平穏、不穏
「どうも、今日もありがとうございました、では」
いつものようにシンドウさんが封筒を渡して怯えながら部屋へと帰って行く。
いつになったらアレ、終わるんだろ?
「さあ、会いに行くか」
「うん」
エレベーターに乗り11階へ。そして1102号、カシューさんの部屋だ。迷わずインターホンを押す。
「いらっしゃい、彼女は中にいるわよ」そう言われながら奥へと入って行く。リビングにサチがいた。こちらにきづくと嬉しそうな表情を浮かべてこちらに走ってくる。
「アミ!」
「うわっ、危ないってサチ」
いきなり飛びついて来るもんだから体勢を崩してしまう。倒れ込んできたサチは笑顔を浮かべながらこちらを見ている。
「だって、待ち遠しかったんだもん。ほら」
そう言いながら日記帳を出していくる。
「私もちゃんと持って来たよ」
これはあの時の交換日記。お互いに書いてきてそれを渡すようにしている。今回は自分のこととして日記を書くことにした。私の日記には天使ヒルズでのことを書いている。サチはどう書いているのか分からない。
このテーマはサチが決めたこと、何か案があってのことだと思う。
「開けちゃだめだよ」
「分かってる。だからそろそろのいてくれない?」
「うん!」
サチが立ち上がり、私もやっと体勢を戻すことができた。
「私たちはお邪魔かしら? ねえ、マキシム」
「あ? ああ、そうかもな」
そんなふうに毒づき声がありながらも私たちは集まった。特に目的なんて無い、ただ集まっただけの私たち。たわいのない話をして、仲を深めて何事も無い日常が過ぎる。そう言うことがただ流れていくだけの、深い意味のない集まり。
「それで、あなたたちはまだ貯めていないの? 50万」
「あ、ああまだ貯まって無い。今のペースなら大丈夫だと思うが」
「今はいくらなの?」
「いくらだったっか?」
「24万5千E。約半分って所」
「この階層ならあと2,3か月ってところか。まあ、大丈夫そうね。そう言えば最近シンドウと一緒に任務をしているのを見るけどアレは何かあったの?」
「ああ、それは――」
カシューさんと話している間、サチは理解していないのか首をかしげながら不思議そうに見ているだけだった。今のサチだとこういう話は踏み込めないみたい。
「サチ、私たちは私たちで話をしよっか?」
「うん!」
そう言って話の話題にしたのは学校の話題。少しずつ、思い出しづつ話していると、インターホンが聞こえた。
「誰かしら? ちょっと静かにしててね」
そう言いながら玄関の方へとカシューさんは向かった。
開ける音と共に口論が聞こえる。その言葉は「今日はお引き取り下さい」と、言う様な帰って下さいと言う声。
静かになると足音がいくつか聞こえる。
「お久しぶりです。みなさん」
バロウズさんが現れた。その傍にはヴァルがいる。何でこんな所に。
マキシムを見ると怪訝な表情、サチを見ると怯えているように見えた。
「何の用だ、カシューはどうした」
そういえば、カシューさんが見当たらない。いきなり静かになったけど、まさか。
「いやなに、話しに応じてもらっただけですよ。今日は最後の確認をしておきたくて来ただけですよ」
「あ、あのバロウズさん。一体何をしているですか? 何でこんなこと」
「ふ、ふふ。アミさん、あなたのおかげで色々と進みましたよ。ありがとうございます。あなたような異例が発生するなんて予想外でしたからね。さて、これで最後なのです。ヴァル、行きなさい」
バロウズさんの言葉に合わせてヴァルが消えた。同時に轟音とガラスが割れる音が後ろからした。
見るとベランダのガラスが割れていた。
でも、それよりもサチの方が問題だった。ヴァルに手を押さえられている。サチの手には銃が持たれていてベランダの方へ逸らされている。どうやらその銃が発射されたみたいだ。
「アミ! 助けて!」
「さあ、ヴァル。やりなさい」
本当に一瞬のことだった。バロウズさんの言葉と一緒にサチが消えた。ヴァルも一緒に消えた。
何が起きたと言うんだろうか、私にはわからない。分かることは彼らがサチに何かをしたと言うこと。さっきまで話していたサチがもういない。
「彼女はもう死にました。さあ、アミさん、私が憎いですか? 彼女を殺すようにした私が」
嬉しそうに声を上げるバロウズ。こいつは一体何なんだろう? 何が嬉しいの、何がしたいの?
