ!」

 王の表情が輝いているので、気分を悪くしたわけではないようだ。


「やっぱり私の考えた計画は最高ね! 私の考えはすべて上手くいくのよ!」

 それはどうかなと思ったけど、相手は王なのでツッコミ入れづらい。「そんなわけないやろ」と手でチョップしたら多分殺される。


「カグラ、あなたはこの力を持っていることは秘密にしておきなさい。悪用しようと考える者がいるかもしれないし、ほかの魔法の使用者に命を狙われるかもしれない」

「それは困ります!」


 せっかくチートらしい才能を見せて、それを理由に殺されるんだったらやってられない。


「あなたの魔法の力も確かめてみたいけど、威力が高すぎて難しいわね……。場はいずれ用意するから。いい? このことをあなた以外に知ってるのは私とクルルックと……そうね、ミストラだけということにするわ」


 近衛兵団長のミストラさんか。よほど、王に信頼されてるんだな。


「はい、王に逆らっても俺に居場所なんてどこにもないですから」


 知識がなさすぎるんじゃ、逃げることだってできない。ここを立ち去るという選択肢ははっきり言ってない。


「そうそう。いい心がけだわ。私に従っている者には幸せを約束するから安心して。それじゃあね」


 威風堂々とクリスタリアは去っていった。

 ずいぶん気位が高い子だけど、王は全部ああなのか、あの子だけの性格的なものなのか、判断ができないな。


「じゃあ、クルルックさん、続きをお願いできますか?」

「はぁい」


 やっぱり眠くなりそうな声で、クルルックさんは快諾してくれた。



 数日の勉強によって、この国の現状にもそれなりに詳しくなった。


 帝国が滅んで、くびきが大陸からなくなった時、いろんな民族が独立を目指して戦ったという。

 ただ、エルフは人間の隣国に押されていた。そんなエルフをまとめあげて、独立を勝ち取ったのが、このローグ王国の初代王ということだ。


 王は人間側の土地に近い辺境に都護府とごふというものを作り、人間が侵略を企てても、それを撃退できるような仕組みを作った。都護府の長官には王の一族や重臣を配置して、任に当たらせた。

 これは上手くいって、もはや隣国もローグ王国への侵入は諦めているという。


 しかし、その都護府の一つが世襲によって長官を継いでいったために、なかば独立国のような力を持つようになってしまったという。

 そのためローグ王国と都護府はこのこの六十年ぐらいずっと犬猿の仲らしい。

 なお、六十年といってもエルフは長命で人間の倍ぐらい生きるので、感覚としては三十年ほどいがみあってると思えばいい。それでも長いけど。


「――つまり、何かあれば内戦になる危機があるということですね。しかも、今の北境ほっきょう都護府の長官は前王が死んだ時、王になれるかもと考えていた。それを女性のクリスタリア様が王になって、ふざけるなと思っていると」


「すごいです! そんなことまでもうご理解されていらっしゃるんですね! まだ、この世界にいらっしゃって数日のはずですのに!」

 クルルックさんに褒められた。


「しかも、決め方が『くじ』だったから、余計に北境都護府のほうは納得がいかない。王の言うことを無視している――こういうことですね」

「なんで、そんなに理解が速いんでしょうか……? もしかして知性も異世界から来た方はチート級なんでしょうか……?」


「まあ、前例がありますから……」


 これ、やっぱり室町時代の歴史に酷似してるぞ。

 京都に政権があった室町幕府と関東を支配していた鎌倉府の関係と同じだ。


 もっとも、日本に限った話じゃないけどね。ローマ帝国も副帝とかを設置したら、内戦につながっていったはずだし。中国でも辺境地域に置かれた節度使が自立化していった。歴史は繰り返す。


 となると、いずれクリスタリアは北境都護府と戦うことになりそうだな。


タイトルの頭に「エルフな」をつけました。そのほうがわかりやすいかと思いましたので。


今日も複数回更新を目指します、よろしくお願いします!

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