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勇者誕生・・・?

「・・・二人とも聞いてほしい・・僕は力を貸してもいい・・・と、思っている。」


朝倉優斗が決意を秘めた瞳で国を救うという覚悟を決めた発言を横にいる二人に投げかけると・・・


「おお! 力を貸してくれるか!」


国王ダルクロウム・エル・エルディラントが喜びもあらわにそれに反応する。すると周りの貴族や文官、騎士たちまでも少しずつざわつき始める。二人からの返答を求めていた優斗はそれに少し焦りながらも反応を待っている。


「・・・いいだろう、前途ある若者に力を貸すのも先達の役目」

「私も君に微力ながら力を貸しましょう。」


グランディルとアイン。二人がそういうと優斗はほっとした表情になる。自分だけではとてもやっていけない、そしてこの二人がいるなら心強い、そう思っていたのだ。それでも苦しんでいる人がいるなら手を差し伸べたかったのだ、その高潔な精神は勇者としてまさしく相応しいものであった。


「おお・・これで我が国に三人の新たな勇「ですが、勇者という称号はいりません」」


おそらく貴族の一人の言ったであろう言葉にかぶせてアインが言った言葉に場に沈黙が戻ってくる。


「えと・・? それはどういうことですか?」


沈黙に耐えかねたのか優斗が困惑した顔で問いかける。


「そのままの意味ですね。私は勇者なんて言う大層な称号はいりません。それに私はあくまで朝倉君に力を貸すのであって、この国に力を貸すわけではありません。ですのでそうですね・・・勇者の仲間、といったぐらいでしょうか? グランディルさんもそうではないですか?」

「・・・そうだな、勇者などという言葉は朝倉に渡そう。私はただの戦士だ。それでいい」


優斗がさらに困惑した表情を浮かべるなか、アインは一人心の中で笑っていた。


(よっし! これで俺たちの中で一番重要なのは朝倉優斗になった。勇者の責務も、おそらく生じるであろうわずらわしい策略も、儀礼式典、その他もろもろ全部押し付けてやる!!!)


力を貸すどころか負担をかける気満々である。しかもこれでアインは三人の中で「主導権をある程度握りつつ責任はほぼない」という実に胡散臭い立場になることができた。更に、グランディルも同意見のようにすることで「朝倉優斗率いる一行」というように周りに強く印象付けた。これでほかの人間からの注目さえも朝倉優斗に逸らすことができるようになった。


(これで大抵の状況は優斗を見捨てればエスケープ可能というわけだ。どんな状況でもまずは勇者に対策をしてそれから、という形になるだろうからな。)


アインは朝倉優斗を勇者として目立たせ、自分は好き勝手行動ができるように隠れ蓑代わりとして使おうと考えていたのだ。普通ならば国がそんなことを許すはずはない。全員に責任を持たせて行動させたほうがいいに決まっているからだ。


「それに勇者が三人も召喚されるなど前代未聞。他国の人たちも民もそんなこと信じられないでしょう。それならいっそのこと一人しか召喚されなかったことにすればいいんじゃないかと思いますがね?」


しかし、この理由がある。一人であっても強力な戦力となりうる勇者が三人同時に召喚された。それも偶然に、そんなこと少し考えれば信じられるはずがない。更に一度特例を作ってしまうと「なぜ今回だけ?」と文句を言ってくる輩が必ず出てくるのである。それならばいっそ・・・というのは間違った判断ではない。


「ふぅむ・・・そうだな。認めよう。勇者を朝倉優斗殿、二人はその仲間として勇者殿の活動の手助けをしてくだされ。」


国王の鶴の一声でアインの策略は認められた。アインの言ったことが正しいというのもあるが召喚された三人の中で朝倉優斗が最も御しやすい人物であると考えたためである。また、勇者は一人であるほうがいろいろと都合がいいという理由もあった。


「あ・・・はい! がんばります!」


今になってようやく優斗は自分が勇者として認められたことを自覚し、返事を返した。策謀のことになどまるで気づかずに大任を命じられたことに責任と嬉しさを感じているようである。




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「・・・それでは、続いて勇者承認の儀に移りたいと思う。」


ひと段落ついたところで、国王が次の式典を始めることを宣言した。すると国王の横に控えていた宮廷魔術師長リセリウス・クセスティルが布に包まれた物体を運んできた。


「我が国の勇者は代々この聖剣を持って人々を救ってきた。これには強い力が宿っており、また歴代の勇者の心が宿り当代の勇者を守護するという、必ずや勇者の心強い力となるであろう。」


国王が布に包まれている聖剣について説明する。魔力などそういったものを感じることができるようになっているアインはすぐにその聖剣について視線を向ける。


(む?布にも魔力が感じられるな。これは、ああなるほど隠蔽というわけか。しかしその程度の隠蔽なら突破して・・・と、・・・おやおやぁ?)


