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街と三人

「「・・おー!」」


声を上げたのはアインと優斗である。優斗はもちろんファンタジーな光景に目を奪われて、アインはゲームとは違う現実感のある光景に驚きの声を上げていた。

しばらくの間、行きかう人などを見た後、三人は歩きながらこれからの行動について相談する。


「これからどうするんですか? やはり国外に出るんですか?」

「いや、すぐに出るのは止めておこう。まずはこの国や世界について情報を集めよう。」


アインはまだこの国に留まるべきである、と主張する。犯罪者として扱われる心配もなくなったし、何より情報が足りていないからである。優斗もグランディルもそれに納得する。


「あと、お金がないから旅の準備が整えられないんだよね・・・。」

「あー・・・」

「だからとりあえず何か仕事をして稼がないといけないんだけどね。食事もとれないし。」

「それは・・・まずいですね・・・」


そうなのである、現在三人は無一文。このままでは旅に出るどころではないし、最悪ホームレス生活に突入してしまう。


「仕事の当てとかはあるんですか?」

「あるわけない・・・。と言いたいところだけど一応ある。」

「あるんですか!?」

「ああ。もともと私たちは戦力を期待されて召喚されたわけだろう? だから、おそらく戦闘を生業とする類の仕事は探せばあるはずなんだ。」

「なるほど!」


確かにそれはその通りである。事実この世界にも傭兵は存在するし、魔獣を相手にする冒険者のような職業も存在する。魔獣や魔族の脅威がある以上。戦力のある人間というのは、どこの地域でも歓迎されるのである。


「・・・しかし、すぐに報酬がもらえるわけではない。そして、ツテもない身元不明の三人に仕事があるとも思えない。」


これまでずっと黙っていたグランディルが会話に加わる。優斗は驚いた顔をしてるが、グランディルの言っていることはもっともである。更に言うなら現在の時間は昼過ぎである。夕方にはまだ時間があるが、今から仕事を探したとしても、おそらく無駄骨になることは想像に難くない。


「そ、そういえばそうですね。じゃあ今日は野宿・・・ですか?」


優斗は「それは勘弁してほしい」と思っていた。そもそも今日一日でいろいろなことがあり過ぎて、もう一杯一杯なのだ。召喚されて、王様と謁見して、奴隷に落とされそうになって、生まれて初めて戦闘を見て、更にその王様を脅迫して、と。もうイベントごとはこりごりであった。寝るときくらいベットで眠りたかったのだ。


「それは流石に嫌ですからね。今日のところはてっとり早く、商店に行って何か持ち物を売ってお金をつくりたいと思ってますよ。」


アインも野宿は普通に嫌だった。何せ中身はただの現代人である。野宿の経験などないし、できることなら風呂もほしいと思っていた。


(風呂はたぶん無いよなぁ。さっき井戸を見かけたし、あれで水をくみ上げてるんだとしたらとてもじゃないけど風呂なんてあると思えない。)


アインの想像通り、この世界において風呂は上流階級の人間しか入れないものである。理由としては大量の水を入れる労力と大量の水を沸かす労力を確保できる人間しか風呂に入れないためである。魔道具や魔法があるが、それらも高価であったりするため、風呂に入るのは上流階級の人間くらいとなっていた。


「・・・む? ここは質屋らしいぞ。ものを売るのならばここが相応しいだろう。」


そうこうしているうちにグランディルが質屋を発見した。

ちなみに文字についてだが、三人とも前の世界では見たこともない文字がつかわれている。しかし、文字を見るとなぜかその意味が頭に浮かんでくるのだ。おそらく、召喚の時にそういった魔法がかけられたのだろう。と三人は結論付けた。


「お、本当だ。それじゃあ入りましょうかね。交渉は私がしますから、二人とも静かにしていて・・・・・・・下さいね?」




-------------------------------------------------------------------------------------------------




