Ⅰ
ロージーの奮闘とニクスの苦悩にしばしおつきあいください。
水と緑が豊かな、女神に愛されし国ティンダーリア。
始まりの王、アウグストが薔薇の女神ティンダーリアに恋をして、この国は誕生した。
歴代の王族は、黄色の薔薇の女神ティンダーリアの血を引くためか、金髪か金の瞳をいずれも持っていた。
建国から800年の時が過ぎ、女神ティンダーリアの血もだんだんと薄くなり、王族の中に金色を持つ者は減っていった。
現国王ライアットは騎士たちに一つの勅命を出した。
長年行方しれずの王女を探し出せ、と。
この娘こそ、という者をつれてきた騎士には褒美を授ける、と付け加えて。
王女の特徴は、美しい金髪に蒼の瞳。
記述に間違いがなければ、今年で17歳。
だが、どこにいるかはわからない。
この王女は7歳の時分に自らの母親に暗殺されかけ、国王が秘密裏に王宮から逃がしたのだった。
たった一人の女中をつけて。
生きているか死んでいるかもわからない。
だが、10年の時を経て国王は望んだ。
国王にはもはや命の猶予がなかったのだ。
最期に一目でも、愛する娘に会いたいと願ってしまったのだ。
もし王女が亡くなっていても、よかった。
それならば、あちら側に逝く楽しみができるというものだ、と国王は弱々しく笑い、宰相を大いに困らせた。
こうして、国王の第二正妃が王女ロゼティリカの捜索が様々な思惑の下、開始される運びとなったのだ。
王からの厳命には箝口令がしかれてあったのだが、すべての人間の口を閉じてしまうなどということは無理であり、この話はすぐに貴族に知れることとなった。
さらには、じわりじわりと国民の噂にものぼるようになった。
金色を持つ娘たちは当然沸き立ち、口々に私が王女であるとまくし立てた。
血統など、関係ない。金髪の娘をつれていけばいいのだ。
王には申し訳ないが、それが側近や大臣、貴族の見解だった。
幸い、王はもはや政務もままならず寝たきりになっており、意識もあまりはっきりしてはいない。
騎士は次々に貴族の令嬢を選んだ。
また、この勅命は末端の騎士にもつたわっていたので、平民出身の娘も選出された。
2週間後には、娘たちの選定をかねた大規模なパーティーも予定されている。
騎士ニクス=ヒルベルトは、大いに困っていた。