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彼女が出した一つのお願い?


「き、気まずい……」


 そう思うのも無理がない。非リア充の男子ならこんなところに一人でいることはめったにないだろう。

 周りにいた女性達は試着室の前に立っている俺に対し、視線をちらつかせていた。


「あの……、すみません先輩。もう少しで着替え終わるので、待っていてもらえますか」

「あ、うん。全然大丈夫だから……」


 俺は彼女の申し訳ない声に痩せ我慢な態度で答えた。


 ことの発端は1時間前の昼食を食べていた時までさかのぼる。


「どうかしたの? 新北さん。ガッツポーズなんてして」

「いえ、これはガッツポーズじゃありません! 気合を入れたんです。……気にしないでください」

「そ、そう? あのさ、もし良かったら一口だけハンバーグ取り替えっこしない?」

「と、取り替えっこ……ですか?」

「あ、うん。嫌なら別にいいんだけど」

「…………」


 俺もこの店で一番人気のチーズハンバーグを食べてみたいと新北さんに提案をしてみたが、それが嫌だったのか、彼女はめちゃくちゃ考えこんでいた。

 数秒沈黙したところで、彼女はなにらやモジモジとしながら口を開いた。


「い、いいですよ……。一口……ですよね」

「あ、うん! ありがとう!」


 そう言って、俺はお互いのハンバーグが乗ったプレートを取り替えようとしたが、なぜか新北さんは自分のハンバーグを一口サイズに切り分けフォークで刺した。


「……せ、先輩! はい、あーん」

「……!?」


 新北さんは顔を赤くしながらフォークで刺したハンバーグを俺の口元へと近づけてきたのだ。


「なに……してるの?」

「は、早く食べてください! 凄く恥ずかしいです……」

「あ、いや、ごめん。でも、なんであーんなの?」

「!? ……あ、いや、わ、私はこの方法でしか取り替えっこの方法を知りません!」

「た、確かに、プレートごと移動させるより切ったやつをお互いにつつく方がいいけどさ、あーんじゃなくても……」

「……わ、わかりました。それではこのチーズハンバーグ、立花先輩にはあげません!」

「えっ!? そんな!」

「先輩、はっきりしてください! 欲しいんですか? 欲しくないんですか?」

「……。ほ、欲しいですけど……」

「それじゃあ、これが最後のチャンスですよ! はい、あーん……」


 そして、彼女が再びハンバーグを運ぼうとした時だった。

 ポロっ……。


「あっ……」

「あっ……」


 そのハンバーグは彼女のフォークを離れ、彼女の白いワンピースの上へと着地した……。


 そして現在、彼女の要望であるショッピングも兼ねて、デミグラスソースで染み付いたワンピースの代わりを買うため、女性用の洋服屋に男一人で試着する新北さんを待っているというわけだ。


「試着終わりました……。カーテン開けますね」


 彼女の声があった直後にカーテンは開き、先ほどの白のワンピース姿とは違う、グレーのサマーニットに白のロングスカート、首元にはちょっとしたネックレスを掛けた大人っぽい印象の新北さんが出てきた。


「どうでしょうか? 似合いますか……?」

「…………」


 正直、言葉が出なかった。さっきまでのまだ幼さを残した清純派ヒロインの印象とはまた違く、今度は俺よりも年上と感じさせるほどの大人びた姿に少し見とれてしまっていた。

 俺が言葉を失っているのを見て心配になったのか、しょげた顔になり、


「あの……、やっぱり私には似合いませんよね……」

「そ、そんなことないよ! ちょっといつもの新北さんっぽくなくてビックリしただけ。めちゃくちゃ似合ってるよ!」

「!? ほ、本当ですか?」

「ホントだよ! もっといろんな服着ているところを見たいくらいだよ! 新北さんならどんなの着ても似合うと思う!」

「そうですか……。ありがとうございます! そしたら、今度は立花先輩が選んでくれませんか? 私に似合う服を……」

「え、俺が!?」


 これは今までにない大チャンスなんじゃないのか? リアル女子に自分の好みの服を着てもらえるなんて、今後生きていく中であるものか。

 俺はそんな事を思うと不敵に微笑み新北さんに答えた。


「わかったよ。俺がコーディネートしてあげよう!」


 そう言い残し、俺は店内の散策を始めた。さっきまでは女性物の洋服屋に一人でいることに気まずさを感じていたが、今は自分の欲望のせいか全く他人の目を感じることはなかった。

