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カース ~親友と天使と化物と~  作者: 世良
最終話 すべての終わり、始まりへ
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交差点

私と言う人は、どうして同じ所に来るんだろう。

今はあの交差点に居る。何度も来たこの交差点。もう思い入れなんて無いはずなのに。サチだって違う形で生きて……いや死んだんだった。

 正直、もう何も考えたくない。何もかもに疲れた。胸の中がぽっかり空いているように感情がない様な感じがする。

 すべてが淡白に見えて、空虚。このままどうなるんだろう。そのうち私を殺しに天使の誰かが来る。来るとしたら誰だろう。

 真っ先におもいついたのはマキシム。あのケガ、大丈夫なのかな。

 次に思いついたのはカシューさん。そう言えば、どうなったんだろう。さすがに殺されてはいないよね。

 それにしても、誰も来ない。

 

 もう、4日もたったのに。


 〇


 今日は3月12日。誰の家かは知らないけど、窓から見えるテレビでそれは確認した。これは日課、日にちを確認して、どのくらい経ったか。

 とうとう5日目。

 あの日から、私がカースになってから。

 それを終えたらいつものように交差点でしゃがみ待つ。

 ここは初めてマキシムと会った場所であり、サチが死んだ。そして、以前カースになった時にここで気が付いて、今回もここで我に返った。

 その時もここでカシューさんが見つけて私を倒してくれた。だから、また来てくれる気がしてここで待ち続けている。

 聞こえるのはたまに通る車の音くらい。たまに人を通るけど気にせず通り過ぎている。

 人には私の姿は見えているようで視線を感じることはよくある。でも誰も話しかけてはこない、服装のせいだと思う。

 この地味なローブ。これのせいで怪しい人、もしかしたらホームレスとカと勘違いされているのかもしれない、何にしても好都合。話しかけられても困るし、顔もばれないようにしないと。

 もしも、見られてしまったら。死んだことになったのに台無しになる。また両親を困らせたくはない。

 歩く音が聞こえる。気にはなるが気にしない様に振り向かないようにする。

 その足は止まった。誰かが、来ている。

 カツッ、カツッと大きく靴音を立てて、まっすぐこっちに来ているのが分かる。

 誰だろう、私は後ろを見た。

「やっと見つけた。元気にしてた?」

 振り向くとこっちに来ていた人は立ち止った。明るい声で話しかけてくれる女性。

「カシュー、さん」

「ええ、久しぶり」

 よかった、知っている人だった。よく見るとその後ろに誰かが見える。

「サチ」

 見間違いだろうか、カシューさんに寄り添っている同い年くらいの女の子。明らかにサチにしか見えなかった。

「ええ、そうよ。どうかしたの?」

「死んだはずじゃ」

「ああ、そう言うことになってたの。大丈夫、ヴァルが連れ去ってただけだから。3番、アレの用意はできてる?」

「うん。アミ、助けてあげるね」

 そう言いながら構えているのはいつの日か見た巨大な銃。サチの身体と同じくらいに大きな銃を構え始める。

「カシューさん、マキシムはどうなの」

 見回すけど姿はない。カシューさんの顔は笑みを浮かべているように口元が緩んでいるのが見えた。

「大丈夫、元気に病院で寝ているから」

 マキシムは無事。じゃあ、誰も死んで無かったんだ。皆無事だったんだ。

「3番、お願い!」

 カシューさんの叫び声と同時に体に鞭が巻きついていく。私の視線の先には銃を構えたサチの姿が見える。

 そして、周りは真っ暗になった。

 

 〇

 

