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勇者と国家

「・・・よろしいでしょうか? 勇者様方、謁見の用意が整いました」


しばらくの間、鋼のような大男・・・グランディルの話が続いていた途中で、扉をノックした後こちらに声がかけられた。話を切り上げ、自分たちを案内してくれるらしい騎士に連れられ城内を歩いていく。


「謁見ですか・・・礼儀作法とか全然わからないんですけど、どうしたらいいんですか?」

「勇者様方の事情はある程度こちらも理解しておりますので心配はいりません。私が皆様を先導しますから、私が立ち止まったら跪いていただいて顔を下げてもらえばそれで問題ありませんよ」


緊張からか挙動不審になっている少年・・・朝倉優斗に騎士は穏やかに微笑みながら返答する。


(ふむ、事情を理解している・・・? 勇者についての資料があるのか、少なくとも初めての召喚ではないことが明らかになったな)


油断ない思考を続ける魔術師風の男・・・アイン。中身は現在無職のVRMMO(PWO)の廃人プレーヤー、本名を高橋一馬28歳である。




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(・・・・・どうしよう)


アインは謁見の間に歩き続ける中、これからの展開について考えてはいたが・・・・


(情報が足りない、さっきから朝倉少年が話しかけている騎士は嫌な顔一つせずに問いかけに答えているから勇者に対して好意的にとらえているかもしれないが・・・)


この世界については無知である以上、はっきりとしたことは言えない。目の前の騎士が表情をつくろっている可能性を外すわけにはいかないのだ。


(とりあえずの方針としては、「権力闘争にはかかわらない」、「戦争の道具にはならない」、くらいかな?)


これからの謁見でどうしても避けたいパターンをあらかじめ考えておく。何せ相手は国家なのだ、どんな理不尽を要求されたとしても「国のために」という大義名分があるため、ありえないとは言えない。


(あぁ~、あとは「隷属されない」、これも大事だ。身分社会だと確実に奴隷の存在はあるだろう。魔法があるなら隷属させるための魔法もあっておかしくない)


色々と考えを煮詰めている間に、見るものに威厳を感じさせるような、大きな扉の前までたどり着いた。


「ここが謁見の間です。扉が開いたら先ほど話したようにしてください。それから国王陛下からのお言葉があります。」

「はい!」

「ああ」

「・・・わかりました」


ここまで連れてきてくれた騎士が到着したことを伝えてくれる。騎士が門兵に扉を開くように合図をすると、兵が扉に魔力を送り、扉がひとりでに開いていく。


(おお、扉自体が魔道具みたいなものなのかな? というか普通に魔力が感じられたな、やはり今の俺は魔法が使えるみたいだな。)

「・・・それではいきます」


扉について感心していたり自分の現状に意識を割いていると、先導役の騎士が器用に口を動かさずに小声でこちらに合図を送ってくれた。

思わず呆けていたためそれに内心で感謝しつつ謁見の間へ足を運んでいく。


「第二騎士団副団長モルス・フォルレン、勇者三名を連れて参上いたしました!」


事前に言われていた通りに跪いて顔を伏せたあたりで、連れてきた騎士が姿勢を正しよく通る声で報告した。そこでようやくこの騎士の名前と役職などを聞いていないことに気づく。


(しまった・・・! とんだ失態だ。この騎士がどんな立場として自分たちに話しかけているのか知れたかもしれないというのに!)


彼の灰色の髪の奥に見えた青目がどこか、いたずらに成功したかのようにこちらを見た。他の二人も彼がおそらく高いであろう地位についていることに驚いていた。朝倉優斗は露骨に驚いているし、グランディルはどこか納得したような風でもある。


(これはますます気が抜けないな、高い地位にいる人間なら仕事もそれ相応のものがあるだろうに俺たちの案内なんかをやっているとはな・・・。警戒されているのだろうか?)


