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カース ~親友と天使と化物と~  作者: 世良
8話 生きている私
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チャンス

 カース現れた。私の目の前に。 

 お母さんは当然見えていない。マキシムとカデナさんは気づいて反応はしているけれど、お母さんがいるせいか武器に手を掛けているけど出せないでいる。

 

 これは……チャンスかもしれない。そう思った直後、視界が変わった。

 

 私の名前を呼ぶお母さんの声が聞こえる。他の二人の方を見ると、二人とも銃をこちらに構えている。構えるだけで撃とうとはしない。

 私は威嚇をするように剣を出して、マキシムへと構えた。

「何ですか、アレは!」

「危ないので離れててください」

 私を指さしながら声を上げるお母さんをカデナさんが抑えながら離れさせている。

 剣を構えたまま、じっと見ているとマキシムは頷いた。

 大丈夫、体は勝手に動こうとはしない。完全に私が制御できている。でも、さすがにそれを見続けるのは怖い。目をつむり、すべてが終わるの待った。

 目の前が真っ暗になった直後、銃声と一緒に痛みが走った。暴れたいくらいに、酷い痛み。我慢しないと、こんな所でもしも暴走なんてしたら、ここにいる3人が危ない。特にお母さんに何かあったら。

 だから、我慢。

 痛みで、立てなくなって膝をつくと体が支えられた。マキシムが傍にいて、カデナさんの声が聞こえる。

「あれが、悪霊です。もしかしたらお母さんが出会ったのはアレだったのかもしれませんね」

 そう言ってお母さんを説得している。

 マキシムは動かない私の体を背負って小声で「大丈夫か」と、聞いてくる。自分でもちゃんと言えてるか分からないくらいに囁くような声で返事をすると「分かった」と、かすかに聞こえた。

 背負われたまま、家の入口の方へ向かってる。頭痛でくらくらする頭、気持ち悪くてこのまま倒れてしまいたいくらいだけど、どうなっているのか知りたい。

 我慢するように歯を食いしばり、意識を集中する。

 家の玄関に来ると立ち止った。見回すとお母さんがいるのが見える。

「本日は本当にありがとうございました。亜美、ありがとうね。お父さんにも来てたこと伝えておくからね」

 その声はいつもの、私に話しかけてくる時の声だった。優しくて、温かい。やっぱり違う、私のための言葉。

「それでは、お邪魔しました」

 カデナさんがそう言うと扉が締まる音が聞こえた。

 

 〇

 

「アミちゃん、大丈夫!」

 家から少し離れた所で背負われるのを止めてもらうととカデナさんの少し怒ったような声が聞こえる。

「う、うん」

 私は戸惑いながら、静かに声を出す。その様子でカデナさんはどう判断したのか、少しさびしげな表情で私の頭を撫でてきた。

「マキシム、大丈夫なの。これ」

「あ、ああ。多分、問題はないはずだ」

「多分って、何考えてるの! もしも何かあったらどうするのよ!?」

「本当に、何を考えてここに来てたの?」


 別の女性の声が聞こえる。その聞こえる方向を見ると女性と男性。一人はヒロさん。頭をかきながら目を逸らしていて、凄く居ずらそうにしている。その隣にカシューさんがいた。冷ややかな目をしていて怒っているように見えた。

「ヒロから大体は聞いたから分かったけど、何があったの。特にアミちゃんの状態が明らかにただ事じゃないんだけど」

「これは、えっと。カシュー様、色々とありまして」

 さっきまでと違って腰が低く、今までと喋り方が違う。

 そう言えばカシューさんは11階生だったっけ。よくよく考えるとマキシムの知り合いだから普通に話してたけど、本当なら私もこんな感じに話さないといけないよね。

「今回は、私が悪かったんだ。他の二人は関係無い」

「ええ、他の二人は関係ない。だけど話してくれるよね。マキシム」

「ちょっと! それはないんじゃ――」

「ああ、分かった」

 言葉を遮るようにマキシムが答えた。

 カデナさんは出鼻をくじかれて言葉が続かなくなった。

「8階生ヒロ、カデナ。二人はまっすぐ天使ヒルズに帰ってください」

 二人は声を揃えて返事をした。

 カシューさんがいきなり指さした。その先にはいつもの黒塗りの車がある。

「それじゃあ、あそこで、アミちゃんは大丈夫?」

「はい」

 頭痛もだいぶ収まっているし、大丈夫。

 

