腕試し
「いやいや、悪いねえ。おごってもらっちゃって」
「それで、話があったのだろう。早く話せ、そして帰れ」
「まあまあ、そう怒るなって。せっかく来たんだから。そう言えば最近はシンドウと一緒に任務してるらしいねえ。まあ、こっちとしてはシンドウが真面目に任務こなしてくれるようになって良いっちゃ良いんだけど。あの子が関係してる感じ?」
「うん、そう」
「なるほどなるほど。そいじゃ、まあ本題に入りますか。実はある話が飛び込んできてねえ。特にアミちゃんに来てほしいと、言うことだそうで。だから一つ頼まれちゃくれないか?」
あまりに軽く言うから重要そうには感じない。
「さっさと話を始めろ」
不満そうな声でマキシムは言った。何となく、怒っているような印象を受けた。
おごらされただけなのに、私は少し怒り過ぎのように感じた。
「おっと、そうだったそうだった。マキシムにはもう言ったが他の幽霊たちと一緒にちょっとした任務をするって話になったんだ」
「どういう意味?」
「なんでも幽霊たちの強さを見ておきたいんだとか。最近、カースの勢いが強いからねえ。戦闘に特化した幽霊を増やしていきたいんだとか。報酬も3万Eだとよ」
私と同じ共闘者になっている人たちに会うこともできるってことか。
「それ、私やりたい」
「おお、やってくれるか、それじゃあ連絡しておくねえ。マキシム、どうかしたかい」
「いや、何でもない」
私は見えた、マキシムがバツの悪そうに顔を歪ませていたことを。何か関係がある、絶対に。
〇
1週間後、集合場所は地下の研究所だった。
行くと案内されて奥へ、しばらく進んでいくと大きな部屋に出た。何も無い、ただただ広いだけの空間。学校の運動場よりも広いと思う。
壁も床もコンクリートで覆われていて、面白味もない部屋。見回すと4人ほど来ているのが見えた。
「……ああ、お久しぶりです。えっと――」
こちらに気付いた一人の男性が話しかけてきた。名前を言おうとしたんだろうけど、交互に見ながら口が止まっている。
「マキシムとアミだ、えっとお前は――」
「アルアエです。こっちはマロウ、ほら挨拶しなさい」
アルアエさんに言われて後ろに隠れていたマロウくんがひょっこり出てきて小さくうなづく。すぐに後ろに隠れてしまった。
803号室の二人、私も名前は思い出せなった。まともに話したことは今回が初めてと言っていいと思う。8階生になってから、ヒロさん案内以降、一度も会ったことなかったし。
「……そういえば、最近忙しそうですね。よく見かけますよ、シンドウさんと一緒にいる所」
相変わらず一呼吸置いて話しだす。私はずっと隠れて見ているマロウくんが気になる。少し横に動くと視線がこっちに動いている。何だか知らないけど、興味を持たれてるみたい。
「張り紙」
マキシムがアルアエさんの質問に答えていると、マロウくんが小さく声を漏らしているのが聞こえた。
「張り紙?」
問いかけるとアルアエさんが答え始めた。
「……ああ、あの時のことですか。聞きたいですか?」
「はい、聞きたいです」
「……この前、任務で町中を歩いていたら電信柱に張られていたのですよ。アミさんの顔写真が、捜索願いみたいな感じで。……名前は木城亜美と書いていましたが、あなたのことでしょうか?」
「えっ?! 何で、どこ!」
急に私の本名が出てきて、つい声を荒げてしまう。
「どこと言われましても、正確な場所は覚えていません。道を覚えるのが下手でして。この子なら覚えているでしょう」
マロウくんの頭に手を当て、撫でながら言った。嬉しそうに眼を細めながら頷いている。
マキシムに視線を送った。でも。分からないと言わんばかりに小首を傾げていた。
それから徐々に人が集まってきて、10人ほどになった所でアナウンスが流れ始めた。
「皆さま、今回はお集まりいただきありがとう。では、それぞれの強さを測るために彼と戦ってもらう」
アナウンスの声はバロウズさん。もしかしてこれを仕組んだのはバロウズさん?
他の共闘者を見てみるけど、サチらしい幽霊は見えない。そう言えば、カシューさんが居ない。カシューさんも私と同じ服を着てたんだし、あの子が来ててもおかしくないんだけど。
壁が開かれ、男性が出てきた。同時に周りがざわついている、
「ねえ、誰?」
「ヴァル様だ。11階生、カシューと同階生の男だ。危険なカースが出てきた時にはあの方が大体出る、この天使ヒルズ内で一番強いだろうな」
「それでは、一人ずつ戦ってくれ。後は頼んだよヴァルくん」
「さあ、誰から来るんだ……じゃあお前から来い」
聞いてすぐに近くにいた人を指名した。
誰かは知らない、多分上の階層の人だと思う。指名された男の人は驚いていたけど、すぐに幽霊の方は何も気にしていない様子でヴァルと言う人の前に向かった。
戦いは始まった。ヴァルさん何も武器を持たずに仁王立ち、相手の幽霊は私の持っているのより小さな片手剣だ。
ヴァルさんが手のひらを自分の方へ向けて挑発すると、戦いは始まった。
幽霊は斬りかかったけど、すぐに避けられる。それでも何度も、かなり早い速度で斬り続ける。
ヒュンと鋭い音を出しながら襲う剣を軽いステップで避けていく。10秒くらいそれが続くと剣の動きが止まった。
よく見ると剣の刃が指の間に挟まれていて止められていた。
「他に変わった芸は、無さそうだな。じゃあ次はこっちから行くぞ」
そう言うと挟んでいた指を離し距離を取る。幽霊が構え直すのを確認するとヴァルさんが動きだした。
近づき、拳が向けられる。幽霊は当らない様に距離を取り、それを避け始める。どっちも動き方が尋常じゃない。ヴァルさんは豪快で、当ったら吹き飛ぶんじゃないかと思えるほど激しい、幽霊の避け方は凄く機敏で同じ人とは思えない。
しばらく続くと思ったけど、すぐに戦況は変わった。
ヴァルさんの攻撃を避けた所にそのままタックルをかました。倒れ込んだ幽霊はそのまま抑え込まれて、戦いは終わった。
「なるほど、こんなものか。じゃあ次はお前だ」
指さされたのはマキシムだった。つまり戦うのは。
「私?!」
「共闘者はお前か。まあ良い、やるぞ」
さっきの戦闘は何事も無かったように、同じように挑発をしながら来いと言わんばかりに待ち構えている。
こんなの、勝てるか。




