サチを知る
再び1102号室。前と同じように私とサチは二人きりにされたまま二人は部屋の外で待っている。
「サチ、調子はどう?」
「え? う、うん」
凄く戸惑いながら答えるサチ。その戸惑いは怯えのように感じる。前会った時のこともあるからか、それとも他に理由が。
今回は、サチのことを知らないと。今のサチを。
「この前のアレ、ありがとう。お礼にこれ」
包装紙に包まれた箱、中には私が出来る限りのサチが喜んでくれそうな物。絶対って言う自信はないけど、喜んでくれると思う。
「開けていい?」
箱を手に取ると上目づかいをしながら不安げな声で聞いてくる。
「いいよ」
私の返事を聞くとやたら丁寧に、少し開けて行くたびにこちらを見ながら開けていく。
気を使っているのか、それと怯えているのか。その手が震えていて不自然。時間を掛けて包装紙を外し、開けると同時に表情が変わった。
「わぁ!」
子供みたいな声を上げて、中に入っていたネックレスを掲げた。
「カシューさん! カシューさん!」
サチの呼び声に音を立てながら扉が開かれた。
「どうしたの!」
「これ! もらったの!」
険しい表情出てきたカシューさんの表情が一気に優しくなった。
「ああ、よかったわね。どうせならアミちゃんに付けてもらったら?」
「う、うん!」
一瞬不安げな表情、でも元気よく返事をした。
「これで、よし。どう?」
「うん!」
嬉しそうに鼻歌を歌いながらネックレスの装飾を見ている。
その表情、仕草が私の知っているサチと被った。
前と違ってだいぶ落ちていて来ているようにも見える。今なら全部聞ける? でも、もしもまだ駄目だったら、それに何に怯えていたのかがよく分からない。
迂闊に聞かない方が、良いのかな。
「カシューさん、ちょっと聞きたいことが」
「どうしたの?」
ここで聞くのは少し危ないかもしれない。またサチが前のようになったら、もう会わないなんてことは考えないと思うけど、そんなサチを見るのは辛い。
私が言いたいことが分かったのか、小さく頷いた。
「3番、少しアミちゃんとお話があるの。留守番出来る?」
サチの方に向き直り、あやすように聞いていると「うん、大丈夫」と、疑いのない明るい表情で返事をした。
部屋を出る途中、サチが手を振っていたので振り返す。サチだけど、やっぱり幼すぎる、行動、言動、すべてが。
部屋の入り口で待っていたマキシムにも来てもらって問いかける。
「サチは、何があったの? 私が会う前に、もちろん私のように何も異常も無く幽霊になっている人はほとんどいないのは知ってる。でも、サチが私に対する怯え方は普通じゃない。だから、何かあるんじゃないかって。バロウズさんの話だけだと納得できなくて」
あの時、サチは利用されているみたいなことを言われていた。それだけだったら何で私に怯える必要がるんだろう。それがどうしてもわからない。
「どうする、マキシム。全部教える?」
「それは、私一人じゃ判断しきれない」
すると、カシューさんは一息吐く音がして「じゃあ、アミちゃんに全部教えてあげなさい。もう甲本幸がいることを知ったんだから、知っておいた方がいいでしょ? あの子を支えれるのは彼女が一番いいのかもしれないし、ね?」と念を押すようにマキシムに問いかける。
カシューさんの言葉に答えるようにマキシムは頷いた。
「分かった、私が知っているサチのことを、全部教えよう」
「じゃあ、3番に聞かれたらいけないから部屋に戻ってゆっくり話してあげなさい」
そう言いながらカシューさんは部屋の中へと戻って行った。
マキシムは無言でエレベーターの方へと歩いて行く。私も無言で着いて行く。
もうすぐ、私は知らなかった部分を知ることになる。これを聞いてサチの印象が変わるかもしれない。でも知らなくちゃいけないんだ。じゃないと、私は一生今のサチをサチとして見れないから。
知って、すべてを受け入れないと。
〇
部屋に戻ると妙に空気が重かった。
いつものマキシムと比べると少し重い雰囲気で私はマキシムが話すのを待つしか無かった。
「どこから話したら良いか。……とりあえず初めに謝っておく。色々済まなかった」
「私にサチのことを隠してたから?」
「それも、他にもある。……最初は甲本幸に出会った、討伐任務の話から始めよう」
マキシムは座ったので私も向かい合って座る。目が合うと同時に話は始まった。
「去年の5月、亜美が甲本幸の死を知る少し前になる。私とカシューは討伐任務を受けていた。その任務で最初にあったのが甲本幸、三番だった」
ここまでは、バロウズさんの話でも聞いた。
ここからだ。
「彼女に天使であることを言うと『私を殺してください。それとお願いがあります』と言った」
「何それ!」
思わず声が出てしまった。
同時にマキシムの口は止まっていた。止まった空気を動かすために「ごめん、続けて」と、言うと話は再び始まった。
