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三人の召喚者

魔法陣の刻まれた祭壇が置かれた一室。エルディラント公国の首都、セルギス城にある「勇者召喚」の秘儀を行う一室である。そこは今まさに魔術師たちが魔法陣を起動し、「勇者召喚」の儀式を行っている最中である。そこではエルディラント公国第三王女マリエラ・エル・エルディラントが召喚の時を今か今かと待ち望んでいた。


・・・そして、魔法陣から発せられるまばゆい光に包まれた祭壇から徐々に光が薄れていき、そこから3人の男・・・・が現れた。


「・・・・・え?」




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「・・・あれ?」


なんだかよくわからない現象が起きている。俺こと高橋一馬は割と冷静にそう思った。


(ギルドから死滅の森に転移したはずなんだが・・・なんだここ? 地下? 石造りの・・・祭壇? 新手のクエストか?森ではないのは間違いないね)


とりあえず現状を把握しなければ始まらない。クエストだろうが隠しイベントだろうが気を抜いたら即死亡とかいう理不尽に見舞われてはたまらないと思ったからだ。廃ゲーマーとして情報を持ち帰るくらいはしなければならないという使命感に駆られていた。


(騎士に魔術師・・・目の前にいるのは姫とかかね?こんなNPCいたっけ? というか、誰? この俺の横にいるイケメン少年と・・・きょ、巨人?)


祭壇の下の目の前にはうろたえている騎士と呆然としている金髪碧眼のお姫様、自分と同じく祭壇の上にいるのはいかにも歴戦の戦士っぽいオッサンとさわやか系イケメン高校生といった風な少年がいる。オッサンはむっつりとして何考えてるのかわからないし少年はめちゃくちゃあわてている。・・・あまり現状把握には役立ちそうにない。


(こりゃ、わからんね。みんな驚いてるっぽいし・・・。なんか違和感があるんだけどなぁ? とりあえず何か聞かないと始まらない・・・かな)


情報がないなら聞くしかない、ということで一番事情を知ってそうな目の前のお姫様に話を聞いてみることにした。


「初めまして、私はアインと申します。お嬢様お名前をうかがってもよろしいですか?」


ちなみにアインとは俺のキャラ名で、本名の一馬から適当に決めたものである。

本当に王族かどうかがわからないので身分の高そうな女性に通用するような尋ね方であいさつをしてみた。すると、目の前の少女はハッとした顔になり一度深呼吸をしてからこちらの問いに答えてくれた。


「・・・初めまして。私はエルディラント公国第三王女マリエラ・エル・エルディラント・・・この国の王女です。」


予想どうり目の前の少女はお姫様らしい。横でオッサンと少年が「・・・むぅ」とか「な、な、なんだって?!」とか驚いているがこちらとしてはそれどころではない。


(エルディラント公国? ナニソレ? 聞いたことないんだけど!?・・・それになんだ? この違和感?なんだかすごーく嫌な予感がするんだけど)


こちらが笑顔のポーカーフェイスを保って内心焦りまくっている状態にもかかわらず、お姫様は容赦なく次の爆弾発言を放り込んできた。





「私が、みなさんを異世界から魔法により召喚させてもらいました。」





「・・・はぁ!?」

「・・・むぅ」

「えぇーーー!!!」


おもわず礼儀とかその辺を放り捨ててしまった。ちなみに俺、オッサン、少年の順でそれぞれ驚愕した。


「ど、どういうことですか!? 異世界? 召喚?! 魔法!!? なんなんですかそれは?!」


ついに少年が吠えるように質問し始めた。おいおい相手は王女様だぞ?と、思ったが気にしている場合じゃないのも事実である。


「はい、説明いたします。ここは皆様が住んでいた世界とは異なった世界です。我が国の危機を救っていただくため、我々は最後の手段としてあなた方を異世界から召喚したのです。・・・我が国の“勇者”として。」

「な、な、・・・勇者だって!?」


少年は聞きたいことが多すぎて混乱し始めたようだ、なんだかうめきはじめた。


(なんだこのイベント? こんなの設定的にいいのか?・・・というか大丈夫かコイツ? この少年はPCなのかな? なんだか動きが自然・・・だ・・・・)


その事実に気づいた俺は半ば血走った目でバッと周囲を見渡しその場にいる人間一人一人を凝視し、そのあと地面に触れてみたり足を踏み鳴らしたりと、周りの連中が怪訝な目で見ているのにも気づかずにそれを確認していた。


(ばかな・・・そんなばかな!!!)


