とあるアンドロイド偏愛者にとっての母の日
折角母の日なので、何か関連したお話を書こうと思ったら
母が絡んでくるシリーズ作品2つではかなり残念な関係を構築していたため
こんな感じに落ち着きました。
さて、5月の第2日曜日である。
「母の日だな」
「うん、母の日だね」
「ですね」
俺の一言に、楓と花音がうんうんと頷いている。疑いようも無く母の日である。
世間は母の日商戦に燃えており、このショッピングセンター内もかなりにぎやかになっている。
「俺には縁遠い日だな」
ただし、自分の血縁上の母は今現在どこにいるかも分からない。母の日を5月の第2日曜日に祝う文化の中にいるかさえも不明だし、恐らく祝われたいとも思っていないだろう。
「そうだね」
そこらへんを心得ている楓は、何でも無いことのように頷く。
「軽すぎません?」
が、その言葉に花音が首を傾げた。確かに、軽いが毎年こんな調子だとただの事実確認になってしまうのだから仕方がない。
家族的な側面を第2世代の骨董品こと我らがつばささんが一手に担っているので我が家にとってこういったイベントごとは何とも言えぬ位置づけになっていた。
「それで、前置きは良いとしてつばさには何をしてあげるの?」
「うぐっ……」
「あ、なるほど。そういう前振りなんですね」
楓がフードコート内の椅子に腰掛けながらあっけらかんと言う。それに花音が納得言ったように相づちをうった。こちらの照れ隠しに付き合ってはくれないらしい。まあ、毎年毎年こんなやりとりしてるしな。いい加減嫌になるよな。自分と花音もテーブルについて、会議を続行する。
今日のお供はタコヤキであった。楓がどこからか無料券を入手してきたためである。
「大体、つばさはおかしいんだ。俺は今年で17歳なのに、当然のように子供の日を祝われたし……」
なら、お返ししなければいけないだろう……たぶん。
「手作りのパスケース貰ったんだよね。つばさは、本当に甲斐甲斐しいね」
「放っておくと鯉のぼり辺りまで自作するんじゃないかな、きっと」
頭の中に、『陸、庭に飾りましょう!』とハシャいでいるつばさのヴィジョンが浮かんだ。彼女ならやりかねない。
「無欲なんだよなー、つばさ」
「あー、そうだね。わがまま、滅多に言わないし」
わがままを言うアンドロイドの方が世間一般的にはおかしいのだけれど、十年以上生きてる彼女をまともなアンドロイドと比較するのは馬鹿らしい。
そもそもアンドロイドが現在のような体系を作り始めたのは第3世代いこうだ。それ以前はカオスだった。
「昨年までは何をあげていたんですか?」
花音が聞く。彼女とは比較的付き合いが浅いので母の日のことは初耳だったのだろう。幼なじみと『母』を比較対照にしたって何にもならないけれど。
「少し変わったメンテナンス用品とか、アクセサリーとか」
ともあれ、今までのプレゼントはそんな感じだった。仕送りの範囲内でやりくりしている。
そもそも彼女には物欲が殆ど無いので、選ぶのも難しくなる。『相手の気持ちになって考える』のがなかなか難しい。相手の気持ちになるためにとりあえず悟りを開くところから始めなければならないというベリーハード仕様だし。
「そうですねー、デイブレイク社でも『アンドロイド感謝デー』的なイベントをやってますし、ショールームでも見に行きますか?」
やっぱあの会社頭おかしい。といっても、デイブレイクにとって『頭おかしい』は誉め言葉である。アンドロイドに人間性を見いだすマイノリティーにとって、あの会社の存在は必要不可欠なのだ。
デイブレイク社、リード社、ユニバース社が日本のアンドロイド業界を牛耳っているわけだが、デイブレイク社は人間性を重視している。リード社は利便性、ユニバース社は創造性とそれぞれ向く方向が違うのだ。『どの会社が好きか』というのは政治の話ばりに白熱するので少し気をつけないといけない。
「あ、やっぱりそういうこと考える人少なくないんだね」
「程度の差こそあれ、アンドロイドが家族機能の一部を肩代わりしているのは事実ですからね」
花音は何でもないことのように頷く。
母が洗濯板で洗い物をしていたのを、今じゃ洗濯機が全自動でやってくれる……みたいな状態の延長かもしれない。家族機能を機械が肩代わりするのなんて百年前からそうだったわけだし、今更嘆いても仕方がない。