アイン達は扉を開けて中に入る。店内は少し薄暗く、カウンターと椅子が置かれているだけである。カウンターには少し人相の悪い男が受付をしている。アインは椅子に座り、男に話しかける。


「買い取ってほしいものがあるんだが、いいかな?」

「何を売りたいんだ?」

「こいつを買い取ってほしい。」


アインがそういってどこからか取り出したのはまるで騎士が・・・使うような剣だった。


「こいつは?」

「鉄の剣だよ。見ればわかるだろう?」


男の問いかけにとぼけた答えを返す。詳しく話す気はない、という意思表示だ。男もそれを理解したのか、一度だけアインに視線を向け、鑑定に入る。


「・・・いい剣だな。刃こぼれもないし、まだまだ使えそうだ。そうだな、5000リラでどうだ?」

「じゃあそれで。」


即断即決である。男は少し驚いた様子を見せるが、アインにとってみれば悩む必要などないのである。なぜなら、そもそも貨幣の価値がわからないため5000Lというのが高いのか安いのかもいまいち分らない。商品に値札でも貼っているのなら、街中を歩いているときにそれらを見て貨幣の価値を掴むこともできたが、あいにくとそんな都合のいいものはなかった。


「いいのか?」

「いい。」


アインはしっかりと男の目を見て、力強く返答する。

この行動にも理由がある。実は、この剣は王城で騎士が使っていたものをこっそりと盗んできたものなのだ。調べればすぐにそれはわかってしまう。だからたとえ少々ぼったくられようとも、剣について追及させないために言い値で買う必要があるのである。


「・・そうかよ。ほら、5000Lだ。」


男に追及されたくないという思いが伝わったのか、少し口の端を歪めて銀色の貨幣を五枚渡してくる。


「たしかに。」


もちろんアインは銀色の貨幣五枚で5000Lなのかどうかはわからない。あくまで確認したフリである。


「ちなみにこの辺りでお勧めの宿屋はあるかい? あんまり高くないところがいいんだが・・・。」

「そうだな。・・・店を出て左にずっと行ったところにある【馬の嘶き亭】ってところがいいんじゃねえかな? やたら部屋が多いから安い値段で個室も取れるらしいぜ。」

「おお、感謝する。また何かあったらここに売りに来るよ。」

「あいよ、まってるぜ。」


男は最後に笑顔を浮かべて返事をする。アインは椅子から立ち上がり、二人を連れて店から離れていった。




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質屋を出てしばらく歩くと、優斗がアインに話しかけてくる。


「アインさん・・さっきの剣って・・・」

「そうだよ、騎士の連中が使ってたやつだね。」

「やっぱり! でも、よく持ち出せましたね。というかどこに持ってたんですか?」


優斗はそれが不思議だった。何処にも剣なんて持っていなかったはずなのに、まるで手品のようにいつの間にか剣をカウンターにおいていたのだ。


「あ~・・・。あれは、そう、あれも魔術だよ。ある程度の量のものを異空間に保存しておけるんだ。」

「おお! それはすごいですね!! めちゃくちゃ便利じゃないですか!!」


アインが少し言葉に詰まりながら説明すると、優斗が興奮した様子で反応した。


(まさかインベントリまで使えるとはなぁ・・・。便利だから文句はないけど、これは説明しづらい。)


そう、アインはゲームシステムであるインベントリの使用ができたのだ。気が付いたのは王城での戦闘が始まる前、いつもの癖でポーション類の確認をしようとしたら、頭の中にリストが浮かび上がってきたのである。


(あれには驚いた・・。流石に倉庫のものは持ってこれて無いけれどね。素材の採取に行く予定だったから万全の備えとは言えないけど、助かるには違いない。)


アインのしていたゲーム、【PWO】では、アイテムごとに重量が決められており、インベントリはMPと同じ値の分の重量が収められる。という仕様だった。


(一応、公式設定では優斗に言ったとおりだけどね。ステータスが開けないから、どれくらいの量が入れられるのか感覚でしかわからないし・・・。注意して使おう。)


