いきなりの・・・・・・
「どうしてカシューさんが?」
「退院祝い、と言いたいんだけどマキシムに話があってね。マキシムは?」
「今、シャワー浴びてる」
「そう、じゃあ後で私の部屋に来てって言っといて、じゃあね。今度はゆっくりさせてもらうから」
言伝を頼まれるとすぐに帰ってしまった。
「誰だったんだ?」
「カシューさ……ばか! 服着てよ!」
下半身だけタオルを巻いたマキシムが廊下を立っている。「おお、すまん」と、軽く頭を下げながら風呂場へいそいそと入って行った。
「カシューさんが後で部屋に来てってさ」
「……そうか」
その声は少し暗い感じがした。
マキシムは髪を乾かすと、すぐに出ていこうしたが入口で立ち止まった。
「ちょっと一緒に出てくれ」
鍵を閉めて隣の部屋、ティルさんの部屋で立ち止まり、インターホンを押した。
「はーい、マキシム様?! どうかしましたか?」
目を大きく開き、景気の良い声を出しながらティルさんが出てきた。
「アミのことを頼む。少し用事があってな」
「ちょっと! 何それ!」
「そうですよ、彼女だって子供じゃないんですからお留守番くらい大丈夫ですよ」
私と合わせてティルさんも声を上げて反論する。マキシムは頭を下げながら、静かな声で頼み始めた。
「頼む、またなにがあるか分からんから」
「……分かりました」
「ちょっと! 別に大丈夫だって」
「何かあってからじゃ遅いんだ。分かってくれ。じゃあ頼む、ティル」
そうして扉は閉められた。
「なんで急に」
「この前のことを気にしてるのです。それくらい分かるでしょ」
「分かるけど、こんなにあからさまな子供扱いしなくても良いじゃん」
「私だってあなたと一緒は正直嫌。分かっているでしょ」
ティルさんの部屋はかなり丁寧に整頓されている。大量に買ってあった物もどこに行ったんだろう。
「へえ、綺麗じゃん」
「当り前でしょ、いつ誰が来るのか分からないのですから」
ゴミ箱を見ると値札の山がしっかりと詰められいる。帰って来てから20分も経ってないのに。あの荷物の整理、全部終わったんだ。
「私は今から風呂に入りますから。大人しくテレビでも見ててください」
同じ1LDKのはずなんだけどなあ。さすがに勝手に探ったら怒られそうだし言われた通り、大人しくテレビを見よう。
適当にチャンネルを回すけど見たいと思うような物はない。こっちの生活になったからはテレビなんてほとんど見ることはなかったものあるけど。
連続ドラマを見ようと思ってもいつ任務が終わるか分からないから見ない様にしてたし。あっ、日記。向こうに置きっぱなしだ。帰って来てからずっとつけて無かったな。マキシムが戻ってきたら付けておかないと。
それから、見たことのない再放送のドラマをずっと見ていた。恋愛もの、ずっと男子と女子が話し続けている。今の時期に合わせているんだろう。
都合良く雪が降って、良い雰囲気になっている。
「あら、もう最終回ですのね」
湯気を立ち上らながらティルさんが隣に座って話しかけてくる。
「そうなんだ」
「マキシム様もこういう風に迫ってくれれば……はぁ」
今、丁度キスシーンに入った。主題歌が流れ始めズームアウトしている。そして、エピローグ流れ、ドラマは終わった。
「さて……」と、こちらを見ながら何かを言いかけて会話は無くなった。聞こえるのはテレビのCMの音。私も何かをするわけでもなく、じっとティルさんを見ていた。
「何か話すことはありません?」
「特に無い、よね」
「ですよね。ご飯でも作りましょうか。あっ」立ち上がると思いだしたかのように「マキシム様はどこにいきましたの?」と、聞いてくる。
「カシューさんの所」
「カシュー? あぁ、カシュー様の。そう」
凄く嫌そうに冷たく最後の言葉を言うと、台所の方へと向かって行った。
「何か食べたいもの……ごめんなさい。何か聞きたいことが会ったら言ってください」
「はい」
なんと言うか凄く違和感。気遣ってくれるし、優しい。多分、マキシムが居ないのもあるだけれど、初めて会った時は嫌な人だと思ってたけど、こんな人だったんだ。
「あの、ティルさん」
「はい、どうしましたか」
「マキシムといつ知り合ったの?」
「今年の5月になりますね、それまではカシュー様の部下でしたし」
5月、関係はある。
「部下って、どういうこと? 今のマキシムやショウとかとは違うの?」
「そう言えば知らないのですわね。8階生以上になると部下にする枠が出来ますの。その枠に共闘者、もしくは同じ天使を連れて行けるようになるのです。まあ色々と制約があるから連れている人は少ないですが。一つに今あなたの背負ってる50万Eもあります。他にもありますが、私は詳しくは知りません。確かに共闘者は便利ですがそれなりのデメリットはあると言うのは聞いております」
「カシューさんって何階生?」
「11階生、この天使ヒルズではトップクラスですよ」
11階、ここの最上階が13階だから本当に凄いんだ。
「マキシムは5月に305号に来たってことだよね?」
「そうですね、おかげで私は会うことができました。懐かしいです、初めて出会ったあの日、あの時を――」
そのまま完全に自分の世界に入ってしまった。うっとりしながらぼそぼそと何かを呟いている。
あんまり関係は無さそうだし、放っておこう。
おかげで、会う前のマキシムのことが少し分かった。そして、サチと何か関係がある。
もしも、私とサチが同じ幽霊になったのなら……いや、まさかね。そうだとしたら、あの時話しかけてくれてもいいはず。だって私とサチだよ、……そのはず。
特に何かするわけでもなく、適当にテレビを見ているとマンションのチャイムが鳴った。
「カシューさん、誰か来たよ」
「あら? マキシム様かしら」
一緒に入口まで行くと、予想通りマキシムが来ていた。
「待たせたな、アミ。ティルもすまなかったな迷惑を掛けて」
「いえいえ! このくらいいつでもお受けします。お気になさらずに」
ティルさんの言葉に合わせるように「そうか」と一礼、顔を上げるとこちらに視線が向いた。
「アミ、明日は少しだけ忙しいぞ」
「なんで?」
すると男の口からは予想していなかった重大な発表がされた。
「引っ越しだそうだ。603号室らしい」
「603号室?」
聞き間違いかと思って聞くけど男の口からは「603号室だ」と、ハッキリ言われた。隣に居たティルさんは放心状態だったのは言うまでもない。




