共闘者
私は亡くなり、マキシムの共闘者となった。共闘者とは字の通り共に闘う者。戦う相手はカース。それと戦うのが『天使』たちの仕事で、私は天使の一員になった。ここでは木城亜美ではなく『アミ』として生きる。同じ名前でも生きていた私じゃない。
『そっちはどうだ、アミ』
携帯電話から男の声。辺りは街頭の明かりしかない人通りの少ない道を走りながら答える。
「いま追いかけてる所、もうすぐ目標地点に追い込める」
必死に逃げている奴を追いかける。マキシムとは少し前からはぐれていて、ずっと携帯電話で連絡を取っているばかり。予定通り、行き止まりの路地へ追い込むことが出来た。
向こうは行き止まりになったことに気付いたようで、おどおどしながらこっちを見ている。街頭に照らされカースと呼ばれるものの全容が見えてきた。
カースは人じゃない、人の形をした怪物だ。目の前に居るのは腕は右腕しか無く、足は三つある。目も三つ、その目は赤く光っていた。カースの姿は全部が同じじゃない。この前会ったのは腕が四本もあった。
腰につけていた剣を抜き、構える。刺激しないようにゆっくりと距離を詰める。向こうはこちらに気づいて右往左往している。
今回は来るのが遅そう、なら今回こそ私が――
向こうが動いた、横を通り抜けようと走り出す。逃さぬように斬りつけた。胴体に向けて振った剣は横腹を掠めた。人みたいに血が出るわけではなく、紙のようにその部分が千切れていて、倒れた。それに向けて剣を振り下ろすとカースの姿は跡形も無く消えた。
数分後、マキシムが肩で息をしながらやってきた。
「あっ、マキシム」
「アミ、カースはどうした」
「倒したわよ、遅いもん」
「ん、むぅ。さすがにもう一人出来るか」
不満げに表情を歪ませながら、渋るような声を漏らす。
「だいたい子供扱いしすぎよ、というかマキシムが遅すぎ」
「そりゃ幽霊とでは勝てんさ、だからせめて戦いは……と思っていたのだがな」
私は幽霊。いくら走っても疲れないし、どんな高さでも飛ぶことが出来る。だけどマキシムは生きている。だから疲れるし、私みたいに高く飛ぶこともできない。
だから、マキシムが『せめて戦いは』というのは意地みたいなものかな。少し悪いことしたような気がした。
「ま、まぁ今回は簡単なのだったし、ね? 大変なのだってあるし」
「そうだな。良いか、無理はするんじゃないぞ? 本当は戦わすつもりもないのだからな?」
「分かった分かった、それでも私は共闘者だし、全部任せるわけにはかないじゃん?」
「だがなあ。お、おい!」
グダグダ言っているマキシムをほっといて移動用の車の所へ走る。
『11月2日、初めてカースを私の手で倒した。思ったよりもあっさりで、怖くもなくてすぐに終えることが出来た。マキシムはまだ早いとか危ないとか言ってやらせてくれないけど、これくらいなら私にでも十分できるし、やっぱり心配性なだけだと思う。確かにマキシムの銃でやった方が早く安全に倒せると思うけど、私だって一応天使なんだから。なんのための共闘者なんだか』愚痴るように書き込んで日記を閉じる。
「ふう、全く。終わったぞ、頼む」
肩で息をしながら車に乗り込み、運転手に伝えると車は走り出した。
11月、寒さを感じることはできなくなったけど、街路樹の葉が散り、周りの人たちの服装は厚着になってきているのを見て寒さを感じた。天使の一員となった事で住むことになったこの『天使ヒルズ』。見た目は特に変わった外装をしていないコンクリートのビル。私はここの303号室にマキシムと一緒に住んでいる。住み始めて2カ月が経った。
ここに来てすぐにここでの生活を教えられた。カースとの戦い方、天使と言うのはどういう組織でどのような構造なのか、今どのような立ち位置にいるのか。
だからこそ私は戦っている。私だって初めからこんなに非日常を受け入れたわけじゃない。
これは初めてここに来た日、訓練と言う名で説明を受けたことだ。他にも任務のことや武器のことも、そしてカースとの戦い方も教えてもらった。どれも簡単なことだったけど、本当に理解したのは一緒にマキシムと戦い始めてから。それまでは他人事だと思っていたけど、ずっとみていたら他人事にしては居られなかった。
だから、少しでも負担を減らして……あげるというのは違う、自分のことでもあるんだから、減らしてみせる。
そう、自分のことなんだから。




