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大学そして学食

かける! ここわからないよー、早く答え教えて」

「バカ、論文課題なんだから、俺の丸写しだとバレるだろうが」

「触りだけでも、触りだけでもいいから教えて! お願〜い……」


 金曜日の朝11時、俺は大学のラウンジで、今にも泣き出しそうな女の子と授業の課題に取り組んでいた。


「お前なぁ、前もこんな事あったよな? 流石に学習しろよ! 提出期限まで後、1時間だぞ」

「……私だって、後一回課題出さなかったら単位落とすなんて知らなかったんだもん! 普通3回目まではセーフでしょ……」


  大学生とは思えない童顔をすぼませ、肩ぐらいまである黒髪をクシャクシャとかき乱し、その小さい体をフリフリと振るわせるその姿はまるで、駄々をこねる子供のようだった。


「いやいや、出た課題くらいちゃんと出せよ! 大体、昨日の内に気づいたんなら、徹夜でもして終わらせて来いよな」

「だってだってさぁー、もし徹夜して寝坊しちゃったら意味ないでしょ! それに駆がいた方が教えてくれるし、早く終わるから効率良いじゃん!」

「俺を巻き込むんじゃねー! 今日なんてお前のおかげで大事な睡眠時間が減らされてんだよ!」


 そう、俺は今日、ここにいる小さい頃からの幼な馴染みである月下(つきした) (しおり)に昨日の夜中、メールで緊急要請を受け、12時まで寝れる予定だったのを3時間も早めて、大学に来たのだ。


「だってだってー、私駆しか頼れる人いないんだよ! 昔からの付き合いじゃん! ここは幼馴染のよしみって事でさっ!」

「なんで上からなんだよ。いい加減、友達作れよな。オタ研の奴らとも全然仲良くなろうとしないし」

「だって、オタ研の人達、オタクの癖にめっちゃアクティブなんだもん! 何であんなに喋るの!? 何であんなに飲み会したがるの!? 家でアニメ見てゲームして絵描くのがオタクじゃん!!」

「その自分よりの偏った考えやめろ……。オタクは誰しもお前みたいなコミュ力皆無な奴らばっかじゃねーの」


 栞は小さい頃から重度のコミュニケーション障害、略してコミュ障で家族と俺以外の人の前だと緊張して喋れなくなってしまう体質らしい。その体質を今は、自分がオタクのせいだと思っている。


 さっきから話の中に出てくる『オタ研』と言うのは、俺と栞が所属しているサークルで、正式名所は『アニメ・漫画研究サークル』である。なぜオタ研と略されるのかは言わずともわかるだろう。


「私だって、サークルに入りたくて入ったわけじゃないもん! 絵描くのなんて1人でもできるし、今なんてネットで友達いっぱいいるから、わざわざリアルで友達なんていらないもん!」

「お前が『大学生になったからにはこのコミュ障治したい!』って言うからわざわざサークル紹介して、俺まで一緒に入ってやってんのに! そんな事言うなら俺も友達やめるぞ」

