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約束と秘密

「……、よ、よかったら、……こ、今度の日曜日、映画一緒に行きませんか!?」


 バイトの帰り道、多少噛み噛みになってしまったが、私、新北 茜(あらきた あかね)は人生初となる男性にデートのお誘いをするという、いかにも青春っぽい事にチャレンジしていた。

 相手はバイトの先輩で、ある事をきっかけにずっと片思いをしている。

 バイトを始めて2ヶ月、立花先輩に近づく為、帰り道で待ち伏せしたり、敵である高坂さんを説得して2人っきりにしてもらったりなどいろんな事をした。

 そして今日、そんな2ヶ月の集大成とも言えるデートに誘うというアクションを起こしたのだ。


 ……、

 …………、

 ………………お、起こしてはみたのだが……、どうやら先輩、困っているみたい。これはまさか、断られるフラグ!

 そんな……、今日は朝の占いで恋愛運一位だったのに! たまたま入ったコンビニで、滅多に食べないガリ◯リ君を食べて当たりが出たのに!! 授業中、私の席の前の人でちょうどチャイムが鳴って、発言しなくてすんだのに!!!

 今日起きた最高の奇跡達が自分の頭の中でフラッシュバックされ消えていく。


 頭の中が空っぽになって行く中、先輩は申し訳なさそうに口を開いた。


「ごめん、今手帳が手元になくて日曜の予定がわからないや。家に帰ってから連絡してもいいかな?」


 ……、フラグ回収ーーーー!!!!!

 これって、翻訳すると『ちょっと目の前で断ると気まずいから、後でメールで断るね!』って事だよね!

 あー、もう泣きそうだよ〜。早くここから立ち去りたい……。けど、ここで終わりにしてはダメよ、茜。もう心はズタズタだけど、ちょっとでも先輩にはいい印象を持ってもらうために、ここは普通に振舞わなくっちゃ!


「は、はい! そ、そうですよね、急に言われても困りますよね。わかりました! 連絡待ってますね!」


 もうダメ! 耐えられない! 私は少し駆け足で、一人駅へと向かった。


 帰りの電車、自分の家の最寄駅までは30分ほど掛かるが、その電車の中、私はと言うと……、ひどく落ち込んでいた。

 今日はここ何年かない最高に幸運な日だったのに……。どうしてかな、流石に唐突過ぎたのかな? 2ヶ月の間、少しずつ積み重ねていったものが崩れるって思うと、もうショックで立ち直れそうにないよ。やっぱり、恋愛経験? 今まで、こんなに好きだと思える人、いなかったから。

 そんなことを永遠と頭の中でループしていると、いつの間にかに最寄の駅に着いていた。

 駅から家までは約20分ほどで、割と静かな道が続いているが、今の私にとってはその静けさが無性に冷え切った心に突き刺さる。

 そんなこんなで魂の抜けた様な状態で歩き続け、私の家があるマンションにたどり着いた。


「ただいま……」


 ……。いつも通りの静けさである。私は父との二人暮らしで、大抵、家では一人で過ごしている。母は幼い時に病で他界している。

 そんな自分以外、誰もいない家にもなれていたが、今日だけは孤独ということに耐えられなかった。

 自室に入り、自分の帰りを待っていたかのように迎えてくれたベッドに飛び込み、スマホから連絡帳を開く。そして、一人の人物に電話を掛けた。


『……もっしー、茜、どうかしたの?』

真希まき~、どうしよう~」


 ふと電話掛けた相手は昔からの親友で、今も同じ学校に通っている白河しらかわ 真希まきである。彼女は私のいろんな事を知っている。もちろん、絶賛片思い中なことも、どこまで進展しているのかも、知っている。だからこそ、今日の事を聞いて欲しくて、親友である真希に電話を掛けたのだ。


『あー、今の声のトーンでなんとなく、何について電話掛けてきたのかわかったわ』

「え!? そんな些細なことでわかっちゃうの! 流石、私の親友だよ~」

『どうせ例の先輩だろ? 何があったのか話してごらん』


 真希はいつも通りの落ち着いた声のまま、私の話を聞いてくれた。私も今日あったことを全部話した。昔から困ったときはいつも真希に頼っていた。そんな彼女は時に厳しく、時に優しく、私の事を考えた発言をしてくれることから、若干母親みたいな感覚に陥ることがある。 


『あのさぁ、茜……』

「何?ママ」

『誰があんたのおかんだ! ……そうじゃなくて、あんた考えすぎだよ。先輩のことになると』

「そ、そんなことないよ! だって今回のことなんて、完全に死亡フラグだよ? この後、断られるよ~」

『だから、もし断られたにしても、別にあんたが嫌で断るんじゃないって! 今回のことも本当に手帳忘れてわからなかっただけでしょ!』

「そうかな、本当はいつも帰り道に待ち伏せしてる私を見て、ウザいとか思ってんじゃないのかな?」

『正直、それはキモいから辞めな……。一緒に帰りたいならちゃんと口で言いなさい』

「えー、それじゃあ先輩がドキドキしないじゃん! もしかしたら今日もいるかもしれない、みたいな感じで思ってもらいたいのにー!」

『あんた、さっきウザがられてるか心配してなかったっけ……? まぁ、いいや、とりあえずいらん心配はすんな。茜なら大丈夫』

「真希~~~……」


 その言葉に私は涙を溜めた。何の根拠もない『大丈夫』だけど、いつもこの言葉に勇気づけられる。何だか自分でも自信がついてきた! うん、マイナスに考えるのは良くないよね。ポジティブに行かないと!


『はぁー、でもあんたも本当に変わったわね。昔は皆を引っ張ってく、頼れるリーダーだったのに。今のあんたの姿見た後輩達は、きっと泣くぜ』

「もぉ~、昔の話はやめてよ! 私は完全に辞めたんだからね! それにサークルだって解散させたんだからもう関係ないもん!」

『あんなにでかくなったサークル、そんな簡単に壊れないって。今は私も関わってないから知らねぇーけど』

「いいから! 私はもうギャルなんて辞めたの! 真面な清楚系になって、絶対に立花先輩を振り向かせて見せるんだから!」

『別に、口出すつもりはねぇーけどさぁ……。まぁ、あたしも応援してっから、何か辛いことがあったらいつでもいいなよ』

「うん! ありがとう、真希」


 そして、お互いにおやすみを言い合って電話を切った。

 今の会話の流れから分かっていただけたように、私は元ギャル。しかも、とあるギャルサーと呼ばれるサークルの設立者でもあり、代表をやっていた。髪の色も今は黒色になっているが、当時は金髪で服装もチャラチャラしている、いかにもイケイケ系の服装をしていたのだ。

 ある事件をきっかけに二年前にギャルを辞め、その後、駆さんに好かれるよう髪の毛や服装を変えていった結果が今である。

 私が元ギャルであることはバイト先ではバレていない。一人を除いて……。


 真希との電話を切った時、メッセージが来ていることに気づいた。


立花たちばな かける:お疲れ様です。日曜日の件なんだけど、ごめん。サークルのミーティングが入ってて映画行くことできないや……。ごめんね』


 …………、フラグ回収しちゃいましたーーーー!!!!

 そして、今にも悲しみで意識が飛びそうな中、先輩に当たり障りのないメールを返し、眠りにつくのだった。

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