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ギャップ萌え女王!?

「おはよう、(あかね)。……って、え! あんた大丈夫!? 凄い酷い顔してるけど……」


 朝の通勤、通学で入り乱れる駅の中、ヘッドホンを首にかけ、赤く染まる短い癖っ毛を自分でくるくると指でいじりながら、私の名前を呼んだのは親友の白河(しらかわ) 真希(まき)だった。


「おはよう、真希。もう、酷い顔って言わないで! これでもメイクで隠したんだからね!」


 私は真希の言葉にぷくりと頬を膨らませ、いじけた様に見せ、隣へと並ぶ。

 隣り合うとよくわかるのだが、真希は女の子にしては背が高く、足もサラッとしていて、モデルとして活躍していてもおかしくないほどのスタイルをしている。

 私は女性の中では平均より少し高いくらいだが、そんな私が持っている1番高いヒールを履いて、やっと同じ背丈になるほどだ。


 そんな彼女とは小学校から一緒で、いつも家から近い最寄駅で待ち合わせて同じ高校に通っている。


 改札を通り、ホームで電車を待っているとき真希が少し興奮気味に話を切り出した。


「で、その顔どうしたの? 寝てないの? それに先輩からメール来た?」

「ちょ、ちょっと真希! 質問多すぎ!」


 あまりの勢いある質問責めに、私は後ずさりしながら苦笑いで彼女に答えた。


「ごめんごめん。で、先輩からメールは?」

「来たよ。用事あるって断られちゃった……」


 私は少し切なげに笑って見せた。そんな私を見て、少し困った表情の真希がゆっくりと口を開いた。


「……そ、そっか。でもあんまり落ち込んで無さそうに見えるけど。もっと泣き叫んですがって来るもんだと」

「そんな事しないよ! まぁ、メール来たときはすっごく落ち込んで、今日は全く寝れてないんだけどね」

「それで……、吹っ切れたの?」


 真希は少し溜めて、心配そうな顔で言った。そんな彼女の言葉に私は少し考えて、微笑む。


「んー、まぁね。よく考えたんだけど、一回断られたくらいでしょげてられないかなって」


 眼の下には大きい隈があれど、私はそれでも清々しい表情で笑って見せた。

 その様子に真希は安心したのか、私によく見せてくれる母親の様な優しい表情で微笑んだ。


 電車に乗る事、約15分。高校の近くにある駅に着いた。

 通学で使うこの時間の電車はとても混むため、今日の寝ていない私には少々キツかっみたいで……、


「ちょっと大丈夫? 茜? 水持ってこようか?」

「……うぅ、ヤバイかも。めちゃくちゃ気持ち悪い。……おぇ」


 駅のホームに着くなり、すぐ近くにあったベンチに座り込んだ。

 あまりの体調の悪さから酷かった顔がさらに酷くなっていく。そんな姿の私を見かねて、真希は水を買いに行ってしまった。

 うぅ……、今日真希にめちゃくちゃ迷惑かけてるな。


 そんな事を思っていると不意に、


「あ、茜様(あかねさま)!!! だ、大丈夫ですか!!」


 同じ高校の制服を着た、3人の男子が聞き慣れない呼び方で私の名前を呼んできた。

 具合悪いからそっとしてほしいと思ったが、そんな事は表に出さず、まず率直に感じた疑問を彼らに投げかけてみる。


 「だ……、誰?」


 同じ高校とは言え、全くの見覚えのない男3人に警戒しながら、少し引いた目で彼らを見る。

 彼らは私の質問に動揺した様子でアタフタしている。


「え、嘘っ! 同じクラスの松川(まつかわ) (まなぶ)ですよ!」

「同じく、竹田(たけだ) (りょう)でふ!」

「同じく、梅原(うめはら) 健太(けんた)っす!」


「…………」


 この松メガネ、竹デブ、梅チャラ男と、それぞれ見た目だけでも相当なインパクトを持っている彼らだが、どう思い返しても全く見覚えがない……。

 むしろ私は片手で数えられるくらいの女子しか高校では話した事がなく、ましてや男子なんて眼中にもなかった。


 そんな初対面の彼らの自己紹介を受け、私は苦痛に(ゆが)む顔を精一杯引きつらせて微笑んだ。

 心の中では、本当に早くどっかに行ってくれないだろうか……、と祈うばかりであった。


 彼らはそんな私の思いとは裏腹に、微笑んだ私の姿を見て、なぜか興奮気味になり、メガネが口を開く。


松「あ、茜様、具合が悪そうですが何かあったのですか!?」

「う、うん……。ちょ、ちょっとね。電車で酔っちゃって……」

松「そ、それは大変だ! ど、どうしよう。薬とか買ってきましょうか?」

「い、いいって! そんなの! それより早く行かないと遅刻しちゃうよ! 私に構わず先に行って……」


 本当にもういいから早く行ってくれ、と思いつつ私は苦笑いで答えた。


松「はっ! 自分が苦しんでいるというのに他人を気遣ってくれるなんて……。茜様……、あなたはやはり天使だ!」

「へっ!?」

竹「なんて素晴らしいお方なんだっふ……」

「ちょっ……!?」

梅「ヤッベ、まじ光見えるわー、まじ茜様だわ〜」

「はぁ!?」


 最後の奴に関しては蹴りを入れてやりたいと思うほどイラっときたが、彼らは私の気持ちに気づくわけもなく、


松「でしたら、私がおんぶして学校まで送りましょう! そうすれば誰も遅刻する恐れはありません!」


「はぁ!!」


 ついにはこのクソメガネ、とてつもない事を口に出し始めた。

 知らない男におんぶされて学校に行く? その考え、本当に頭沸いてるんじゃないの!? と思っていると他の2人も、


竹「松っちゃんみたいなガリガリがおぶって行けるわけないじゃん! ここは僕がおんぶしまふ!」

梅「おい、デブ。しゃしゃってんじゃねーぞ! お前の汗まみれな背中に天使を乗せれるわけねーだろ! 俺がやる」


 なんでこの3人おんぶする前提なの? 誰だろうとおんぶなんてやだわ!