いかにVRMMOといっても限界がある。仮想現実は所詮仮想現実であり「本物の」現実とは一目瞭然の違いがある。例えば呼吸、触覚そういったものにはやはり少なからず違和感がある。いちいち地面に小石とかを配置したりしないし、ほこりがあったりもしない。そういったところに必ず・・違和感があるのである。


(違和感があったんじゃなくて・・・違和感がなかった・・・・・・・・んだ!! じゃ、じゃあこれはイベントでもなんでもなくって現実だっていうのか?! 嘘だろ・・・)


ようやく本当の意味で現状確認をしてしまった俺は、・・・考えを変えてみることにした。


(これが現実かどうかはとりあえずおいておこう、最悪を想定して現実である前提で行動を決めることにしよう。・・・となるとまずは・・・)


思考を切り替えて現状に適応していく方向でいこうと決めたあたりで、お姫様が改めて切り出した。


「急にこのようなことを申されて混乱なさっているのも無理はありません。まずは落ち着かれるために別室へ案内いたします。そこでしばらくした後で王族との謁見がありますからそれまでの時間を使ってください。」

「・・・おねがいします。」

「・・・よろしくたのむ。」

「・・・はい。」


とりあえず、時間をとることは大賛成なので大人しくついていくことにした。横の二人を見てみると二人とも助かったような表情をしているので賛成ということなのだろう。


(しかし、さも俺たちのためのような言い方をしているが、こちらの予定を全て向こうに握られている形になっている。・・・しかも、謁見もすでに了承済みとして扱われるなこれは・・・)


別室につくまでに改めて考え直すと上手く言いくるめられていることに気付く。やはりまだ混乱しているのは間違いないようだ。やはり時間を置くのは必要らしい。





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side朝倉優斗


僕の名前は朝倉優斗あさくらゆうと。今日は予定もなく夕飯の材料を買って家に帰る途中・・・・・だったはずだ。しかし今僕がいるのは豪華なお城の廊下である。・・・まったく意味が分からない、いつから僕の通学路はこんな豪華になったのだろうか?

・・・現実逃避ばかりしてはいられない、何しろこれは本当に「異世界」らしいのだ。僕は勇者として呼ばれたらしい。いい迷惑だ、誘拐だ、裁判沙汰だ、弁護士を出せ!

・・・また現実逃避してしまった。気を引き締めなければ! なにしろ味方がいるのかさえ分からないのだ、異世界から呼ばれたのは3人らしいが味方かどうかはわからない。


なぜなら、他の二人は明らかに落ち着いているからだ


先ほど召喚された部屋の扉を開けるときにも使われたのだが魔法というものに対して全く驚いていない、おそらくだがこの人たちは僕とは違う世界から来たのだと思う。

地球人なら魔法に驚かないというのは少し考えづらい、おそらく魔法が存在する世界からやってきたのだろう。・・・それに二人とも見た目からオカシイ。

一人は巨人みたいな体つきだ。ギリシャ像も真っ青である。ボディービルダーでもこれほどの人はいないだろう。もう一人は・・・もう、見るからに「魔法使い」だ。ハ○ー・ポッターの人みたいだ。

つまり僕は、このわけのわからない事態をこのわけのわからない2人と乗り切らなければならないのだ・・・はぁ・・・。



side end


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「それではごゆっくりしていてください。用事があれば表に兵が立っていますから彼にもうしつけてください。」


別室はテーブルとソファといくつかの椅子のある普通の客室といった感じだった。もちろん、城の一室だけあって高級そうな家具であることは間違いないのだが・・・。話す内容もおそらく聞かれると思っていたほうがよさそうだ。


「とりあえず座りませんかね?」

「あぁ」

「はい・・・」


なんだか少年の元気がいつの間にやら無くなっている。なぜだ?


「まずは自己紹介をしましょうか。私はアイン、魔術師などをやっております。」


あまり情報を聞かれたくないので最小限にとどめた自己紹介だ、ちなみに廊下の窓でこっそり顔を確認したが間違いなくアバターのアインとして召喚されたらしい。・・・現実の体がどうなっているかは考えないでおこう。


「・・・グランディル・セルゲイスという。・・・戦士だ。」


巨人のオッサンは同じくらいの情報しか出さなかった。意図してやってるのか無口なのかいまいちわからないな。ぶっちゃけ戦士とか見てわかるから名前しかわからないのと同じである。


「ええと・・・朝倉優斗といいます。えと・・・学生です。」


少年は優斗というらしい。戸惑いながら自己紹介してくれた。しかし、先に自己紹介した2人があれではしょうがないともいえる。この少年は本当に普通の少年のようだ。状況に振り回されるのもやむなしだろう。


