私は死んだ
気づくとベッドの上で横になっていた。傍にはコートの男が立っていてこちらを見ている。男に気づくと同時にビクッとさせて襲われないように腕を縮ませていると「起きたか」と、男の声が聞こえた。それと一緒に近くでベッドが軋む音が聞こえる。
腕を下ろして、腰を上げて男と同じようにベッドに座り、この場所を見回す。前を見れば男が見えて、その後ろには入口だと思う扉がある。上を見れば綺麗な照明、左に視線を向けると枕と傍に小さな照明、反対側には机と鏡、その隣にはテレビがあった。
誰かの部屋と言うよりはホテルの一室と言う感じ。あまりに整っていて生活感を感じられないからかもしれない。
「ここは、どこ?」
「すまなかった、私のせいだ――」
男は質問に答えることなく、何について謝っているのか言わずに謝り続ける。意味が分からなくて聞くと説明を始めだす。
「17時24分に亡くなった。信号無視で――」
そこから先の内容は頭に入ってこなかった。代わりにここに来る直前のことが頭の中を渦巻いてくる。
この男から逃げようとして無我夢中で走った先、あそこは信号のある交差点で、直前に見たのは、大きなトラック。いつもは特に何も感じることはない、ただのトラック。今、想像できるのは強大で凶悪な別の何かで……
「――おい、大丈夫か」
肩の揺らされる感覚と男の声で現実に戻された。同時に今の私が現実でどうなったのか、この男が言っていることが本当だったと言うことも。
「とりあえずしばらく休んでおけ。お前が今どうなっているのかは追々説明する」
男の声に力なく頷いた。
私は今『ホテル松尾』というビジネスホテルの一室で男と居る。男の名前はマキシムというそうだ。名前からして多分外人、だけど喋る言葉に違和感は無い。
「何か聞きたいことはあるか?」名前と今居る場所を教えてもらうと聞いてくる。
聞きたいことなんて言われても、正直、今は何もやる気がでない。いきなり死んだと告げられて、気分が上がる人なんていないか。
「何にもない」
気分が悪い時に出る低い声で答えておいた。
「明日、外に出るがどこか行きたい所はあるか? 無ければ仕事場に行くが」
「考えとく」と、さっきと同じ声で、何も考えず答える。
時刻は午後11時。いつもならそろそろ寝ようかと考える時間。でもあまり眠気は襲ってこない。私はつまらないニュースを見て、男はずっと銃をいじっていた。その銃には見覚えがある。夢の中で撃った銃。何をしているか分からないけど、整備をしているのだと思う。
「ねえ、夢でその銃で撃たれるのを視たんだけど。何だったの?」
小さな金属音を立てながら銃をいじっていた手を休め、喋り始めた。
「それはお前のカースの映像だ」
「カース?」
「そうだ。呪い、と言えば少しだけ分かりやすいかもしれないな」
「呪いってホラー映画とかにある、呪い?」
何度かテレビで放映されていた映画で見たことがある。その人を恨み、恨まれた人は様々な不幸に遭って、死んだりすることが多かった気がする。
「そうだな。まれにいるんだ、呪いを持った人が。私たちはそれを倒し、そしてそれについて研究することを仕事としている」
「研究しているのに倒すの?」
「元となった人と出会うと、恐ろしい事が起こるからな。倒した後は元となった人を連れていくのが主な仕事だったんだが、な」
言いにくそうに語尾を濁ごす。困ったように男は半笑いになっていた。私もつられて半笑い。だってこの話が本当なら私は殺されたんじゃなくて……
私は顔に手を当てて屈んだ。恥ずかしいのもあるし、あほらしくて笑ってしまいそうな自分もある。状況を飲み込みたくない自分がここにいることだけは理解した。ベッドにもぐりこんでいると小さな金属音が再び聞こえる。他に何も音は聞こえなかった。