といっても、今でもアンドロイドによる子育てに根強く反発する人もいる。
「ちなみに、どんなキャンペーンなんだ?」
そんな裏事情より、今はつばさの母の日のことだ。
「あ、すみません、なんだか勧誘みたいになっちゃって……」
「いや、良いんだよ。普段からチトとデイブレイク社には助けられているし」
チト、こと花音の父はデイブレイク社の役員をやっているので、必然的に彼女はデイブレイク社寄りな考え方をしている。アンドロイド関連の知識もかなり豊富なので、実は結構助けて貰っていたりする。
自分は『マスター』としてはかなり古株なくせに、アンドロイドに関する知識は殆ど無いから……。
「そうですね、可愛い服とかが多いですよ。アンドロイドも喜んでくれますし、何より必要なものでもあるので彼女たちも納得してくれますから」
「服か。それなら着てもらえるかもな……だけどプレゼントを上げたら無駄遣いだと怒られたって話、よく聞くよな」
「泣けるね」
「心が折れる自信がある」
照れ隠しでも何でもなく純粋に無駄遣いを諫めるような事態が発生するのも、アンドロイド特有というか、なんというか。嬉しくないわけではないんだろうけれど……その前にアンドロイドはマスターのことが第一で自分のことは最後なのでその優先順位をまるっと反転するような事態は受け入れがたい部分があるのだろう。
「本来第二世代のアンドロイドならば、そういう対応が当然なんですけどね……?」
一般的に感情演算能力は世代が進むに連れて高度になっていくので人間味もそれに従って増していくのだが、我らがつばさはそんな法則お構いなしである。十年以上稼働中のアンティークだしな。
「……た、高くないか?」
何着かディスプレイされている衣服を見る。ショールームといっても結構雑多なもので、アンドロイドに必要なものは一通り揃っている。といっても、最低限だけど。
アンドロイド版のコンビニみたいなものだ。
そして昨今ではアンドロイド用の服、というジャンルがちゃんと存在している。充電用の器具を接続する部位が開くようになってたり、メンテナンスがしやすくなってたり。人間用の服でも何の問題もないわけだが、アンドロイド用の服だとちょっと便利。
「う……ど、どうしてもこういったものは単価が高くなってしまうんですよね……」
そもそもデイブレイク社の純正品だからなぁ。衣服は彼らの専門分野じゃ無いだろうから、値段が高くなってしまうのも仕方がない。
ついつい財布を開けた。当然、以前に開けたときから増えているはずもない。
「そ、そうです! 家電量販店に行けば、もっとお手頃なお値段のものもあるかもしれません!」
「うーん、意外と難しいものだな、プレゼントってのも」
つばさが重荷に感じず、そして喜んでくれるライン……。見極めるのが案外難しそうだった。
その頃。
「つばさ、どうしたのよ、やたらとそわそわして……充電でも切れそうなの? それとも熱暴走?」
「い、いえ……陸はどうしているかと思いまして」
遥香と二人は陸の家でまったりしていた。遥香は楓を送り届けてそのまま居着いた形になる。
第6世代機である遥香にワンルームマンションでの一人暮らしで発生する家事をこなすことなど造作もないので、結構暇しているのであった。
「情報端末にGPSを積んでるんじゃないの?」
「つ、積んでるんですけど……さっきからデイブレイク社ショールームに行ったり、家電量販店に行ったりと不穏な動きをしてまして……」
なるほど、それで挙動不審になっていたのか。
現在のつばさは、キッチンと遥香のいるダイニングをうろうろさまようばかりで、合理性のかけらもない動きを繰り返していた。
実際、その二つは今の彼女にとっては不安を煽るような場所なのだろう。買い換えられるとでも思ってるのだろうか。いつもならつばさを連れだってでなければ決して行かない場所だ。
十中八九プレゼントでも買うつもりだろう、と遥香はまさにその通りの予想をした。なら、自分に頼ってくれてもいいのに。水くさい。いや。男の子的にはそういうのが恥ずかしい年頃なんだっけ。
行き先も、目的も告げずに出て行ったし。
「うう……ARROWに活路があるとはいえ、やっぱりリスク回避とコスト削減は必要ですよね」
