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保存直前にデータが消えて泣きそうになりました。

馬車の中は沈黙に満ちていた。

ロージーとしては、先ほどのことがあって少々気まずい。

直接的なことはしていないが、王宮騎士を脅したも同然のことをしたのだ。

内心何を言われるのかと冷や冷やしているが、顔に出さないように細心の注意を払っている。

付け入る隙を与えてはいけない、と本能がロージーの怯えを抑えつけているのだ。

下を向いて大人しくしているが、さきほどからやたらと視線を感じる。

ロージーはそれでも我慢していたが、耐えられなくなって思わず口を開いた。


「な、なんでしょうか」


にこりと下手な笑みを張り付けて、ロージーは少し首を傾げた。

人畜無害だと主張するように。

目の前の青年は、我に返ったかのように息をのんで、ゆったりと困ったように微笑んだ。


「いえ、昔の友人に似ていたもので」


嘘だ。 

ロージーは思わずじとりと半目になってしまった。

柔らかい声と美貌に騙されそうになったが、実は結構腹黒いんじゃないの?と心の中で愚痴る。


「ですが、よく俺が王宮騎士だとわかりましたね」

「え、ええ・・・・・まあ」


ここで隠し事をしても悪い方向にしか働かないので、素直にロージーは説明した。

青年の袖の釦に人差し指を当てる。


「その騎士服に付いている釦に薔薇の紋が入っていますし、貴方のポケットの中に入っている時計の鎖が金でしたから」


この国にとって、金は国の色。

初代王の妻の象徴でもある薔薇の紋は、騎士の中でも限られた者しか身につけられない。

時計の鎖も同様だ。

末端の騎士に支給されている懐中時計は銀色のはず。

それが金色の懐中時計だとすれば、下手したら王や王子の近衛かとロージーは想像したほどだ。


「驚きました、どこでそんな知識を?」

「育て親が王宮の女中だったので、すべて彼女から習いました」

「なるほど、それなら詳しいのも納得ですね」


しげしげとロージーを眺める青年の目に卑しさはない。

彼が無体なことを要求してくることはなさそうだ、とロージーは詰めていた息を吐いた。

そのとき、緩やかに馬車が止まり、コンコンと合図が鳴った。

屋敷についたと御者が知らせてくれているのだろう。


「話の続きは後にしましょう。さあ、どうぞ」

「あ、いえ・・・・自分で降りれま、!?」 


馬車から降りて青年が手をさしのべてくれたが、ロージーはご令嬢ではない。

ロージーはやんわり断ろうとしたが、遠回しの拒否の言葉を最後までは言わせてくれなかった。

ぐるん、と視界が回ったかと思うと、なぜか青年の顔がロージーの横にある。


「なっ、なっ・・・・・・!!」


何をしてるの!という言葉は動揺のためロージーの口から出てくることはなかった。

言葉にならない音だけを、必死にロージーは紡ぐ。


「ちょ、っと・・・・!」

「このままだと周りが泥で汚れますから。大変失礼とは思いますが、このままバスルームまでお運びしますよ」


(だからって、なんでお姫様だっこ!?)


にっこりと柔らかく、しかし有無を言わせない笑顔で、青年はすたすたと屋敷に入る。

屋敷はフォンツベルグ子爵家の倍はありそうだ。

自分の危機を棚に上げて、ロージーはぼんやりとそう思った。

もはや、ロージーを横抱きにしたことで騎士服が泥で汚れているという事まで頭が回らなかった。


(す、すごく広いお屋敷じゃない!ちょっとこれはマズいんじゃないの)


抗議の意味を込めて青年を睨みつけると、笑顔のまま「先ほどのお返しです」と言われ、ロージーは抵抗を止めた。

先程とは、つまりパーシーを殴った上で遠回しに脅した件だろう。


(や、やっぱり気づいてたー!!!)


冷や汗を流すロージーをよそに、ああ、と青年が思い出したようにつぶやく。


「そういえば自己紹介がまだでしたね。俺はニクス=ヒルベルト=オールウィン、貴方の予想通りヒューイット王子付きの専属騎士です」

「ろ、ロージー=シュタイフです・・・・・」


位の高い王宮騎士という予想はあったが、本当に王子付きとは。

くらくらする頭を押さえて、ロージーは辛うじて名前だけ呟いた。


(ある意味、とんでもない人だわ!!)



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