「駆は友達じゃないもん。家族みたいなもんじゃん」

「確かに、俺とお前は幼い頃からずっと一緒だし、家族みたいなもんだけど、その家族の縁も切る!」

「そんな事したら、駆、一人ぼっちになっちゃうよ?」

「それは俺じゃなくてお前な。俺は友達いるから」

「いつの間に! なんでいつも一緒にいるのにこんな差が出るんでしょうか?」

「それはお前がサークル内でも俺の後ろに隠れて、おどおどしてるからだろ」

「……わかりました。それではおどおどするのやめます」

「お、やっと自立する事を決意したか!」

「はい、その代わり駆の後は私のものだよ」

「……、もういいから課題やろっか」


 栞はコクンと頷き、目の前にある残り時間わずかの課題に取り組み始めた。

 俺の教えもあってか提出期限の10分前に終わることができ、なんとかレポートボックスに提出する事ができた。

 ホッと一息ついたところで、栞には助けた恩を返してもらおうと俺は口を開いた。


「とりあえず、お前昼飯奢りな」

「いやはや、わかってますって旦那〜」

「じゃあ食堂行くか」


  そんなこんなで俺たちは食堂に来た。一日中授業がある日はほとんど栞と食べる時が多く、大体第一食堂に行く。

 俺の通うこの大見おおみ大学は食堂が3つに分かれていて、それぞれ第一〜三とメニューのランクが上がって行く。

 第一食堂は学食なだけあってリーズナブルで直ぐに出てくる料理ばかりだ。第二は学食と言うかファーストフード店が並ぶ言わばフードコートみたいになっている。

 そして第三食堂、ここは普通の学生はほとんど来なく、教授クラスの人や金持学生しか利用できないメニューが並ぶ、ちょっとした料亭になっている。よくテレビでもこのクオリティが紹介されるほど、有名な学食だ。

 流石に学生が利用しにくい学食なんて作るなよ、とは思うが今回ばかりはこの学食を作った大学に感謝したい。

 なぜなら、今日はその第三食堂に栞の奢りで行くのだから!

 そんな事も知らず栞がいつも通り第一食堂に向かうのを無理やり止め、顎で第三食堂に続く階段を指した。


「……え、何? あっち、第三だよ? 高いんだよ?」


 俺はそんな動揺を隠せない栞の腕を強引に引っ張り、第三食堂に続く階段を登る。

 はたから見たら、嫌がる女子を無理やり連れて行くヤバいやつにしか見えてないだろうが、そんなのは知ったことではない。今の俺にはもう第三食堂にしか見えてないのだから。


 いよいよ、食堂に入り、普段とは違う高級感溢れるデザインの椅子に腰をかける。

 いざメニューを開くと、流石は第三食堂。ほとんどの値段が2000円を超えている。これは流石に俺の独断でメニューを決められない。そう思い、栞にメニュー表を渡すと、初めて見るメニューとその金額に暗い顔をしながら、冷や汗をかく栞の姿がそこにあった。 

 こんな栞を見ていると流石に可哀想になってきた……。


「あ、あのさ栞。流石に俺もちょっとは出すわ……。ここまでのモノだと思ってなかったからさ……」

「…………」


 栞は相変わらず暗い顔で下を向いている。そして、無言のまま自分の財布の中身を俺に見せてきた。


「…………」

「…………」

「……あのさ、栞」

「……はい」

「お前さっき、昼飯奢ること了承したよね?」

「……はい」

「流石に、こんな高いのは想像してなかったかもしないのはわかるけどさ、お金は掛かる事知ってた?」

「……まぁ、一応」

「じゃあ、なんで……、なんでお前の財布に52円しか入ってないの!? これじゃ、いつもの第一食堂の一番安いそばも買えないわ!!! どういう事だよ!」

「だ……、だって、いきなり駆が腕引いて無理やり第三食堂入っちゃうんだもん! いつもの第一食堂だったら買う直前に『いっけない! 今日お金入ってなかった! テヘペロ』みたいに言えば、結局、駆が私の分まで払ってくれて、なんだかんだで奢る約束の事もうやむやにできると思ってたんだもん!」

「お前どんだけカスなんだよ! 流石の俺でもこんな幼馴染嫌だわ!」

「そんなこと言わないでよ! 今回の件に関しては少なからず駆も悪いよ!」


 ここで言い争っていても仕方ない。どうする俺……。俺の所持金1500円。栞との合わせて1552円。ここで一番安いざる蕎麦1800円。

 …………足りない。

 これはもう、恥ずかしいがなにも食わずに店を出るしかないか……。

 と、最終手段を結構しようとした時だった。 


「あれ? 立花くん?」


 どこか聞き覚えのある声に呼ばれ、奥にある席に目をやると、どこか見覚えのある、目を惹かれるようなカラダつきのお姉さんがそこに座っていた。

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