彼・・・アインはますます警戒心を高めているが、そもそも中身は権力などに触れたこともない人間である。

そんな人間が王侯貴族のたくらみを看破しようなどというのはどう考えても土台無理な話である。というよりも一般人が異世界に召喚されるなどという事態に巻き込まれて、かつ冷静に現状を考えて警戒心を持っている時点で称賛に値する・・・それは異常と言い換えてもいい。

同じく一般人である朝倉優斗などいまだに現実感が追い付いていないし、召喚された時には有った警戒心など部屋で待機させられた時点で無くなっているというのに、だ。

本人はこれに気付いていないが、その異様な冷静さがグランディルなどをして彼の吐いた嘘を信じ込ませる一因となっている。




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side グランディル・セルゲイウス


・・・おもしろいな。


私は久しぶりに、自分の心が踊っているかのような感覚を、興奮を味わっていた。

私の名はグランディル・セルゲイウス、かつては多くの人間に知られていた名だ。私はこの“異世界”の“エルディラント公国”とやらに召喚されたらしい。道すがら受けた説明では十全に理解ができたとは言い難いが、どうやらここには私を知る者もかつて私を知っていたものもいないようだ。


私は以前、獄に囚われてからというもの常に後悔を続けていた。「どうしてこうなったのだろうか・・・」と。理由は明白だった。私はあまりにも周りを見ておらず、見ようともしていなかったからなのだろう。だからこそ理解されず、・・・そして恐れられたのだ。

ゆえに私は無理やり連れてこられたかのようなこの状況にも不満を抱いてはいない。むしろありがたいと思っている。諦めていた望みも、果たすことができるかもしれないと。


しかし、ほかの二人はそうではないのだろう。私と同じく召喚された朝倉優斗、そしてアイン。特に朝倉優斗、彼は戦いというものから縁遠い生活を送っていたようだ。私の戦場での話を聞くあの様子は本物の生死のかかった戦いを見たことのない少年のそれであったし、体つきも戦士のものではなかった。そんな少年の助けになるのもまた一興・・・そう思っている。

そして、アイン。彼は不思議な存在だ。魔術師というのはまぁ、総じて面妖なものである場合が多いが彼はそういった輩とは少し違う。召喚されてからここまで常に冷静であり、一見表には出していないが、世界全てを警戒しているような鋭い意志が感じられる。更に明らかに死線を潜り抜けてきたことがある気配がする。それも何度も・・・だ。それなのにどこか隙がある、まるで警戒することに慣れていないような、ちぐはぐな印象を受ける。彼もまた見ているとどこか気になってしまう存在だ。


・・・ここは、本当に面白い。



side end



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衝撃の報告があった後、正面にある階段状になっている場所の一番上、その中心にある玉座に座る人物から返答があった。


「ご苦労であったモルス・フォルレン、控えておくがいい。・・・さて、勇者達よ面を上げたまえ。立ってくれて構わない。予がエルディラント公国国王ダルクロウム・エル・エルディラントである。我々はそなたたちを歓迎する。」


副団長のモルスにねぎらいの言葉をかけた後、この国の国王が堂々たる名乗りを上げた。容姿は王女と同じく金髪碧眼であるが、深い貫禄を感じる面立ちをしており、顔に刻まれたしわもその一助となっていた。隣の席には先ほども見た件の王女様マリエラ・エル・エルディラントが座っている。


「それでは異世界の勇者よ、そなたらの名を教えてくれ。」

「えっと、僕は朝倉優斗といいます」

「私はグランディル・セルゲイウスという」

「私の名前はアインと申します、国王陛下」


アインは無難に返事をしておく。こんなところで印象を悪くしてもしょうがないし、礼儀のなってない人間に対する反応は朝倉少年の返事を聞いた時の周辺にいる貴族風の人物たちを見て判断ができたからだ。


(流石に国王に近い位置にいる人間や国王自体は表情に変化がないな。けれどそれができるのは全員じゃない、現に何人かの貴族は明らかにこっちのことを見下してるな・・・)


ちゃっかりと横目で周りにいる貴族の表情まで確認している辺り警戒心の高さが現れている。


(“勇者”がこの程度の言葉遣いをしているだけでこれか・・・。これは雲行きが怪しくなってきたな。絶対の信頼があるとか、異世界から召喚したことの対しての負い目とかがあるとかの甘い期待はできそうにない・・・か)


異世界から召喚されたという事情を知っていてなお見下しきった態度や侮蔑の視線を向けるということは、この国の“勇者”はそんなに強い立場があるというわけではないな、と悪い予感を覚えつつ国王からの次なる言葉を待つ。


「勇者たちは予に様々な疑問を抱いていることであろう。なぜ自分たちを呼んだのか?なぜ自分たちである必要があったのか?・・・なぜ、“勇者”を呼ぶ必要があったのか? とな」