 ここは、確か。病院。

 何度か来た、天使ヒルズの隣にある病院。そのベッドで私は横になっていた。腰を上げて見回すと、私と同じようにベッドで寝ている人がいた。

 身体には包帯を、いびき混じりの寝息を立てる男。何度も見覚えのあるその光景。

「マキシム」

 私の呼び声には反応しなかった。ぐっすりと眠っている。

 ベッドから降りる。身体に痛みはない、特に異常はなさそう。

 そのままマキシムの傍へと、私は「マキシム」と呼びかけた。

 でも、やっぱり起きる気配が無い。

 鼻をつまんだ。すると寝苦しそうにうめき声を上げはじめた。数秒苦しそうにしたあと、マキシムの目が開いた。

「……アミか。起きたのか」

「うん」

「もう立って大丈夫なのか?」

「うん、大丈夫」

「そうか」

 そう言って頭を撫でてくる。私はその手を払うことなく、黙って受け入れる。

「アミ、何か変わったと思うことはなかったか?」

「変わったこと」

 言っている意味が分からなくて聞き返していると、マキシムは小さく首を振った。

「いや、気にするな。まだ病み上がりだ、ベッドで横になっておけ」

「うん、分かった」

 変わったことと言われて、ピンと来ることが無かった。私は何か変わったと言うのだろうか。

 窓に顔を映してみる。特に異常はなさそう。いつもの私の表情、だけどその表情はつまらなさそうにも見えた。

 でも、別に気にはならなかった。そのまま私はベッドの方へと向かった。

「アミ!」

 いきなり後ろから私を呼ぶ明るい声が聞こえた。振り向くと同時に何かが飛びついて来た。

「こら3番! まだ病み上がりだからやめなさい。アミちゃん、体調は良い?」

「うん、そこそこ」

 残念そうにサチは返事して離してくれた。離れた後、私を見ると不思議そうに小首を傾げている。

 どうしたと言うのだろう。

「マキシムもどうなの」

「大丈夫だ、傷が塞がれば復帰できる。さすがの腕前のおかげとも言えるがな、皮肉にも」

「そう。じゃあ、あの人は誰も殺すつもりが無かったのね」

 あの人、それは多分バロウズのことだろう。誰も殺すつもりはなかったって、どういうこと?

「アミ!」

「どうしたの、サチ」

 見ると泣きそうな顔をしている。どうしたと言うんだろう。

「怒ってる?」

 何を言っているんだろう、怒っている?

「怒って無いよ」

 普通に答えたつもりなのに、サチは怯えるような表情をして後ずさりしながらカシューさんの後ろに隠れた。

「どうしたの、3番?」

「アミが、変わっちゃ――」

 すると、いきなりカシューさんがサチの口をふさいで喋らなせないようにした。

「アミちゃん、気にしないで」

「はあ、分かりました」

 今、サチは私を変わったと言いかけていた気がする。変わった? 何が、そう言えば私が怒っているってサチは言っていた。何をどう見て怒ったと言ったんだろう。

 もしかして自分の顔が?

「カシューさん、鏡くれませんか?」

「……どうして? アミちゃん」

「気になることがあって、お願いします」

 納得したように小さくうなづいた。

「そう、はいコレ」

 カシューさんの持っていたバッグの中からコンパクトを渡してくれた。開けて小さな、自分が丁度映るくらいの小さな鏡に自分の顔を映して顔を見る。

「本当だ、怒っているように見え――」

 自分の顔の不気味さに思わず声に漏らしてしまう。

 その声もおかしいことにも今さら気付いた。

「おはよう、こんにちは」

 自分の顔を見ながらさらに声を出してみる。どうして私はこんなにも仏頂面で言っているんだろう。声もどうしてこんなにも抑揚の無く言っているんだろう。

 無表情、まるで人形みたいだ。

 淡白な声、まるで機械の音声みたいだ。

 私の記憶を振り返っても私はこんなんじゃなかった。私は変わってしまっている。

「アミちゃん」

 カシューさんの声に私は我に返った。

「ありが……」

 声を意識してしまうと気持ち悪くて途切れてしまう。

「ごめん、アミちゃん。私もマキシムも知っていたの。こういうふうになっていたかもしれないって」

「それはどうい――ぅ」

 どうしても声が続かない。語尾がかすれるようになってしまう。

 自分の声が気持ち悪い。上手く言えない、喋りたくない。

「今度教えてあげるから、今日はゆっくりしてなさい。3番はいま理解した所で怖がっているだけだから。ね?」

 サチを見るとカシューさんを抱きつきながら震えている。何も私はすることができなくて、頷いた。

 病室を出るとまた静かになった。同時に私は酷く冷静だと言うことにも気がついた。

 喋れないと言うことに何の危機感も抱いていない。むしろ諦めのような物が自分の中にあることが分かった。どうしてこんなにも消極的だろうか。

 自分のことなのに、自分が疑問になった。

 なんか怖い、自分が自分じゃなくなっている様な気がして。

「アミ、返事をしなくても良い、聞いてくれ」

 いきなりマキシムが声を上げた。

「今のアミは他と変わりのない幽霊と同じ状態になったそうだ。マロウだとか3番。あのような感じだ。3番とは最近は一緒にいることが多かったからよく分かるかも知れんな。今のアミはその状態になったんだ。だが、お前は分かっているだろう、3番はサチだと。お前もアミだ、たとえ今のようになってもな。だから、自分を見失わないでくれ。これは、私のお願いだ」

 私は、私。

 この声も、この顔も、この身体も、私。

「マキシム」

 抵抗はある、でも声を出してみる。

「アミ、無理はしなくて良いぞ」

 私はまたベッドを下りてマキシムの傍に行く。そして手を握った。

「ありがとう、こうして良い」

「ああ。逆ならもっと良いんだろうがな」

 苦笑いしながら悔しそうな声を漏らしている。

 本当なら少し笑い声を洩らしているかもしれない。でも、うまく気持ちが湧きあがらない。これもマキシムの言う同じ状態になった影響かもしれない。

「フフッ」

 それでも、私は鼻で笑うような声を漏らす。

 変な声だけど、いつか自然にできるようになることを信じて。これが私の声だから。

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