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7:再会


大急ぎで城に向かったシンデレラの後を付いて行ったメルであったが、会場の入り口で門前払いされてしまう。なんでもヒラヒラしているドレスでしか入場出来ないようで、メルが着ている侍女服では駄目らしい。同じように身体に布を纏っているのに人間とはよく分からないものだと首を捻りながらシンデレラを見るが、彼女はもうメルなど気にしておらず会場へと一直線であった。


小さなため息を吐いたメルは仕方なく城の外へと出る。魔女によると魔法の効果は十二時。それまで時間を潰さなければいけないメルは城の外を、グラノとしていたように散歩することに決めた。本来招待客の侍女が城の外を自由気ままに彷徨くなど許されるはずはないが、灰色ネズミのメルにそのような常識など関係ない。運良く誰にも咎められることなく慣れない二足歩行での散歩は進み、いつかグラノとボートに乗った湖まで辿り着いた。

今夜は満月。水面にポッカリと浮かぶ月に惹かれて水際に座り込むことにしたメル。湖を覗き込むと、人間の少女が冴えない表情でこちらを見つめている。

少女の目はクリクリと黒目が大きく、耳はやたらと丸い。あとは鼻が小さいくらいの特徴しかない地味な少女だが、髪の色は一見すると老婆のような灰色で特徴的だ。侍女服も髪と同色なものだから灰色尽くしである。

水面に写る少女をペシペシ叩いてみると、波紋が発生して消えるがすぐまた浮かび上がる。やはりなんだか冴えない表情だ。

メルは先程のシンデレラの様子を思い出してまた深いため息を吐いた。何故素直にシンデレラの舞踏会を祝えないのか考える。そして結論を見つけた。メルはシンデレラに褒めて貰いたかったのだ。シンデレラに笑って欲しいという第一目標はクリアしたのに、喜ぶ彼女に相手にされなかっただけで臍を曲げてしまう己を情けなく思うメル。もうすぐ発情期も始まろうかというイイ歳をした雌が抱く感情ではないと自身を叱咤する。


「おい、そこの女」


膝を抱えしゅんとするメルに背後から声が掛けられる。振り返れば城の兵士らしき男が二人こちらへ小走りで駆けて来る。


「何故ここに居る」

「ここは侍女などが立ち入っていい場ではない」


どうやら男達はこの場に居るメルに怒っているらしく表情は薄暗くてぼんやりしか分からないが声は冷たい。男達もメルの顔が見えにくいのか、顔を覗き込むようにして近付けてきた。


「こりゃ驚いた、婆さんかと思えば若い娘か」

「ふーん、美人じゃねぇが顔に愛嬌のある可愛い感じだな。一つ難があるとすりゃ、ちょいとガキ過ぎるところかな」


男達があまりにじろじろと顔を見てくるものだからきまりが悪くなり早々に立ち去ろうとするも、男の一人がメルの腕を掴んだ。


「おっと、なんにも言わずに逃げるなんざツレねぇじゃないか」

「ここは今第四王子の命で立ち入り禁止なんだよ、お咎めがあるんだ」


お咎めと言われようが人間のルールなどメルの知ったことではない。それに第四王子ということはグラノである。優しい彼がこんな事で怒るとは思えないので益々どうでもいい。それよりもこの男達とこれ以上一緒には居たくなかった。


「離して。お咎めなんて知らないもん」

「そうはいかねぇぜ。まぁお嬢ちゃんがちょいと俺達に付き合ってくれりゃあ見逃してやってもいいけどな」


見逃すという台詞に少し考えたメルであるが、男達のニタニタした表情から嫌な予感しか感じず警戒が高まる。


「今俺達仕事でストレス溜めてっから、その解消にチョイチョイっと協力して貰えばすぐ終わる」

「ギャハハハ。確かに第四王子の命令はストレスしかないな。ネズミ捜索ってなんだよ意味不明だし」

(グラノがネズミの捜索!?)


男の言葉にメルは息を呑み、そして血の気が引いた。“契約の腕輪”を盗んだメルをグラノは怒っているのだと考えた。とても高価なものだと話してくれたグラノはどれほど困ったことであろう。家ネズミは人間からくすねるのが仕事であるので、大した罪悪感もなく盗んだがグラノの気持ちを考えると胸が痛くなった。


(どうして今まで気づかなかったのか………これだからネズミは人間に嫌われちゃうんだな)


泣きそうになるメルだが、今はこの怪しげな男達から逃れるのが先決である。足には自信があるが、果たして二足歩行で上手く走れるか。


「とりあえずあの茂みに移動しようか」

「そうだな」


男達は強引にメルの腕を引っ張り始めたのでいよいよ焦りが募る。男の力は雌のメルより遥かに強くて抜け出せそうにない。一体何をされるのかサッパリだが、ろくでもない事に決まっている。


「お前達!」


突如降ってきた新たな声にメルは硬直した。それは久々で大好きでそして今最も聴きたくない声であった。


「グ、グラノ様……」

「なぜこちらに……」


男達は動揺してメルから腕を離す。すぐさまこの場を離れたい衝動に駆られるメルだが、同時にゆっくりと近付くグラノの顔を見たいと思ってしまう。


「一部始終聞いていた。この辺りの警備ということは第七部隊の人間だな。沙汰は追って隊長から伝える、すぐさま立ち去れ」


それは今まで聴いたことのない威圧的な声であった。男達二人はブルブルと情けなく震えながら消えていった。


「さて」


男達が去るのを見届けたグラノがこちらへ向く。薄暗く顔ははっきりしないが声は確かにグラノである。服装はいつもよりも飾りが多い。

メルはグラノへ飛び付き頭をその胸にグリグリ押し付けたかったが、彼は怒っているのだ。出来るわけがない。


「城の兵がすまなかった。情けないことに最近は腐った輩も多い、今後このような事がないように大きく体制の見直しを図ろう」


そこまでスラスラ述べると小さく息を吐くグラノ。


「ところでここは立ち入り禁止なのは分かっただろ、悪いがキミも出て行ってくれ」


急に覇気を失ったグラノの声がメルへ告げる。無性にグラノの頬擦りが懐かしくなりながらも、無言で頷いたメルは立ち去る為にグラノの側へと近付く。近付くごとにはっきりしてくるグラノの顔はどこか疲れが見え少し痩せた気がして心配になる。


(ごめんなさいグラノ……)


心と目だけで謝るメル。今は人間の姿だ、まさか正体が灰色ネズミだとバレるはずもないだろうと遠慮なく謝った。

最初はメルなど見ておらず湖を遠い目で見つめていたグラノだが、彼女の視線に気付いたのかゆっくりと顔をこちらへ向けると虚ろな目が見開かれていく。


「……メル?」


小さく呟かれたグラノの言葉にメルの心臓が跳ねる。








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