 数分後、俺は選んだ洋服を持ち、新北さんのもとへ行き、試着を促した。


「わかりました! 先輩に選んで頂いた服、試着してきます!」


 そう言うと再び試着室のカーテンを閉め、新北さんは着替え始めた。

 再び俺は一人で待つという、気まずい状況に立たされていたが今回は自分がチョイスした服がどんな用に着こなされるのかが楽しみで、気まずさは全く感じられなかった。

 しばらくするとカーテンがガラリと開き、少し恥じらいながらにたたずむ彼女の姿があった。


「ど、どう……ですか?」

「うん! 凄くいいよ!」


 やはり俺の目は間違いじゃなかった。ピンクのフリルの付いたワンピースに大きめの黒のベルト。まさに幼さを残しつつ、少し小悪魔感を出したコーディネートだ。

 

「あの……、少し幼くないですか? この格好」

「なにを言ってるんだい。そこがいいんじゃないか!」


 このファッションはこの前見たアニメのキャラクターをモチーフにしていて、普段はおしとやか清楚系のキャラのヒロインが主人公とのデートの時にそのイメージとはウラハラに、可愛い系の服装を着てギャップを見せつけるという場面を元に選んだのである。

 もちろん、そんな経緯で選んだとは彼女は知らせず、いわばコスプレに近い事をそれとなく俺は彼女に勧めたのだ。


「先輩がそこまで言うなら……。わかりました。私……、これ買います!」

「よっしっ! それがいいよ!」


 新北さんはそのまま店員を呼び、洋服を着たままお会計を済ませ、今日一日を俺が選んだ洋服を着て過ごすこととなった。



「次、新北さんはどこか行きたい場所ある?」


 新北さんの洋服を買い、映画まで残り一時間半近く何処で暇を潰そうかと迷っている時だった。


「さっき私の行きたい洋服屋さんに行けたので、今度は先輩が行きたいところに行きましょう!」

「そう? あー、じゃあゲーセンとかどうかな?」

「ゲーセン……、ですか」


 暇があれば直ぐさまゲーセンに行きたいと言ってしまうこの非リア充をどうか許してくれ……。

 ギャルゲーでのデートでも定番のゲーセン。リアルではどこまで許していただけるがわからないが、俺の思いつく場所といったらそこしかないのだ。

 新北さんは俺の提案に対して少し考えてから、少し頬を赤らめて、


「いいですよ! ゲーセン行きましょう!」

「マジか!? よしっ、行こう!」


 どうやらリアルでもギャルゲーのシチュエーションは通用するようだ。

 俺たちは人が行き交う中、ショッピングモール内にあるゲーセンへと向かった。

 程なくしてゲーセンへと到着すると、やはり土曜日の午後というだけあって子供から大人まで様々な年齢層がゲーセンに密集していた。


「結構人いますねー。先輩、なにかやりたいのありますか?」

「そ、そうだなー……」


 ゲーセンなんてUFOキャッチャーや音ゲーしかしない俺には女の子と楽しむゲームなんてすぐに思いつくわけもなく、


「いろいろ見てから、決めよっか! 新北さんもやりたいゲームがあったら言ってね」


 とりあえずはあてもなく二人、ゲーセンを見て回ることとなった。


 意外にもカップルでゲーセンを楽しむ人も多く、大体は彼女が欲しがっているのだろうぬいぐるみを彼氏が頑張って取ろうとしている姿が見られる。残念ながら俺はそこまでUFOキャッチャーが得意な方ではないし、彼女でもない子にぬいぐるみを取ってあげるなんてキザな事はできないと感じているほどであった。


 ふと新北さんの方に目をやると、一点を見ている彼女の姿があった。


「もしかして、あそこにあるシューティングゲームやりたいの?」

「あ、いえ……。ちょっと気になっただけです」


 彼女の見ていたシューティングゲームは単純なもので、出てくるゾンビをただ打ち抜いていくとスコアを争うゲームである。遊び方としてはソロプレイはもちろん、2人プレイもでき、中には協力プレイやお互いのスコアを争う対戦プレイなどもある。

 前に俺もプレイした事があって、最初は簡単なのだがステージが上がるごとに一気にゾンビの数が増え、最終ステージになるともう無理ゲーなんじゃないかと思うくらいの難易度をほこっていた事を覚えている。

 まあ、所見のゲームで醜態を晒すよりはやった事があるゲームの方がいいと判断し、


「せっかくだからやっていこうか!」


 と、新北さんをゲーム台に連れて行った。


 ある程度のゲーム説明をした後、彼女にそのゲーム専用の拳銃を手渡すと、俺は慣れた手つきでコインを投入し、ゲームの設定を行った。今回は初心者の新北さんがいるため、二人で盛り上がれる協力プレイを選択しようとした時だった。


