新しい場所
引っ越しを終えて、一週間。今は603号室だ。窓からの景色が変わったくらいで、部屋の使い勝手などの変化は一切ない。変わったと言ったら他のこと、ほとんど嫌な方向に変わった。
私は、この階層が大嫌いだ。
年も変わって1月、年初めから凄く憂鬱だ。
心の中で毒づきながらも6階生初めての討伐任務へと向かった。
ここは工場。中は静かで、いくつもある窓から差す光で薄暗く中を照らしている。ここに居た人には出ていってもらっているそうだ。
注意事項に中の物は壊さない様にと、少し難易度が高くなった感じはする。
『そっちはいたか?』
携帯越しに男の声が響く。男は外で工場の周りを警戒中。もし見つけたら駆けつける、逃げたら仕留めると言う手はずだ。
「いや、いない。本当にいるの?」
『居るはずだ、分かっているだろう』
「まあ、そうだけど」
『じゃあ、また後で掛ける』
携帯の画面をカースの居場所を表示するマップに切り替えるとカースを示すアイコンは場所は被っている。
今回の任務は討伐任務。2段階カースはこの中に隠れているそうだ。でも、いつものようにいけるかは分からない。
音が聞こえた。これは金属音、何かが落ちただけかもしれないが、鋭く高い音が響いた。
「マキシム、近くにいるかもしれない」
『わかった、今から向かう』
プツッ、と切れる音に続いて別の乾いた音が近づいてきていた。
まずい、すでに近くまで来ている。
見えたのは右腕が巨大な剣になっている。
それはもう振り降ろされていた。
向こうの大剣はかなり大きかったせいか、動きが遅く、無茶苦茶な体勢ながらも何とか避けることが出来た。
でも、やばい。
顔を上げると、すでに次の攻撃に入ろうとしている。避けるのは難しい、急いで剣を――
再び振り下ろされる剣に向けて、急いで背中の剣を手元へ持ってくる。
「キャッ?! ちょっ!」
鞘から出さないまま襲ってくる剣を防いでいる。思いっきり力を入れても全然押し返せない。
それに、妙にみしみしと軋む音が聞こえる。
「マキシム! 早く来て!」
銃声が響く、数発もの激しい轟音と共にカースが大きく動いた。カースの持っていた大剣が上へと跳ね、胴体にいくつもの風穴が開く。
「大丈夫か、アミ!」
遅れて現れた声、足音と共に近づいてくる。
「た、助かったぁ」
傍には動かない幽霊が倒れている。マキシムが手を差し出してくれたので掴んで立ち上がる。
「体調はどうだ? ケガはしてないか」
「大丈夫、あっ!」
体は大丈夫、でも持っていた剣に異常が起きていた。刃の中央くらいに剣が曲がっている。鞘もヒビが入っていて、使い物にならないのは見て分かる。
「これって、どうなるの?」
「これは、買い直しだな。それに言っただろう、今の階生のカースにこれはキツイと」
「でも、壊れるなんて……それにお金だって使うわけにはいかないんだよ?」
「形ある物はいつかは壊れる。しょうがないさ、後で武器を買うぞ」
・任務名、カース討伐
・報酬、9500E
そう言うわけで、武器を新しく購入することになった。
「うわっ、たかっ!」
液晶画面にずらりと表示される大量の武器、安くても1万E、だけどそれを選ぼうとすると「それじゃあダメだ、最低でもこれくらいはないと」と、言って指差すのは5万Eもする武器だった。
「でもさ、これ買ったら残金半分くらいになっちゃうし」
今の残金は11万2200E。毎回討伐任務が都合よく来れば大丈夫かもしれないけど、そんな都合よくいくものかな?
「ふむ。しかし、これくらいはないとまた壊されるかも知れん」
「本当に大丈夫なの?」
「それは保障する」
5万5千E、名前は絶霊刀、何と言うか中二病臭い。
説明書きには『どんなカースでも綺麗に切れる大きな剣。振ると刃が現われ、切れるようになる。誰でも気軽に使える逸品』
正直、私にはどれが良いのか、悪いのか分からない。ここはマキシムの言葉を信じておこうかな。剣が壊れたのは話を聞かなかったせいもあるし。
結局、この剣を買うこととなった。届くのは明日だそうだ。
せっかく上の階に上がったのに良いことなんて一つもない。出来ることなら前の部屋でいつものようにやって行きたい。
もっと上に行けば、変わるのかな。