つばさは陸が居ないと何にも出来ないんだなー……ということに今更気づく。合理的な推測に見せかけた斜め上の発想。やはり私達は、結局の所アンドロイドなのだろう。機械は人間にはなれない。
けれど、事実としてそんな機械に人間性を見いだしてくれる人たちが居るのだ。私達はそんな優しい人間達に全身全霊で尽くすことが出来る。それだけは誇りだった。
「陸はそんなに薄情じゃないわ」
「うう、でも……」
そして、『優しい人間達』は私達の予想よりもずっと優しい。私達が当然のこととして出来る『奉仕』に対価を与えようとする。人間に例えるならば、『生きててくれてありがとう』と感謝されるような状態かな。
「つばさは大人しく、クリームシチューでも作って待ってなさい」
「や、やっぱり男は胃袋で掴め、って奴ですか!? そうすれば捨てられませんか!?」
「……うん、そうね。そんな感じ」
そうしなくても捨てられないのだけれど、そこの所は陸に説明してもらおう。
本当にこの子はあのつばさなのだろうか。陸の隣にいるときは、凄く頼りになるのに。
この子が幼なじみをして『一番のライバル』といわしめたアンドロイドなのだろうか……? だいたい、公的記録の残っている最古のアンドロイドで15年の稼働歴で、彼女は13年。最新型との溝を経験だけで埋めるアンドロイド界の古強者なのに……。
今の彼女は、起動直後かと疑いたくなるくらいに情緒不安定だった。
「ううあああ……陸が、陸が私を置いて外出を!」
「ちょ、本当に熱暴走起こしそうね……こっち来なさい。日陰で涼まないと」
「遥香さーん……陸がぁ!」
「はいはい、陸は女の子をもてあそんで、最低ねー」
「そんなことないです!」
力強い否定と来たか。
「今日のあんた本当にメンドクサいわね!」
「だって彼は最高です! なんせ私のこの体は……」
そこから長々とのろけが始まったわけだが、どっかのマスターが年中言っていることと似たような内容だったせいか、なんだかもう強制シャットダウンをして逃げ出したい気分になってしまった。
「へっくしゅん……うう、花粉症かな?」
「大量の空気清浄機がディスプレイされてるここで、それは無いんじゃないか?」
自分で自分のくしゃみに驚いた、みたいな表情で、楓が言うのだが、このフロア通路沿いが空気洗浄機コーナーになっているため無駄に空気が綺麗なのであった。駅に程近い家電量販店は、その広いスペースを実物を展示することに使用している。物流が発達しきっている昨今、実物に触れられるというのはネット通販にはない大きな魅力であった。
この通路を抜けて、右側がアンドロイドコーナー。今はそこを目指していた。その近くに行くとアンドロイドが実際に売り子として働いているのでかなりにぎやかになるはずだ。
「噂でもされたんですかね。委員長は有名人ですし」
花音は彼女を『委員長』と呼ぶ。楓はそれほどテンプレートな委員長的な人間ではないが、似合うと言えば似合う呼び名だった。
「そうなんだよなー。勉強できるし、可愛いし」
世間一般で言われる彼女の欠点は、交友関係くらいなものである。より正確に述べれば、アンドロイド偏愛者として有名な俺と幼なじみの関係にあることである。ごめんなさい。
「あはは、おだてても何も出ないよ」
「男子から時たま恨み言をぶつけられるんだよなぁ」
と、言っても奴ら、本当の所はたぶん俺を障害と思っていないだろうけれど。なんせ、アンドロイド偏愛者だし。恋愛においては、アンドロイド偏愛はかなりハンデだからな。
「それを言い出したら、花音ちゃんも可愛いし、成績もトップクラスでしょ?」
「それほど話題性もありませんよ。一年生には私の上位互換みたいな人がいますから」
「上位互換だって?」
まるで機械みたいな言いぐさだ。
「はい。リード社のご令嬢で、成績もトップ、それにとても可愛いんです」
ああ、なるほど。デイブレイク社『役員』の娘で、成績もトップ『クラス』な花音に比べれば、確かに上位互換のような肩書きである。
「それは都合が良い。それじゃ、その子には囮になってもらおう」
茶化すように言った。本当に下位互換なんてわけはない。
「……え?」
なんで花音、本気で驚いたような表情に?