「!?・・・そうです! なんで僕たちを呼んだんですか!? 家には? 家には帰れるんですか?」


朝倉少年が思い出したかのように叫びだした。今まではなんだかんだと心を許していたがそれとこれとは別問題であったらしい。


「まあ、落ち着くのだ。その疑問に答えるためにはまずは我々のことを知ってもらわねばならん」

「我々の・・・こと?」

「そうだ、我が国エルディラント公国の現状についてだ。・・・我が国は今、未曽有の危機にある。魔獣の増加、魔族の出没、異族の反乱、更には周辺諸国からの侵略ときている。我々はこれらの危機に全力を尽くして対処しているが・・・我々では“力”が足りなかった。」

「だから“勇者”を欲した、ということですね?」


会話は矢面に立ってもらうために朝倉少年に任せようと思っていたのに、会話に相槌を打ってしまった。あまりにも予想道理な台詞が飛び出してきたため思わず口を挟んでしまったのだ。


(おっと、ついつい・・・。しかしまあここらでちょっと会話の主導権をもらっておきますかね。あんまり任せ過ぎるといざという時意見できないしね)

「・・・お話は分かりました。しかしまだせないことがありますね。なぜ、三人・・もの勇者が必要なのか? なぜ、我々・・なのか? といったところですね。グランディルさんはともかく・・・朝倉君など戦いの経験さえないと思いますが?」

「ふむ、そうだなそれについては予が説明するよりも相応しいものがいる。・・・リセリウスよ」


国王が声をかけると横に控えていた白いローブを着た老人が前へと進み出て一礼する。


「お初にお目にかかります勇者殿、わしはリセリウス・クセスティル。宮廷魔術師長を務めております。その件についてわしから説明しましょう。まず、あなた方を召喚した召喚陣は古来より存在していたものでその全容を把握してはいないのですが・・・。ある条件をもとに異世界から召喚していることはわかっております。」

「・・・ある条件とは?」

「条件は三つ、勇者やそれに準ずるもの、勇者足りうる力を持つもの、勇者の素質があること、この三つでございます。これら一つでも満たしていれば召喚される・・・ということですな」

「なるほど・・・おそらく朝倉君は勇者の素質がある、として召喚の条件に引っかかったのですね」

「そのようですな、ちなみに優斗殿のように戦いの経験がない人物が召喚された例は過去に数回あったそうです」


朝倉少年はそれが信じられないのか自分の手のひらを見て首をかしげている。グランディルはどこか納得するところがあったのか深くうなずいている。


(たぶん俺は勇者足りうる力を持つものということかな。・・・それじゃあPWOのトップクラスなら誰でもよかったんじゃないか?)

「なるほど・・・納得しました。召喚したのが三人なのはそれぞれの条件に当てはまった人物を一人ずつ・・・ということでしょうか?」

「・・・いえ、ちがいます」

「えっ?」


いかにも、納得がいかない、といった表情でリセリウスが答える。


「歴代の召喚の中で三人も召喚したことはありません。というよりあの召喚陣は“条件に合った人間一人だけ”を召喚するものだとおもわれていました。」

「つまり・・・我々がイレギュラーであるということですか?」

「そうなります」


アインにとってもこれは予想外である。三人召喚したのは三人分の戦力を求めてのことだとばかり思っていた。


(これはラッキーなのかね? 求められる仕事が従来の三分の一になったのは間違いないはずだ。)


そんなことを考えているとリセリウスは説明が終わったのか横に控え直し、国王が改めて話を始める。


「疑問には理解が得られただろう。我が国の現状も理解できたはずだ。その上で聞いてほしい、・・・我が国を救ってほしい。我が民を悪意ある者の手から守ってほしい。都合のいい願いだというのはわかっている、しかし我等にはもはやそれしか手はないのだ。」

「・・!?」

「・・・ふむ」

「・・・・」


国王の国を救ってくれという頼みを前に朝倉少年は驚き、グランディルはそれでもなお泰然自若としている。そしてアインはこの時点である方針を固めていた。


「・・・・・」


沈黙が下りる。願いを訴えた国王をまっすぐな瞳で見据えてから朝倉優斗が覚悟を決めた顔で二人に振り返り、話し始めた。


「・・・二人とも聞いてほしい・・僕は力を貸してもいい・・・と、思っている。」

「ほぅ?」

「・・・朝倉君はそう思うんですね」


冷や汗を流しながらも勇気を振り絞り国のために力を貸すと言う彼の姿はまさしく勇者のようである。グランディルは面白そうに相槌を打ち、そしてアインは・・・


(く、く、く、よく言ってくれた・・・・・・・・! この状況で! 君ならそう言ってくれると思っていた!)


自分の都合のいい方向に向かっていることに心の中で喝采を上げていた。





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