 後部座席に三人、私を挟んで左にカシューさん、右にマキシムがいる。乗り込むと車は走り出した。

「さて、何があったか話して」

 するとマキシムが説明して行く。私が張り紙のことを知って悩んでいたこと。そこでヒロさんが提案して、私の家に向かったこと。そして、カースになったこと。

「なるほどね。マキシム、あなた何のためにアミちゃんの傍にいるの? あなたの話からすれば、アミちゃんが無理してカースになったように聞こえたんだけど……アミちゃん、まさかと思うけど、自分からカースになったの?」 

「えっと、それは」

 いきなり話を振られて答えられなかった。いや、どう答えていいか分からなかった。

 アレは自分でしたんだろうか、今思うと丁度いいタイミングだと言えるし。でも、絶対とは言えないし、自分でできたとしてもそれはそれで問題がある気もするし。 

 黙っていると大きなため息が聞こえた。

「結局、問題は解決したのね」

「ああ、それに関しては問題はないはずだ。カシューも――いや、大丈夫だろう」

 何かがおかしく感じた。一瞬だけど、空気が止まった気がする。マキシムが何かを言いかけたけど、今のは何だっただろう。

「それじゃあ、もうこんなことはしないで。マキシムは分かってると思うけど、アミちゃんも」

「はい」

 まるで子供をしつけるように怒る言葉。本気では怒っている感じではない叱られ方、怒られた気がしないけど、言う通り。

 これで、私は本当に死んだことになったのかな。

 

 〇

 

 それから数十分、ようやく天使ヒルズが見え始めた。

「今日はもうこれ以上は言わないけど、これからはこんなことしないように。ん?」

 天使ヒルズを見ながら、不思議そうな声を漏らした。気になり見てみると誰かが待っていたかのように入口に立っている。

 ある程度近づいてそれが誰か分かると同時に、ドキッするような感覚がして身体がビクッと反応した。

 あれはバロウズさんだ。

 今回はいつものスーツの人達は連れていなくて一人だった。

「お待ちしていましたよ、アミさん。それにマキシムくんとカシューさん」

「バロウズ様! なぜこのような所に――」

 真っ先にバロウズさんに反応したのはカシューさんだった。なんとなく、いつものカシューさんらしくない。口調とかじゃなくて、焦っている感じに違和感を覚えた。

「今日はアミさんに用がありましてね。連絡を送ったのですが部屋にいないようでして、帰ってくるのをお待ちしていましたよ」

 私の気分はさらに高まった。バロウズさんが私を待っていた。思い当たることは一つしか思いつかない。

 サチのことが――分かる。

 

「バロウズ様!」


 いきなりカシューさんが声を上げた。バロウズさんの視線もそちらに移った。

「少しお待ちください。彼女はついさっき騒動がありまして、今連れて行くのは無理があります」

「ほう、どうかしたのか」

「そのことは後で報告いたします。ですから、出来れば明日以降にしていただけないでしょうか」

 え、ちょっと。私は今、すぐにでも知りたい!

 声に出そうと思ったけど、カシューさんの鬼気迫る様子に押されて口を挟むことができなかった。

「分かりました、ではまた今度。君たちにも協力してもらいたいこともありますからね。丁度良いでしょう。では今週中に連絡を取りますので、それでは」

 何事もなかったかのように、バロウズさんは天使ヒルズへと入って行った。

「マキシム」

 いきなりカシューさんが喋る。

「後で部屋に来て、アミちゃんは部屋で留守番しててくれる?」

「えっ……はい」

 なぜと言い返そうと思ったけど、無言で見てくるカシューさんに私は何も言いかえることができなかった。

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