そして三人は【馬の嘶き亭】と看板に書かれた宿屋の前に到着した。




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宿屋の外観は、これといった特徴のあるつくりではない。しかし、ほかの建物に比べてかなりの大きな建物である。


「これが【馬の嘶き亭】ですかー。確かにほかに比べて大きな建物ですね。」

「それが売りらしいですからね。二人ともここで構いませんよね?」


グランディルと優斗は二人とも頷く。ほかの宿屋のことなど知らないし、これから探すのも億劫であるからだ。

二人の了承を得たところで、三人は宿屋の中に入る。扉を入ってすぐのカウンターには一人の恰幅のいい女性が立っている。


「いらっしゃい。三人かい?」

「ああ、そうです。三人で一部屋だといくらですか?」

「それだと600Lだね。ちなみにうちは食事がでないからね。」


値段を聞いたアインは銀色の貨幣を一枚出す。


「はいよ。じゃあお釣りの400Lだよ。」


そういって女性はこれまた銀色の貨幣を四枚渡してくる。しかし、アインが渡した貨幣が四角かったのに対し、女性が渡してきた貨幣は丸い形をしていた。


(これは一枚100Lのようだね。貨幣は銀色しかないのかな? ファンタジーと言えば金貨、銀貨、銅貨、だと思ったのに。)


考え事をしながらお釣りとして返された貨幣を見つめていると、女性が勘違いをして話しかけてくる。


「なんだい? 半銀貨じゃなくて銅貨がよかったのかい?」


それを聞いたアインは申し訳なさそうな顔をつくりながら返事をする。


「すいません。半銀貨一枚だけ銅貨と交換していただけますか?」


そういって、先ほど受け取った丸い銀色の貨幣を一枚差し出す。


「いいよ。それくらいお安い御用さ。」


女性は愛想のいい笑顔を浮かべて四角い銅色の貨幣を10枚渡してくる。それを受け取ったアインは今度は心からの笑顔を浮かべる。


(なるほどな、半銀貨か。10枚刻みで貨幣の種類が変わるということかな? わかりやすくて何よりだ。)


このやり取りで貨幣の傾向と種類がある程度掴めた。それに満足感を覚えていると女性から声がかかる。


「部屋は二階にある204号室だ。ちなみにあたしは女将のジェーンだ。よろしくね。」

「はい、お世話になります。」

「宜しくお願いします。」

「・・・世話になる。」


三人ともに挨拶を返す。かぎを受け取ってさっそく部屋へと行く。部屋にはベッドが三つと魔道具のランプが置いてある。

部屋につくやいなや優斗はベッドに腰掛けて大きく伸びをする。


「うあー。つっかれたー!」


そういってベッドに寝っころがる。今にも寝てしまいそうな様子である。それを見て、苦笑しながらアインが言う。


「疲れてるのはわかりますけど。せめて何か食べてからにしましょうよ。召喚されてからこっち、何も食べていないんですから。」

「そうですね・・すいません。色々あり過ぎたせいかベッドがとても愛しいものに思えてしまって。」

「まぁ・・・気持ちはわかりますけどね。」


アインもグランディルもその気持ちはよくわかる。二人にしても食事をとったら泥のように眠りたいと思っているのだ。


「・・・気持ちはわかるが食事はとるべきだ。明日は仕事を探さなければならない、そのためにもな。」

「そうでしたね。勇者として呼ばれたのに職探ししなきゃいけないなんてちょっと虚しいですけど。・・・ハハハ。」


グランディルの言うことはもっともだが、優斗の気持ちもわからないではない。仕事が無くて生活もままならない勇者なんて憐れすぎる。


「まあまあ、宿屋ですけど拠点は確保できたんですから何とかなりますよ。とりあえず食事に行きましょう? そこで今後の生活についても話し合いましょうね。」


アインがそういって話を切り上げると三人は部屋をでる。これからのことを考えながら、少しの不安を覚えながら。





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