かけられている布の効力で聖剣の力が外からではわからないようにしているが、それをあっさりと突破して聖剣の秘められた力を把握したアインは心の中で楽しそうな声を上げた。


(ふふふふふ、聖剣・・ね、なかなか面白いじゃないか。宮廷魔術師長もよく見たら・・・。これは確定かな? さーてこれはどうするかね?)


アインが心の中で薄気味悪い笑みを浮かべている中、儀式は順調に進行し、佳境を迎えようとしていた。


「さて、朝倉優斗よ、汝は我が国の護国の剣足らんことを創世神の御名において誓うか?」

「はい、誓います」

「ならば聖剣を抜くがいい、そのつるぎは勇者の証。その剣を携えて魔を打ち払うがいい」

「はいっ!」


国王が勇者を認め、勇者が聖剣に向かう。緊張に張りつめた荘厳な雰囲気の中、ついに聖剣から布がとられその姿が現れる。


「・・・・!!」


それは美しい剣だった。一点の曇りもないほど真っ白な刃につばにあたる部分には金色の玉がはめられている。よく見ると玉の周辺と刃には精緻で優雅な模様が描かれている。まるで繊細な美術品のようでありながら、その剣からは凄まじいまでの力が感じられた。

まるで引き寄せられるように、魅せられるように、優斗がその剣に手を伸ばすと・・・









「・・・よいしょー!」




どこか気の抜けた声を上げながらアインが優斗の後ろ頭を叩いた。

スッパーンとなかなかいい音が鳴るほどの威力で叩かれた優斗は前につんのめりそうになりながらもなんとか転ばずにはすむ。そして叩かれたことにわずかながら怒りを覚えてアインのほうへと振り返る。


「何するんですかアインさん! 儀式の最中なのに! ていうかちょっと痛かったですよ、今の!」

「はっはっはー。それはすまなかったね」


全く反省してなさそうな声で、しかも笑顔で謝るアインにますますイラッとした優斗は更に問い詰めようと詰め寄り・・・


「だいたいですね・・・」

「いやいやそれよりも朝倉君」

「なんです?」

「もう剣のことはいいのかい・・・・・・・・・・?」

「え? 剣・・・あれ?」


優斗はそうだったと改めて剣のほうを向く。そこには少し顔色が悪くなった宮廷魔術師長と美しい剣が・・・


「・・・んん? あれ? この剣ってさっきまでと何かが違うような・・・?」


確かに剣は美しい、しかしさっきまでは手を取らずにはいられないような・・・その美しさに身も心も捧げてしまいたくなるような剣だったはず・・・


(ん? 身も心も捧げる・・・・・・・? たかが剣に? なんだ、僕はなんでそんなことを思ったんだ?)


自分の心が自分で理解できないという状況に優斗がわけがわからないといった状態になっていると、玉座から国王がなぜか焦った様子で声をかけてきた。


「な、なにをしている! 早く剣を手に取らんか!」

「え、あ、はい!」


儀式の最中であったことを思い出し今度こそ聖剣を手に取ろうとすると・・・


「・・・やめておけ」

「え・・・グランディルさん?」


ずっと見ているだけだったグランディルが苦い顔をしながら伸ばした手を横から掴んで止めていた。


「・・・さすがにあれは不愉快に過ぎる。アイン、貴殿も止めようとするなら最後まで面倒を見てやれ。」

「それはすいませんね。ですけど、私はグランディルさんは“アレ”に気付いて朝倉君を止めてくれるだろうと信じてましたよ」

「・・・やれやれ、そう言われては・・な」


アインはさっきからニコニコと笑みを浮かべ、グランディルは少し嬉しそうに苦笑をする。しかし優斗は自分がなぜ止められているのかサッパリわからないため頭に疑問符を浮かべて質問する。