「あの、先輩……。ちょっといいですか?」

「ん? どうかした?」


 新北さんに呼び止められ、設定をしていた手が止まる。彼女の方を向くと何やら真剣な面持ちで一つの提案をしてきた。


「対戦モードでやりませんか?」

「……え、対戦モード!?」


 まさかの提案に俺も少し戸惑う。


「もしかして、やったことある? このゲーム?」

「いえ、全くやった事はないです……。でももし、私が勝ったら、一つだけ……、お願いしたい事があるんです……」


 どうしようかと俺は少し考えたが、彼女のあまりに真剣な瞳に圧倒され、


「わかった! じゃあ対戦モードでやろっか!」


 と、彼女の提案に乗るのであった。

 流石に、初心者の女の子に本気を出すのは大人気ないと思い、少し手加減して一緒にこのゲームを楽しもうと俺は考えていた。


 設定で対戦モードを選択し、程なくしてゲームは始まった。対戦モードでは画面が二つに割れ、それぞれの画面状で同じタイミングにゾンビが出現する仕組みになっている。

 このゲームはゾンビを打ち抜く場所によってスコアが上下し、ある程度ゾンビに近づかれるとライフが削られ、ライフが0になった時点のスコアで勝敗が決まるというゲームスタイルになっている。


 第一ステージはゾンビの出現も少なく、お互いにクリアできたようだ。

 俺は次のステージに移る途中、少し余裕もあったため対戦者である新北さんを気にかけ声を掛けた。


「どう、新北さん。できそう……」

「…………」


 隣にいた新北さんの表情を見てみると、まるでハンターが獲物を狙うかの様に、画面に集中している姿があった。いつもと違う新北さんの姿に俺は彼女から漂う緊迫感を感じ取り、話そうとした言葉が止まってしまう。

 新北さんの画面に目をやると、そこには第一ステージで普通ならそこまで差が付かないというのに、彼女は画面には俺を遥かに超えるスコアが表示されていたのだ。


「ま、マジかよ……」


 流石のスコアの差に俺も何が起こっているのかもわからず、第二ステージへと画面は移り変わる。

 第二ステージもそこまで難しくないので今度は新北さんの画面を気にしながらプレイしていくと、驚くことに彼女はほぼ全てのゾンビをヘッドショット喰らわせ、プロ顔負けのプレイをしていた。


 そして、第二ステージが終わった時にはさらにスコアの差が開いていた。

 流石にヤバイと感じた俺は、最初の手加減するという言葉なんてどこえやら、一心不乱にゾンビを打ち続けた。


 それからお互いにステージをこなしていき、最終ステージの一個前で俺のライフは0を示し、ゲームオーバーとなってしまった。


「あちゃー、やられちゃったよ……」


 俺は直ぐさま対戦相手の新北さんの画面を見てみると、驚くことに、この終盤になっても一つもライフを削られていなく、かつ見たこともない高スコアを叩き出す新北さんの姿があった。

 新北さん自身、もの凄い集中力を発揮し、俺がゲームオーバーになっていることにも気づいていない様子だ。


 最終ステージ、無理ゲーとさえいわれる場面に差し掛かった時だった。

 新北さんは何処で身につけたかわからないほどの洞察力と射撃センスで次々に現れるゾンビを撃退し、前代未聞のスコアを叩き出しゲームをクリアした。


「ふぅー、やっと終わった……」


 ゲームが終わり、額の汗を拭うかのような仕草をした後、何事もなかったかのようにいつもの新北さんへと戻った。

 スコアは見るまでもなく俺の乾杯。俺も余りの実力の差にショックを受けるわけではなく、ただ驚きを隠せないでいた。


「あ、新北さん……、ほんとに初心者なの?」

「え? そうですよ。全くやった事ありません」


 彼女自身も凄いこと事をやってのけたという認識はなく、俺の質問に対してポカンとしていた。

 彼女は俺とのスコアを見比べ、自分が勝ったことを確認したのか、パーっと表情が晴れやかになり、子供の様にはしゃぎながら、興奮気味に口を開いた。


「あのっ、あのっ、か、勝ちました! 勝ちましたよ、私!」

「あ……、うん。俺のボロ負けだよ……」


 改めて言われると、やっぱりショックだな……。


「あの……、先輩。最初に約束したこと覚えてますか……?」

「え? ……あー、一つお願いを聞いて欲しい……だっけ?」


 ぶっちゃけ今言われるまで、忘れていた。ここまでして俺にお願いしたい事って何なんだろうか。

 俺は彼女とゲーム前に約束した時の真剣な顔と、プレイ時に見せた姿勢を思い返し、少し緊張し、息を呑む。


「あの……、私……、先輩と……」

「お、俺と……?」

「あの……、その……」

『ゴクリっ……』

「ぷ、プリクラ! 一緒に撮りたです!」

「そっか……。プリクラね……。プリクラ、……ん? プリクラ!?」


 彼女の恥らいながらに出たお願いは、俺みたいな非リア充なんかが到底思いも浮かばない、未知の世界への招待だった。


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