「まさかチト、本気で言ってた?」
「え、本気でしたよ?」
……何というか、もう、聞いてるこっちも驚いてしまう。
彼女は何でも知ってるようなそぶりでいて、実際純粋培養なので時折重大なところが抜けている。
「そういうこと言うなよ。チトのことを好きな人が聞いたら、きっと悲しむから」
「え……す、すみません」
「きっとその子のことを好きな奴も、肩書きとかそういうものが好きなんじゃないと思うし……」
「そうですか--陸は、本当に良い人ですね。大丈夫です。もう、変なこと言いませんから」
花音は淑やかに微笑んで、手を引っ張って自分をアンドロイドコーナーの方へと誘う。それを楓が、あきれ半分に見ているのだった。
「ただいまー」
玄関から、陸の声が響いた。遥香はやっとつばさの惚気話を終わらせてくれる存在が現れたことに心の底から感謝した。祈る神を持たぬアンドロイドの身でありながら神に感謝さえした。
「うう、も、もしかして新しい子を引き連れているんじゃ……データの引き継ぎをさせられるんじゃ……」
とはいえ、つばさはまだ被害妄想にとりつかれている。
「二時間近くひたすら惚気話の連続だったのに、そんなこと考えてるってどうなのよ……?」
アンドロイドはマスターの為に存在するのでつばさが陸にご執心なのは仕方ないのだけれど……それにしても滑稽でさえあった。つばさの言うには慈愛の化身である陸がそんなことをするわけが無いのだけれど。
自分も含めて、アンドロイドは要所要所で馬鹿である。
「足音は三つですが、契約は済ませて今日は手ぶらで帰ってきた可能性も!」
「十中八九……いや、ごめんなさい。何でもないわ」
そこの所はきっと陸が説明したいだろうし、私は黙っていることにした。
狙ったわけでもなくサプライズが成功する辺り、アンドロイドはチョロい。
つばさはおっかなびっくり陸のお迎えにいく。それでも行く辺りはいじらしい。
「つばさー、ハッピーマザーズデー!」
「…………………………へ?」
陸は、両手一杯のプレゼントを彼女に渡すのだった。ほら、やっぱり。陸は良い奴だったでしょう。
プレゼントは、服と花束--いや、フラワータオルだ。なるほど、実用的で洒落たものを調達したものだ。
「あー、つばさ、気づいてなかったみたいだね」
私のマスターが呆れ気味に笑う。アンドロイドは、どこか持ち主に似る。鈍感な陸に13年寄り添った彼女が鈍感になるのも仕方ないかもしれない。
「あ、あれですか? あの、『除隊を許可する』的な、死に行く仲間の口に煙草をくわえさせてやる奴ですか!」
つばさは凄い勢いで大混乱している。冥土の土産か何かと勘違いしたようだった。
確かにつばさは死に行かんとしているけれど、それを後押しするような陸ではあるまい。
「お前が何を言ってるのかさっぱり分からない」
たぶん、それは普段花音ちゃんや楓が味わっている感情なんだろう。当の本人に自覚は無いんだろうけれど。
「今日、5月の第2日曜日だろ」
「は……母の日ですか!? 陸のお母さんって……その……」
「母の顔は覚えてないから、母親代わりのつばさに感謝を伝えようかと……てかこの下り毎年やってるだろ!? なんでお前毎回すっかり忘れるの!? 演出!?」
「で、でも……」
ついに陸が鈍感ぶりに耐えきれなくなったのか、反ギレでつばさに迫る。その手には梱包された服と花束(偽)だから、シュールな光景になっている。
結婚をしぶる女性と、無理に迫る男性みたいな構図。
「マスター権限だ、答えろつばさ。本当は覚えてたんだろ!」
「本当に忘れてました!」
……今日のつばさは、かなりポンコツだ。
「とりあえず、これ受け取ってくれ」
「は、はい……」
つばさがプレゼントを受け取る。未だ戸惑いっぱなしで、さっぱり喜べてもいない。
「そうだ、今日はクリームシチューが食べたい」
「今日もですか!?」
「今日もだ」
「はあ、分かりました」
つばさは面食らって、花束と服を受け取ったその足でキッチンに行く。いやいや、濡れちゃうわよ。タオルだから良いのかもしれないけど。それと、陸にお礼の一つも言いなさいよ。本当に稼働直後みたいな感じになってるわよ。
感情演算が追いついていないのだろうか?