 そんな事を思う私をよそに喧嘩しだす3人。このカオスな状況をどうしたもんだと頭を抱え唸っていた時だった。


「おい、お前ら。なに茜、困らせたんだよ」

「……ま、真希!!」

松竹梅「あ、姉御(あねご)!!」


 このカオスな状況を男らしく割って入ったのは、私の数少ない友達であり、親友の真希だった。

 とりあえずこいつらが真希を姉御と呼んだのはスルーする事にした。


「お前ら、私がいないところで茜を誘惑するなんていい度胸じゃねーか」


 真希はそう言うと頬をピクピクと痙攣(けいれん)させ、笑ってはいるがどうも穏やかではない表情で、指をポキポキと鳴らし男子どもを威嚇(いかく)していた。

 その様子を見てからか、男子どもはあたふたと慌てだし、真希の質問に対して弁解しだした。


松「ち、違うんです! あね……、いや、白河さん! 僕たちは茜様を心配して学校まで送って差し上げようと……」

「さっきおぶって行くとか聞こえたけど」

松「ま、まさか、……そ、そんな茜様に触れようだなんて! そんな……」

「…………」


 そんな必死で弁解をするメガネに、真希はまるでゴミでも見るかのように視線を送り、呆れたように一息。


「はぁー、とりあえず今回は見逃してあげる。茜は私が付いてるから大丈夫。あんたらは先に学校行って先生に事情話しといてよ」


松「りょ、了解しました!!!」

竹「はい、提督!!!」

梅「うぃーっす!!!」


 3人は真希に勢いよく敬礼し、そそくさと荷物をまとめ、逃げるように学校へ向かって行った。


 とりあえず面倒臭い奴らがいなくなり、安心する私に『ほい』と水を渡す、マジイケメンな真希。


「真希〜〜〜! 真希が男だったら確実に惚れてたところだよ!」


 そんな事を言うと真希は照れたようで、頬を赤らめ私から目線をそらした。


「お、お前、それなら先輩はどうなんだよ!?」

「え? もちろん、立花先輩の方が100億倍カッコいいよ。真希は別腹だよ〜」

「…………」

「……ぃ、痛い! 痛いよ真希!!」


 真希は無言で私の両頬を片手で掴み、まるでリンゴを片手で潰す勢いで握ってきた。

 手加減してくれてはいたが、流石は空手経験者。頬と頬がくっつくかと思った……。

 一通り私を痛めつけた後、真希は私の横に座って呆れた顔で話し始めた。


「あんたさぁ、割と気をつけなね……」

「へ? 何を??」


 本当に真希の言った言葉の意味が理解できなく、素でキョトンとする私。


「はぁー、やっぱ気づいてなかったか……」

「だ、だから何が!?」

「茜ってね、一部の男子の間で凄い人気なんだよ」

「へー、人気なんだー私…………」

「…………」

「…………」

「って、え!? 私が? 人気? なんで!?」

「そりゃまぁ、可愛いってのもあるんだろうが、やっぱ決めては今年の春かな」

「春? なんかあったかな、私……」


 今年の春の事を鮮明に思い出すが、イマイチ男子の気を引くような事はやった覚えがない。


「あんた1年生の時は金髪でツンツンしてたじゃない。まぁ、私から見たら性格は今とあんま変わらないけど。だけどこの春から黒髪になって態度も丸くなった事でギャップ萌え? みたいな現象が起きてるってわけ」

「は、はぁ……。ギャップ萌えですか……」


 まさか立花先輩の気を引く為にしたこのイメチェンが、学校の男子の気を引きつける事になるとは……。


「そんで熱狂的な茜ファンは、あんたの事を様付けで呼ぶまでになってるってわけなの」

「あ、さっきの3人も様付けだった!」

「そう、そう奴らには気をつけなさいって言ってるの」

「……なるほど」


 私ってそんな人気あるんだ! 今まで全く周りの人に興味なかったからわからなかった……。

 私的には髪を黒くしただけだったけど、ここまで印象が変わるなんて思ってもみなかった。


「イメチェン、正解じゃん!!!」


 私は思わず周りの目も気にせず大声を上げて立ち上がった。

 そんな私を見て驚く真希。


「ねぇ真希! じゃあこのまま行ったら立花先輩も振り向いてくれるかな?」

「いや、この前提にあんたの金髪でトゲトゲしい部分を知ってなきゃダメだから無理でしょ」

「な、なんと!?」


 その場でドサっと膝から崩れ落ちる前に、私の背中に腕を回し、肩を貸す真希はそのまま私を引きずる様に学校に連れて行くのであった。


 全体重をかけても平然と私を運ぶ、その凛々しい真希の姿を私は今後ずっと忘れないだろう。

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