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第一章 新しい稽古 ~1~

 檜で作られた音舞双の舞台。

 そこには綺麗な着物を着た3人の女が座っていた。

 

 銀に近い艶やかな白髪をし、黄緑の着物に身を包んだ女性が口を開く。

「もう次の稽古に移ってもいい頃でしょう。舞華、いいですよね。」

「はい、静華お母様。」

 横に座る黒髪に橙の着物を着た女性が答えた。

 そしてもう1人の女性を見て微笑む。

「良かったですね、優華。高校生になってから一皮むけて唄が深みを増しました。」

「ありがとうございます!これからも精進いたします。」

 ピンクの着物を着た女性…、いや女の子が満面の笑みで一礼した。

「では、明日から新しい稽古を始めましょう。それと優華。勉強も頑張りなさいよ。」

 静華と呼ばれていた初老の女性が一礼して舞台を降りた。

 続けて舞華と呼ばれていた女性も後に続く。

 2人が稽古場であるこの月の間から退出すると、優華はすくっと立ち上がった。

 一礼して舞台を降り、一礼して月の間を出る。

 そして隣の息吹の間に入り仏壇の前に座る。

 仏壇には先祖代々の位牌。

 その中には可愛らしい花が描かれ『月村優太』と書かれた位牌もあった。

 優華は線香を立て、手を合わせた。

「ありがとうございます。明日から新しい稽古をつけていただくことになりました。あなたのおかげで私はここまで精進できました。優華お姉さま。」

 

 そう、彼女こそが実は月村優太であり、正真正銘の男である。


 優華と優太は双子の兄弟であった。

 切迫早産になり未熟児で生まれた2人は保育器の中で長い間生死を彷徨っていた。

 そして生後1か月を過ぎたころ、優華は息を引き取った。

 長女が亡くなった場合、音舞双はその代で途絶えてしまう――。

 音舞双を継ぐのが月村家を含む3家族しかいない今、それだけは絶対に許されない。

 月村家は優太を死んだことにし優華として育てるという苦渋の決断を下した。

 月村家を含む音舞双を演じる家系は長女以外の子供は養子に出すか音舞双と離した生活をさせ、離縁しなければいけないという仕来りもある。

 生き残ってくれた優太をずっと手元に置くためにもこの方法しか無かった。

 それからというもの、優太は優華として育てられた。

 小学生の時から芸能科のある星宮学園に通い、毎日3時間稽古した。

 友達と遊ぶ時間やほかの習い事をすることは許されなかった。

 修学旅行とか宿泊を含む行事はすべて不参加。

 体育の授業は怪我と日焼けをしてはならないという理由で免除されていた上、小学生高学年からは声変わりを防ぐためホルモン注射をしていたから男であることは一度もばれなかった。

 女として育てられ、女として生きることに抵抗は今更なかった。

 ただ、こころは普通の男子ということは変わらない。

 可愛い女の子を見ればどきどきする。

 どれだけ友達に「あの人、イケメンだよね!」って言われても男相手に嫉妬しか芽生えない。

 可愛い女の子と友達にはなれても恋人にはなれないのがもどかしかった。

 同級生の男子が女の子と付き合っているのが羨ましかった。

 だから、高校生になるのが待ち遠しかった。

 なんせ私が通う星宮学園は高等部からは女子校だ。

 中等部までの男子は全員別の高校に転校していった。

 だから、高校になってからはクラスに男子は私一人だけ。

 これを嬉しい以外の何と言おう!

 …まぁ、優華としているから恋愛関係に発展することは決してないのだが。


 私は息吹の間を出た。

 そしてそのままリビングへ直行。

 稽古の後はものすごくお腹がすく。

「わっ!今日の夕飯は和風ハンバーグだ!山下さん、私のごはん大盛りでお願いします!」

 はいはい、と山下さんはご飯をよそってくれた。

 山下さんは我が家のコックさん。

 母も祖母も家事をする時間はないから、住み込みでご飯を作ってくれている。

 炊事以外の家事は栗林さんがやってくれているけどね。

 山下さんはうちの食事作りだけでなく、音舞双の劇場のレストランも経営している。

 彼女の料理は我が家だけでなく絶賛されている。

「山下さん、静華お婆さまと舞華お母様は?」

「今日は風本家と花村家と一緒にお食事だそうですよ。」

「あっ、そうだったっけ。」

「はい。なんでも子供たちは抜き、だそうです。お酒でも飲みにいかれるのではないでしょうか。」

「あー、それならいいや。いつもの飲み会か。」

「飲み会ではなく、音舞双会議、でしょう?」

「それは名ばかりの飲み会だよ。まったく。」

 山下さんが味噌汁を置いてくれた。

「まぁ、私はこのおろしハンバーグが食べれればいいけどねー。ねぇ、おかわりってある?」

「私も会議あるの忘れて静華様と舞華様の分を作ってしまいました。食べていいですよ。」

「やったー!いただきますっ☆」

 ポン酢をハンバーグにかける。

 牛肉と豚肉の合いびき肉に豆腐を少し混ぜて作ったハンバーグはふわふわ。

 ポン酢はゆずと昆布が効いた山下さんの手作りだ。

 湯気を立てたほかほかの玄米にハンバーグをのせて口に掻き込む。

 う~ん、うまいっ!

 味噌汁は私の大好きななめこ汁。 

 和風ハンバーグとご飯をなめこ汁で流し込むように食べるのがたまらないっ!

「優華嬢、そのような食べ方は、はしたないですよ。」

「今日はお婆さまもお母様もいないからいいもーん!」

 山下さんは苦笑してハンバーグのおかわりを持ってきてくれた。

「食べすぎには注意してくださいね。」

「分かってるって。」

「明日のお弁当にはデミグラスソースのハンバーグにしますかね。」

「山下さんありがとう!今から食べるの楽しみ!」

 明日はたくさん友達つれて屋上で食べようかな。

 うーん、今から楽しみになってきた。


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