ゴンズイに
現在、盗賊の住む洞窟の前である。ゴンズイは背中に大剣を背負っていて、真剣な表情をしている。もちろん、俺はゴンズイの背中に隠れながら、足を生まれたての小鹿の様にプルプルさせている。
え?だったらなんでこんなところについてきたかって?そりゃあついて来たくなかったに決まっているだろ。本当は直前で体調が悪くなったとか言って休んでいたかったさ。ここは俺に任せて先に行けって、ね。何?任せることがない?なら、こう言いなおそうここはお前に任せる先に行けってね。
そしたらさ、討伐の直前になって選択肢ちゃん(理不尽系ヒロイン)がこういうわけよ。
盗賊の討伐に向かいますか?
→はい
いいえ
選択肢ちゃんが喋れるとは思わなかったなーって。今まで相手の会話にしか反応する選択肢が出てこなかったから安心していたらこれだよ。しかも、いつも通り“いいえ”の選択肢を選んでも何も進まないし、どうしようもない訳だよ。さらには、体で逃げ出そうとしても戻る道の方には壁ができてるみたいでいけなくなってるし、何コレ強制イベント?
まぁ、そんなこともあってかいまここにいる。ゴンズイが、さこういう訳よ「私の背中にいてくださいね怪我一つさせませんから安心してください」って安心できるわけがないよねー。物語上とかの盗賊って隠密行動得意そうだし、投げナイフとか投げてきてゴンズイ通り抜けてこっちに攻撃が来そうだし、もう嫌だ。
「オーイチ君、突入する際にこれを渡しておこう」
そういって差し出されたのはシルバーの腕輪だった。何らかの文字は刻まれているものの宝石などいった装飾の類は一切施されてはいない。
「これはパーティリングといってね。冒険者などが使うものなんだけどね、パーティ内の経験を共有させることが出来るんだ。オーイチ君には体力と力をつけてもらわないとね。あんまりいい方法ではないんだが、経験の共有で力をつけてもらわないと戦いの訓練もできないし、魔物や盗賊の討伐なんかももっての外だからね。」
つまり、俺の世界でいう経験値的なものが存在していてそれをパーティとして認識して分配してくれるのがこの腕輪ってことらしい。つまりはパワーレベリングやつか。
準備もできたことでゴンズイは洞窟の中へと歩みを進めていく。しばらく、進んでいくと人の姿が見えてくる。
「何者だ!ここが俺らのアジトだと知っていて入ってきたのか?もし、知らないで入ってきたなら引き返せ。今なら見逃してやるぜ。」
と、その人物は言い放つ。
ゴンズイはそれに対して言葉を返す。
「貴様たちが盗賊だと知って、討伐に来たのだ。残念ながら、王家の命により生きて逃すわけにはいかない。覚悟してもらおうか。」
「なら、遠慮は……」
帰ってくる言葉は途中で途切れてしまった。相手が話している間に目に見えないスピードで大剣を抜き、相手の首を切ったのだ。勢いよく首は飛んでいく。ただ、俺は現実感離れしたその光景に恐怖するわけでも、吐き気を催すわけでもなく、ただ現実感が遠ざかっていくいき唖然とするだけであった。
しばらくしてから意識が戻ってきた。呼吸はいつの間にか乱れており、心の臓はいつもより早く動いているのが分かった。そして体に痛みが走る。自分が切られたわけでもないのに首から下が自分のものではないかのような感覚に陥る。
そして、ゴンズイは
「素早く、終わらせてしまいましょう。オーイチ君に刺激が強すぎたようだね。早く戻って体も心も休息をとってしまった方がいい。」
そこから何があったかはあまり覚えていない。ただ茫然自失としていて人が切られていく様を見せられているだけであった。ただただ、圧倒的な暴力の前に盗賊たちは薙ぎ払い、切り伏せられていく。
ようやく、光を浴びることができたその頃。幾分か本当に少しであるが正気に戻ってきていた。
ただ、機械的に自分がゲームでいうレベルアップをしたのだと気づく。
名前 カシマ オウイチ
称号 異世界人
Lv 5
HP 60
MP 22
筋力 40
防御 40
魔力 40
素早さ40
器用さ55
運 3
スキル 勇者の加護(残りカス)
そうして、村長宅でただ眠りにつく。