「グランディルさんと朝倉君ですね? すごいことになってしまいましたが協力して頑張りましょう!」


朝倉少年が目を輝かせてこちらを見てくる。もちろん朝倉が名字でグランディルは名前だというのはわかっているが日本名が名字・名前の順になっていることを知っていると思われたくないのでこう呼ぶことにする。


「とりあえず、わからないこと、現状について話し合いましょう。」

「・・・そうだな」

「っはい!」


なんにせよ少しでも味方を作っておく必要があるしな



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「じゃ、じゃあ早速聞きたいんですけど・・・アインさんは魔法が使えるんですか?」

「ええ、つかえますよ。魔術師ですからとうぜんです!」

「おお!!」


朝倉少年が目をキラキラさせて聞いてきた。やはり気になるのも当然だろう。日本で魔法使えます!!とか言ってたら最悪救急車よばれるからなぁ・・・


「す、すごいですね!!」

「そうですか? 朝倉君の周りには魔術師はいなかったのですか?」


そういえば、きちんとゲームのステータスが反映されているか確認する必要があるな。アバターそのままできたから大丈夫だとは思うが万一使えないとしたらめんどうなことになるからな。


「いえ、僕のいた世界では魔法がそもそも存在しなかったんですよ」

「・・・なんと」

「・・・!?」


もちろん知っているが驚いたふりをする。オッサンの様子を見る限りオッサンは本当に驚いてるみたいだ。・・・つまり、オッサンは魔法のある世界からやってきたってことだな。


「それは・・・いったいどうやって生活をしていたんですか?」

「僕の世界では科学というものが発展していましたからそれに頼って生活していたんですよ」

「・・・かがく・・・とはなんだ?」


オッサンは科学に興味があるらしい。たぶんだが典型的なファンタジー世界からオッサンはやってきたのだろう。


「そうですね・・・説明が難しいのですけど。たとえば火はなぜ燃えるのかとか世の中のことを具体的に理解しようとする学門・・・ですかね?」

「・・・ほう」


朝倉少年の説明は正直雑だ、オッサンもわかってないみたいだ。しかし、科学に対してこちらはどういうスタンスでいくべきかな・・・?


「科学・・・ですか。こちらの世界でいうところの“理術”のようなもののようですね。」

「え・・・?」

「ふむ、貴殿の世界にも似たようなものがあるのか・・・?」


なかなか渋い言葉遣いをするオッサンである。なんで日本語話してるのかとか日本語を話してるのかどうかそもそもわからないとか疑問は尽きないが・・・とりあえず、保留だ。


「“理術”とは魔法を適用しないそのままの世界の理を知る術。というものです。要は魔法やそれによる魔術などが絡まない世界でどのような法則があるのか・・・という学門ですね。」

「なるほど・・・それは、まさしく科学とおなじものでしょう。」

「ふむ・・・そういうことか。」

「まあ“理術”は“魔術”にくっついた学門というイメージなので、おそらく朝倉君の世界ほど進んだものではないと思いますね。魔術のために学ぶ学門という程度にしか考えられていませんでしから。」


・・・よし、なんとかなったようだ。2人ともうんうん頷いているし。もちろんこの話は一から十まで嘘っぱちである。なぜこんな嘘をついたのかというと。単純な話、自分の持っている科学知識を出し惜しみしないためである。なぜ、そんなことをしっているのか? という疑問を持たれたときのためあらかじめ予防線を引いておこう、ということである。

後はこの3人の力関係でなるべく上位にいようという意図もある。これでこの2人には魔術も科学も知っているように見えるだろう、これでめったなことが無ければ立場が脅かされたり生け贄にされたりすることはなくなったはずだ。


「・・・それでは今度はグランディルさんのことが聞きたいですね。戦士とおっしゃっていましたがどこかの国に遣えたりなどしていたんですか?」

「自分か・・・国に遣えていたわけではない。ただ敵と戦っていただけだ。」

「魔獣などのことですかね? 傭兵・・・のようなものですか?」

「そうだな・・・魔獣の王。その軍勢と戦っていたのだ。」


おいおい、勇者として召喚されたというかこのオッサン本物じゃないか?魔獣の王が魔王みたいなものだとしたら・・・この人はもしかしてそこで活躍した勇者・・・もしくは英雄とかなのでは?


「す、すごい! その傷跡とかはそのときについたものなんですか?!」

「・・・ああ、そうだ。」


朝倉少年が食いついたようだ、男の子だなぁ、英雄譚が好きなんだろうな。オッサンもなんだか少し嬉しそうだ。





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