11 王、倒れる
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王が僕に話して聞かせたのは、今、王がやっている政務全般だった。
「まず、どんな仕事をしているか知らないとあなたも意見が言えないでしょうから」
僕も最初は固くなっていたけど、できうる限り、自分の知識から率直な意見を言うことにした。
とくに大領主の勢力を削減する作戦は慎重にしたほうがいいと言った。
具体的に言うと、大領主の後継者で当初予定されている者とは別の人間を王が推したりして、混乱を引き起こしたりする策だ。長男の能力に問題があるから弟のほうに継がせろなどといって、弟を持ち上げて上手く後継者争いに持ち込めれば、たしかに勢力は殺げる。けど……。
「うかつにやりすぎれば、王を殺そうとする者も出てきます。不満が出ないように丁寧に事を運ばないと危険ですよ」
「そんな一般論聞きたくないわよ。それじゃ、ミストラとか、親の代からいる年寄りと同じだわ」
僕が心配してるのは、日本の将軍がそういうことをして暗殺されたことを知っているからだけど、日本の室町時代とこの国の歴史が似ていると伝えるのは、ちょっと怖い。
それですべての歴史を知ってる預言者(むしろ予言者かな?)みたいに思われても困るし。僕だって、室町時代のことをすべて完璧にわかってるわけじゃないし。だいたい崩し字も読めないから、実物の史料を呼んで調べたこともない。
「みんなが言うということは、それだけ意味のあることだと思うんで、煙たくなるのはわかるけど、耳に入れておいてください」
「はいはい……。あ~あ、そこは異世界出身者でも同じなのね」
王はまだ完全には納得がいってないみたいだったけど、また計画を話して聞かせてくれた。途中、二回ほど新しいお酒のビンをとりに隣の部屋に行ったのを除くと、ずっと僕に話をしていた。
率直に言って、その時の王の瞳は生き生きとしていた。
こんなに楽しそうに計画を語れるということは、それだけ夢とやる気があるってことなんだろう。
「現状、この国は大領主の力がじわじわ強くなって、王の力は相対的に下がってるわ。私の役目はそれを父親が王だった頃にまで引き戻すこと。そうすれば、私をないがしろにする者もいなくなるだけじゃなくて、私はきっと未来に中興の祖と呼ばれることになるわ!」
ある意味、わかりやすいな。この子は自分の父親を超えたいんだ。
たしかにこの国の歴史を見たけど、彼女の父親が王だった時代は国も治まっていて、国力も充実していると言っていい状態だったようだ。むしろ、隣国に侵攻するかもって空気すら見せていたほどだ。
多分、彼女以外の王(たとえば彼女の兄や甥)も、ずっとその人物と自分を比較され続けてきたんだろう。
だから、彼女が目指しているものも、自然なものだと思う。
問題はそれを素直に推し進めていいかどうかってことだ。
「陛下、あまり無理をなさらないほうがいいですよ」
率直に僕はそう提言した。
「無理をしている?」
最初、王は何を言われたかよくわかってないみたいだった。それから、木の杯をぐいっと干した。
「私は無理なんてしてないわ。ただ、王としてやるべきことをやろうとしているだけ。今のところ、それは上手くいっているし、これからもそうするつもりよ。いつか、ローグ王国最高の君主と呼ばれるものになるために私は戦ってるの」
「たしかに王は戦ってらっしゃいます。ですが、一人で戦っているようです。ずっと話を聞いてきましたが、そもそもこれは一人でできる政務量ではないですよね?」
決裁しないといけない書類、出席している会議、重臣や豪商との食事会にもまめに出る。素人目に見てもこれはやりすぎだと思った。いつ寝ているのか定かじゃない。事実、今だってもう深夜もいい時間だった。
「私が仕事をしないと、私を小娘だとみんなバカにするでしょ。しょうがないのよ」
王はすねたような顔になって、横を向いた。
そして、お酒をつごうとビンを取った。
僕は腕を伸ばして、そのビンをひったくった。
「な、何するのよ……」
僕のしたことがまだ相手は理解できないらしい。
「陛下、明らかに飲みすぎです! お体を害しますよ!」
そう、ずっとこの子は僕が部屋に入る前からお酒を飲み続けていた。
エルフと人間と体質が違うとはいえ、やりすぎだ。
おそらくだけど、お酒でいろんな不安から逃げているのだと思う。そうとしか考えられないぐらいのお酒がこの子の中には入っている。
「王たる者、自分の体のことも考えないといけません! こんなことを続けていたら、強い王になる前に命を落とします! まずはお水でもお飲みください。顔も赤くなっていますし」
勢いで僕は言った。
僕の立場からすると、中学生が酔っぱらっているような状態だったのだ。これはよくないと思った。
でも、うかつなことをしちゃったかな……。
「カグラ、王のビンをひったくるだなんて無礼にもほどがあるわよ!」
完全に眉を吊り上げた王が立ち上がる。
あっ、これは相当怒ってる。
ここで手打ちなんてことになるとまずいな……。
もっと慎重に諫めるべきだったな……。
「王に逆らうってことがどういうことか、あなたにも教えなきゃならないのかしら。私はあなたの妹でも何でもないのよ」
本当にまずいかもしれない……。室町時代でも、将軍はお気に入りがちょっとでもムカつくことをしたらすぐに追放したりしてたんだよな……。
だけど、立ち上がって、こっちに来ようとした王は……。
その場でふらついて、倒れた。
「あれ……足が上手に動かないわ……」
「そんなにお酒が入っていれば当たり前です! しかもいきなり立ち上がるんですから!」
僕は急いで彼女の腕と体の間に頭を入れた。このまま抱える。
こんな時、お姫様抱っこができたらいいんだけど、このほうが確実だった。
「ベッドまでお運びします! もし、気分が悪いようなら全部吐いてください! そのほうがよっぽど楽になりますから!」
「わ、私はこれぐらいだいじょう――やっぱりきついわ……」
やっと酔っぱらってるって認めたな。
僕はなんとかベッドにまで彼女を連れていった。
冷や汗みたいなのも出ている。多分、急性アルコール中毒だろう。だとすると、低体温になる時があるはずだから、毛布でしっかりと体を包む。
「いいですか、腹這いになっていてください。吐いた時、窒息して死んでしまうことがありますから。僕はすぐに近衛兵の人にお水を持ってきてもらいます。いいですか、すぐ戻りますから、それまで腹這いになっててくださいね!」
「わかったわ……。気をつけはするから……」
僕はすぐに近衛兵のところに行って、事情を伝えた。
近衛兵は「最近、いつも酒量が多かったので……」と言っていた。やはり慢性的に飲んでいたらしい。水を持ってきてもらうよう頼んだ。
王のことが心配なので、僕はすぐに部屋に戻った。王はこれまで以上に小柄に見えた。
「あっ、戻ってきたのね……」
「もうすぐ水が来ますからお待ちください」
僕はベッドの横にひざまずいて、王の手をぎゅっと握った。
こうしてあげれば、不安が少しは減ると思ったのだ。
「あ、ありがと……」
小さな声で王はそう言った。
「王を助けるのは臣下の役目ですから」
「でも、私、あなたに対して怒ってたのに。怖くはなかったの……?」
「そのために媚びへつらうのは、小人の生き方です。それに僕の場合は陛下が死ねばどっちみち未来なんてないんですよ」
だから、僕はこの人のためにやれるだけのことをやるしかないのだ。
「あなたの手、あったかいわね」
「褒めていただいているものと受け取っておきますね」
彼女ははにかんだように笑った。以前よりは信頼関係が増したかな。
本日ももう一度更新できればと思っております。