「あの・・・結局なんで僕はとめられているんですか?」

「・・・アイン、頼む」

「はいはい、簡単に言うとあの剣をつかむと自由意思がなくなる。もしくは運が悪いと人格が崩壊しますね」

「・・・え゛?」


どういうことだと優斗が周りを見渡すと公国の人間が誰もかれも顔色が悪くなっている。・・・あるいは侮蔑を露わにしている人間しかいないということに気付く。


「も、しかして、本当なん、ですか?」

「・・・・」

「そんな・・・」


恐る恐る尋ねる優斗に沈黙で持って回答が返ってくる。優斗はそれで事実であることを気づいてしまった。そしてアインが先ほど看破した聖剣の内容を暴露していく。


「正確にはその聖剣にかけられている魔法は大まかに分けて四つ。まずは剣自体を強化するための魔法、基本だね。次に魅了の魔法、このせいでさっき朝倉君は剣が欲しくて欲しくて堪らないって状態になったんだね。お次は感情を剣に映す魔法、これが“歴代の勇者の心が宿り~”って部分だね。・・・でもこれは感情を映すだけ、強い感情が焼付くだけ、これじゃあ“歴代の死の記憶”とかが一番強く残っているだろうから下手をすれば廃人になるよ。グランディルさんが不愉快って言ったのはたぶんここだ。」


優斗は悪辣としか言いようのない聖剣の性能を聞き、それを手に取ろうとしていた自分の行動を思い出しておもわず体が震えてきてしまっていた。


「最後の一つが隷属魔法、条件は“王家の血を持つものに絶対服従”強力な魔法で編んであるから自殺だってさせられる。なかなか素敵な聖剣・・ですね?私としては呪いの剣とかに改名したほうがいいとは思いますが。・・・ちなみに宮廷魔術師長が魔法で剣に対して防壁を編んでいるのを確認していますから“知らなかった”ってのはナシですよ?」





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side マリエラ・エル・エルディラント



わたくしはマリエラ・エル・エルディラント。エルディラント公国第三王女として、そして勇者召喚を見届けたものとして勇者様との謁見に臨んでいます。朝倉優斗様が、おそらくあの三人の中で最も一般人に近い人であるあの方が勇気を振り絞ってこの国ために力を貸してくれると言ってくれたとき私は“あの聖剣なんて使わなくてもいいんじゃないのか?”と思いました。そして同時にあの方の信頼を踏みにじるであろう自分に嫌悪感を感じました。

誰が何と言おうとも私たちは異世界から無理やり連れてきた人たちを騙してさらには奴隷に仕立て上げ戦力として放り込む。・・・外道といわれても反論できませんわね。けれども、国のために、民のために、そう思うことで罪悪感を消そうとしてきました。今回もまたそうなんだろうと。そう、思っていたのだけど。

なんだか今回は・・・とても胸が痛みます。そんな資格なんてないのに。あの方が、朝倉優斗様があまりに真っ直ぐだから、それが貴くて、だからこそこんなにも胸が痛いのですわね。

あぁ・・・願わくば誰かこの悲しい連鎖を終わらせてください・・・



side end


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耳が痛くなるほどの静寂が謁見の間を支配する。公国の企みはアインたちによって完璧に破られており、もう誤魔化しも効かない状況にまでなっている。


「・・・ふぅむ」


エルディラント公国国王ダルクロウム・エル・エルディラントが諦めと狂気にも似た光を瞳に宿して、しかし落ち着いた様子で声をかける。


「ガルジセア」

「はっ!ここに!」


宮廷魔術師長の反対の位置に控えていた赤髪で銅色の目をした騎士を呼ぶ。騎士はすぐさま返事をして指示を聞く体勢を整える。燃えるような赤髪と銅の色の瞳をしている、一人だけ他とは異なる意匠の甲冑を着ている騎士である。すると国王はさして悩むそぶりも見せず命令を下す。


「彼の者らの引き込みは現状にて不可能となった、関係修復の良案も浮かばん。しかし、予は彼の者らの持つであろう武力を見逃すことができない、何より他国にわたるのが恐ろしい・・・であるならば、だ。やむを得ん、武力にて拘束して無理やりにでも協力させろ。できなければ“殺せ”。」


あっさりと、実にあっさりと人死にと関わることになってしまった。









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