サチに会わせてくれると思ったらいきなりこんなこと。頭の中がおかしくなりそう。何だろうこの感じ。今私はあいつを本気で殺したい。そう思っている。
「バロウズ! アレで終わりじゃなかったのか!」
「そうです、一応は終わり。でも、言いましたでしょう。最後の確認だと。本当に彼女からカースはいくらでも生まれるのか。あなたたちが先日カース消したと聞きましたからね。まことないチャンスだと思いまして。さあ、アミ! 私を殺したいだろう? さあやれ、私は逃げも隠れもしない。思う存分やりたまえ! どうせ先の短い人生だ、これほどにない最高の終わりはないだろう!」
事情なんて知らない。私はただこいつが狂っているとしか思えない。こんなふざけた奴は、生かしたらいけない。マキシムは怒ってはいるけど、手に持っている銃であいつを殺してくれそうにない。
誰もやらないなら、私がやる。
剣を握り、私はバロウズに向けて剣を振り下ろす。でも、老人の所へは届かなかった。私の剣は片手でいとも簡単に止められている
「あなたに殺されるつもりは、ない!」
剣を捻り、私の手から離れた剣を地面に落した。そのままバロウズの後ろへと剣を蹴り飛ばされた。
「何をやっているのですか。あなたでは勝てませんよ。いけるでしょう、ここまで舞台を用意したのですから。……まさか、本当に消えたと言うのですか?」
いきなり笑い顔が真剣な顔になる。無表情で、ただ単純に怖い。
そのまま近づいてくる。いきなり横を向いた、つられて私も横を向くとマキシムが銃を構えていた。
銃声が響く。
「マキシムくん、邪魔をしないでもらいたい」
マキシムの持っている銃が飛んだ。バロウズの手には小型の銃が持たれていて、銃口からは煙が出ている。
さらに二回銃声が響く。一つはマキシムの肩に当り、もう一つは落ちた銃に当たった。銃は粉々に壊れ、マキシムは肩を押さえてうずくまっている。
「マキシム!」
また轟音が鳴る。
マキシムの右足にそれは当った。
また撃つと言わんばかりにバロウズがマキシムに向けて銃を構え直した。
「さあ、早くしたまえ。早く私を殺さないと彼は死ぬぞ。君が私を殺さなければ彼は死に君も死ぬ。それでいいのか、木城亜美。次は、頭を狙うぞ――」
頭の中に言葉が入らなくなった。もう真っ白、もし生きていたら発狂して叫んで泣いて、無力さに嘆いているかもしれない。
もう私は別のことを考えていた。アレに来てほしいと、殺してくれるために、力を貸してくれるアレを。
何となくだけどあの感じが来ている。
来た。
あいつの後ろ姿が見える。
来た。
あいつの後ろ姿が近づく。
来た。
私の姿が見えた。
〇
暗い視野、目の前の老人から嬉々とした声が聞こえる。
「来た! 来たぞ! 私は正しかった、これですべてが分かる。ありがとう。アミ、いや木城亜美! 君と言う存在ですべてのことが躍進する! 誇って良い、最高だ」
面白い、殺されるのに喜んでいる。両手を広げて、何を考えているんだ。私だって望み通りやってあげる。
今までと違うカースなのか、同じカースなのかは分からないけど、前と同じように手からは剣が生まれた。
私はそいつを殺すために刃から刃を生み出していばらのような刃をした剣を作り、刺した。そして中からさらにそのいばらを伸ばす。
嫌な音だった。『ゴキッ』という骨が折れている音。何かが落ちるような『ポタッ』と言う音。雨漏りのような水音。嫌な音が耳を支配する。
現実離れした、凄惨な光景が広がる。暗いのが幸いか、あまり実感が湧かなかった。
私は殺した、それだけは分かっている。