「バロウズも言っていただろう。彼女は利用されていた、と。カシューはその話を聞いて同意をし、願いを聞いた。『あいつを、殺してください』という願いを。そして、彼女の案内でもう一人のカースと会うことになった」
「ねえ、その時のサチはどうだったの?」
「普通に学校も行っていた見たいだったからな。この時のはアミの方が詳しいだろう」
じゃあ、体調が悪そうにしていたのはカースのせいだったのかな。あの日、「大丈夫」って言ってたけど。全然じゃない。
「そして、もう一人のカースと会い、戦った。そこまで強いという者でも無かった。お金を集めて贅沢するために殺し、奪う。小悪党のような奴だった」
「その後、サチを」
「いいや、違う。まだ彼女は第1段階だった。この任務は討伐任務だが2段階カースと1段階カースの2体だったんだ」
「え?」
空気が抜けるような声が漏れてしまう。
第1段階なら、サチは幽霊にならなくて良い。なら、何でサチは。そう考えているうちにマキシムが動いた。
その動きは頭を下げる動作だった。
「守り切れなかった。その場所に3番のカースが現れた。そして、彼女は2段階カースになってしまったんだ。彼女を殺したのは、私の責任だ」
つまり、マキシムとカシューさんはサチのカースがどこにいるのか分かっていなかった。それが通り魔の所にいて、出会ってしまった。
2段階カースになれば、殺すと幽霊になってしまう。
「頭を上げてよ」
正直、どうしていいか分からなかった。怒ったらいいのか、悲しんだらいいのか。目の前にいるマキシムにさらに追い打ちを掛けるように罵倒して気が晴れるなんて思わなかった。
今は、すべてを知ることが大事だと思ったから。
「続き、お願い」
頭を上げたマキシムに向かって私はいつもの声色で言う。マキシムは緊張した表情で私の目を見ると喋り始めた。
「分かった。すまない。私とカシューは2段階になったカースを殺した。そして彼女は幽霊になった。彼女にはカシューの共闘者になってもらった。そうすれば亜美と同じように研究の対象にならなくて済む。私はカシューの部下を止めた。カシューはまだ9階生だったからな、部下や共闘者を入れる枠が一つしか無かったんだ」
それで、マキシムが3階生になったんだ。マキシムもカシューさんも私と同じようにサチを守ってくれたんだ。
「さて、ここから9月に移る。この月が何かは覚えているな」
「うん」
私が亡くなった月だ。
「私は3階生として特に上がることなくずっとやっていた。ある日、カース掃討を受けた。この任務はあの街だったからもある。そして、アミ。あの交差点でお前と出会った」
「何であの交差点にいたの?」
「それは、当時、5月のことを思い出してな。この日の夜にカースを倒した。まあ、当事者のアミは分かっていることか」
「うん」
夢の中でマキシムに殺された。あの夢は私がカースとして活動している時の映像。だから、私もよく知っている。
「ここからはアミが知らなかったことだ。実はな、次の日にアミをサチに会わせる予定だったんだ」
「え? どういうこと」
「甲本幸の知り合いと言うことを聞いたからな、そのまま捕獲任務も受けたんだ。天使ヒルズの研究所に連れて行く合間に一度会ってもらおうと思っていたんだ。だが、な」
凄く言い辛そうに言う。
「あ、あぁ。あはは……」
私は思わず苦笑いしてしまい、切れの悪い声を漏らしてしまう。
「でも……殺される夢を見たのよ! 普通に逃げるでしょ!」
「ああ、私のミスだ。私の報告から同じ対象の掃討と捕獲を同じ人が受けることができなくなったしな。しかし、話くらい聞いてくれればあのようなことにはならなかったかもしれないと思うと――」
「うっさい! もう終わったことなんだからしょうがないでしょ! ……でもなんで会わせようと思ったのにどうして私にサチのことを教えなかったの?」
「おっと、そうだった。アミが亡くなったことをカシューに伝えて、それから3番に伝わったんだが、そこで異常が起きてな。3番が非常に不安定な状態になったんだ。それで会わせられないと思い、アミには居ないと言うことにしたんだ」
「不安定って今のサチの感じ?」
「そうだな」
じゃあ私が死んだことと、サチが私をおびえていることと関係があるということ?
「それからは知っての通りになるな。後はカシューには連絡した時に共闘者の紹介状をもらったと言うことくらいか。何か聞きたいことはあるか?」
聞きたいこと、そう言われて思い出した事があった。
「私が2段階カースになった時、どうしてサチが来てたの?」
「悪いな、それはカシューに聞いてくれ。3階生になってからはあまり3番とは会っていないからな」
と言うことは、マキシムから聞けるのは本当にさっきまでの聞いた事くらいか。
「ありがとう、マキシム」
「あ、ああ」
私の言葉に戸惑いながら答えるマキシム。立ち上がると「さて、飯でも食べるかな」
そう言って台所の方へと歩いていった。