情報端末でたくさんの操作を一度にすると、しばらくの間うんともすんとも言わなくなった後に一気に操作が実行されて大混乱するようなことがあるけど、それのアンドロイド版みたいなものだ。
「……あれ、遥香さん、この包みとフラワータオルは何でしょうか」
キッチンについて、つばさはしばらく停止する。かなり処理が遅れているようだった。そして、両手の中にあるプレゼントをしばらく見つめていた。
ぽかーんと棒立ちになっている。
「記録を参照したら良いんじゃない?」
「そうですね--記録参照します……」
さて、たぶん楓は遅くまでおじゃまするだろうし、花音ちゃんは夕方頃に帰るだろう。夕飯は2人分でいいだろう。陸はクリームシチューをリクエストしていたな。となると、私の出番は無い。
「「………………」」
数秒の沈黙。
「やりましたぁああああああああああああああ!!」
そしてつばさ、魂の叫び。一瞬、プリインストールされたアクションの『ガッツポーズ』をしようとしたみたいだけれどそれではプレゼントを握りつぶすことに気づいて慌てて止めた。そのせいか、随分と前衛的なポージングになっていた。アンドロイドの可動域の広さをまざまざと見せつけている。
「見てください、遥香さん! 陸が何かくれましたよ!? これ何でしょう!?」
「ぱっと見、服とタオルね」
「ふふふ、陸が! 私に! プレゼントを!」
……本当にチョロいなー。
これがつばさが長年陸と寄り添っていられる理由なのかもしれない。私もたまには、楓に素直に感謝してみよう。
「そーね。そこそこ高いプレゼントね」
「うふふふふー! 陸がプレゼントをくれましたー!」
口頭での状況確認を繰り返しながらプレゼントを天高く掲げてくるくる回っている。凄まじいバランス感覚。
「はっ!? 陸にありがとうって言ってません! 感動を舞にしている場合じゃ無いです!」
随分表現力豊かだ。
「いや、別に良いよ」
「…………え?」
ダイニングからひょっこり顔を出した陸が、何でもないことのように言う。日本の家屋であんだけ大騒ぎすればそりゃ聞こえるわよね。
そして、つばさがフリーズ。また処理落ちしていた。
「あ、陸。私、部屋の掃除に回っても良い? 今日はお袋の味が恋しいだろうし」
「悪いな。頼む。つばさ、あんまり無茶な演算とか動きとかするなよ。間接痛めるから」
陸が当然のように、謎ポーズで固まっている翼の肩を叩いた。
「了解です、しばらく旅に出るので探さないでください」
「え……いや、え?」
プレゼントをしっかり抱きしめて、そのままつばさは動きを止める。
「つばさ……疲れてるなら、休んでも良いんだからな」
「違うんです! 弁解を、弁解をさせてください!」
つばさの声が、家中に響きわたる。
結局それは、新たな目撃者を増やすだけの結果に終わってしまったのだった。
書き終わった際に自分の業深さをここまで意識したのは、たぶん前回の某パイルバンカーバカの設定資料以来です。あれ、思ったより近い!
ともあれ、皆様のお気に入り登録をエネルギーに変換し、これからもカルマまみれの作品を書いていこうと思います。