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4 チートな才能

 王城は狩場からおおかた直線距離で十五キロほど離れていた。


 江戸時代も江戸城から、渋谷の西のほうの駒場あたりまで狩りに出かけたりしてたはずだから、距離としては妥当なところだろうか。


 なお、この世界の距離の単位はエインズというものが使われていて、感覚的にはキロと大差ないようだ。十五キロぐらいかなという距離で十五エインズだった。


 エルフっていうと森に住んでるイメージがあったけど、王城は本格的な都市で、城は深い堀が二重になっている、堅牢な石造りのものだった。


 ヨーロッパ中世の城ってものすごく不潔で臭かったらしいが、ここは戦場上の城ではなくて政庁でもあるせいか、掃除は行き届いていた。


「ところで、カグラ、あなたは文字は読めるの?」

 お城に着いたら、王に言われた。数段高いところに王の椅子があって、僕はその下で立っている。ひざまずく必要はないらしい。

「来る途中、看板を見ましたが、なぜか読めました。ただ、書き方はわかりません」


「そういえば、あなた、普通に会話できてるものね。異世界からの移動には、なんらかのルールがあるんでしょうね」

 教主をつとめてただけあって、この王はそれなりに頭の回転は速いらしい。


「御伽衆には厳密な職務は決まってないわ。用事があればこっちから言いつけるし、ひとまずはこの世界のことを勉強しなさい。でないとあなたも大変でしょうし」

「それは助かります」


「あなたの身の回りを私が全部見れるほど暇ではないから、一人、専任の女官をつけようかしら」

 ぱんぱんと王が手を叩いた。


 すると、七人のエルフの娘さんが入ってきた。みんな美少女と言っていいレベルだ。


 あんまりブスなエルフっていうのはイメージしづらいけど、城に入る前に太鼓腹のドワーフみたいなエルフのおじちゃんも見たし、全員が美しいというわけではないようだ。

 つまり、ここにいる女官はやっぱり容色も込みで選ばれたんだろうな。


「カグラ、好きな子を選んでいいわよ。どの娘もよくできた子だから」

「選んでいいと言われても、何を基準にしていいか……」


 せめて、好きな食べ物と趣味ぐらい聞かせてほしい。判断材料がない。


「あなたの好きな子でいいわよ。手籠めにされたりすると困るけど」

「そんなことしませんよ!」


「あなた、肉食動物というよりは草食動物っぽいものね」

 まさかこの世界にも肉食系・草食系の区別があるのか……。


「王に選んでいただきたいんですが、いいですか? あまり人を選ぶということにも慣れていませんので」

「わかったわ。ええと、どうしようかな……。のんびりしてる子のほうがいいかしら。よし決めた、クルルック」


「はぁい」

 クルルックと呼ばれた娘さんが答えた。

 ほかの人より少しだけ背が高くて、それと、やけに胸が大きい。むしろ、大きすぎる。

 目は線になってるかと思うほど細くて、常に笑ってるように見える。


 なんだろう、すっごくお母さんぽい。母親に全然似てはいないけど、母性がにじみ出ているというか……。


「クルルック、そのカグラは異世界の出身で、この世界のことを何も知らないの。あなたならイライラすることもまずないでしょう? 世話をしてあげて」

「はぁい。わかりましたわぁ」


 のんびりしてると王が言ってたけど、その意味がわかるような返答だった。

「部屋にはクルルックが案内するわ。少しぐらいなら王城の中を出歩いてもいいけど、無許可で後宮に入るようなことはやめてね。もっとも、あなたが警護兵を突破することはできないだろうけど」

「僕もそんなしょうもないことをして死にたくはないです」


 王が女の子でも後宮はあるのかと思ったけど、女性職員みたいな立場の人も多いだろうから、おかしくはないのか。前の王の時代から存続してるんだろう。


「カグラさん、よろしくお願いしますねぇ」

 クルルックさんにあいさつされて僕も頭を下げた。



 御伽衆という身分がどれぐらいのものかわからなかったけれど、与えられた僕の自室は二部屋もあって、トイレも専用のがついているという、かなり待遇のいいものだった。


「カグラさんには基本的にここで生活していただきますねぇ。まずは文字の書き方をわたくしがお教えしますぅ」

 クルルックさんの声を聞いてると眠たくなりそうだけど、眠ったらまずいよな。


 この世界の文字は表音文字で種類が五十ぐらいあった。とはいえ、なぜか読むことはできるので、けっこうハイペースで覚えられそうだ。


 それと、この世界についても、休憩時間にクルルックさんに尋ねた。


 このローグ王国はエルフ系の王朝で、人民の大半はエルフなのだという。

 もともと、大陸の大半を支配していた帝国が百年ほど前に崩壊して、民族ごとに独立王国を作っていったという。

 なので必然的に人口の大半がエルフであるエルフ系の王朝になっているのだ。


「エルフといっても森に住んでばかりいるわけじゃないんですね」

「神話には森の出身ということになっていますけれど、神話は千五百年ほど前ということになっていますから。今は都市に住んでる方もいれば、湖の近くに住んでる方もいらっしゃいますねえ」


 現状、周辺の別の王朝との争いもないらしく、国は平和らしい。


「エルフは魔法が得意ですから、腕力では劣るものの、なかなか戦争は強いんですよぅ」

「あ、そうか、魔法があるんですよね」

「むしろ、カグラさんの世界だと魔法はないんですかぁ?」


 逆に不思議そうに尋ねられてしまった。

 表面上はないことになっているな。もしかすると使える人もいるのかもしれないが。


「魔法についての本もあったら見せてください」


 魔法はどうやら詠唱と精神集中により発生させるらしい。別に誰でも使えるというわけではなく、高名な僧侶や貴族といった人だけがまともに利用できるらしい。庶民にはあまり関係のないものだという。


「炎を呼び起こすのは、『火の精霊よ、森の民である我にも力を貸し与えたまえ』か」

 エルフだから火の魔法は難しいのかな。


 だが、妙に爪が熱いと思った。


 爪に火がともっていた。


「わっ! なんだ、これ!」

「えっ!? カグラさん、どうやってすぐに魔法を!?」


 手を振って、火は消した。危ない、危ない。城で火事を起こしたら多分処刑されるぞ。


「なんで、こんなに簡単に発生したんですかね……」

「カグラさん、異世界人だからなのか、ものすごく魔法に向いてるんじゃないでしょうかぁ?」


 僕にもチートな才能があったのかな。

明日も複数更新を目指します。

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