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カース ~親友と天使と化物と~  作者: 世良
1話 私は死んだ
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私の知りたいこと

「おい、亜美。起きろ」

 声が聞こえる。耳障りに思いながらうっすらと目を開けた。首を動かすと枕元にあった置時計が見える。短い針は10時、長い針は12時を指していた。

「遅刻?!」

「寝ぼけてるんじゃない」

 冷静に突っ込こんできたのはあの時の男だった。思い出した、もう学校に行く必要はないんだ。

「起きたか?」

 黙りこんでいたせいか、屈みながら聞いてくる。その顔は眉を眉間に寄せて心配そうに見える。

「うん」

 出せる限りの元気の良い声を出した。男は「じゃあ行くぞ」と、手を差し出してくる。

「わかった」

 布団を除けて手を掴まずに立ち上がる。男は何事もなかったように手を戻して、部屋の出口の扉の方へ歩いて行った。

 

 


 ホテルを出ると男が歩き始めて、どこかへ行こうとしている。

「ちょっと! 行きたい所があるんだけど」

「ん? ああ、そうか。じゃあ先にそちらへ行こうか」

 昨日『考えとく』って言ったのに、忘れてる? 少しイラついたけど、今は我慢。行きたい場所を優先させないと。

 

 歩いて数分、慣れた道を通り一日ぶりの自宅。木造二階建ての古めかしい家。いつもなら気軽に中に入るんだけど、今日は別の家みたいに感じて入口まで行けない。もう見える所まで来たのに、足が動いてくれない。

「どうしたんだ、亜美。用事があってきたんだろう」

「分かってる、分かってるけど」

 立ち止っていると手を掴まれ、そのまま家の前まで連れて行かれた。入口まで来るとドアの傍に合ったインターホンを押した。 

「ちょ、ちょっと何して――」

 扉が開かれた。中からはお母さんが、でも今まで見たこと無い表情をしている。いつもは怒っているような表情で、それでも頼りがいのある、そんな母が弱々しい。それをみて一瞬、息苦しくなった、気がする。

「ど、どちら様でしょうか」

「こちらは近藤さんのお宅でしょうか」

「い、いえ、こちらは木城ですが――」

 戸惑っているお母さん。マキシムはワケの分からない言い訳をしながらこちらに目配せをしている。なんとなくそれが意味していることが分かった。少しだけ扉を開いて中に入る。

 見慣れた廊下、奥へ行って居間に。高さの低いテーブルにお父さんが座っていた。色々な書類が散らばっていて、手紙のようなものをずっと書いている。一枚一枚丁寧に、内容を覗くと見たことのある親戚の名前と難しい文章。なんとなくだけどそれを意味していることは、分かった気がする。

 後ろから足音が聞こえる。振り向くとお母さんが戻ってきていた。お父さんの方をまた見るとお父さんもお母さんに気づいて振り向いていて話しだす。

「誰だったんだい?」と、お父さんは言う。

「さあ、分からないけど間違いだったみたい。それよりそっちの方はどう?」と、お母さんは言った。

「あぁ、この通りさ」と、お父さんは答える。表わすように山積みの手紙を指さした。

「そうね」と、お母さんは言った。続けて「亜美は、どうして」と、言いかけて言葉は途切れた。

「悔やんでもしょうがない。もう、居ないんだ」そう言うと二人は寄り添った。私を挟んでいるのに、二人とも私が居ることは気づきもしない。

「ここにいるよ」と、言っても振り向きすらしてくれない。やっぱり、ダメなんだ。

 

 自分の部屋に向かった。二階の一室、小学校に入って勉強部屋を作ってもらったが一人で寝るのが嫌でよくごねていた記憶がある。いつの間に二階の部屋にも慣れて、それも無くなった。

 部屋に入ると何一つ変わらず私の場所が広がっていた。クローゼットの中も、置かれている小物も何一つ変わってはいなかった。机の中も何一つ変わっていない。中にはいつも使っていた日記があった。鍵付きの日記。これだけでも持っていこう。

 筆箱と日記帳を持って出ようとすると足音が聞こえる。思わず隅に隠れていると出てきたのは母だった。しばらく見回して不思議そうに首をひねると扉を閉める。

 耳を澄ましと下から「どうだった」と、不気味そうに聞くお父さんの声、「気のせいだったみたい」と返すお母さんの声が聞こえる。

 どうやら気づかれては無かったみたい。何で隠れてしまったのだろう。やましいことなんて何も、無いはずなのに。どうせ見えない、なら堂々としていれば良い……のに。

 日記の一枚を千切って、ちょっとした事を書いてみる。書いたことは『ごめんなさい』でも何か違う気がして『ありがとう』と、書き換えて机の中に入れておいた。

 

 

「もういいのか?」

 家から出ると聞いてくる。頷くと男は歩き始めた。向かう場所はどこかは知らない。

「ねえ、聞きたいことがあるの」

「なんだ?」

 歩きながら返事をしてくれた。私は一番聞きたいことを聞く。色々あって忘れかけていたことを。

「どうして、サチのことを知っていたの」

 足を止めた、でもすぐに歩きそのまま答える。

「何のことだ」

「とぼけないで! 横断歩道で会った時に聞いてきたじゃない」

 男は私の叱責に微動だにせず、声の調子を変えずに話す。

「知ってどうする」

「どうするって、聞いちゃだめなの」

「分かった。私は彼女が死ぬ前に一度会った。それだけだ」

 諦めたように答える。でも私にはそれがすべてとは思えなかった。だけど私に深く聞く勇気は無かったのだと思う。

「本当に?」

 ただそれだけ聞いた。ほんの少し希望を持たせて。

「本当だ」

 男はそれだけ答えると歩く速さが少し上げた。


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