二日前
入院中。12月21日、二日前の出来事だ。
朝、それも日が昇り切っていない頃に知らない人たちが来た。
黒服の人が二人、それと老人。私のベッドの傍に来ると頭を下げて「本当に済まない事をした」と、謝ってきた。
「えっと、誰? 何のこと?」
「私の名前はバロウズ、天使ヒルズの責任者。大家と言えば分かるか」
自己紹介を終えると、理由を語り始めた。
「今回の原因は私の監督不行き届き、怖い目に合わせてすまなかった。少し話が長くなるが、どのようになったかを聞いてくれるだろうか。これからのことについての話もしておきたいのでね」
「お願い、します」
断る理由はない、私だって詳しく知りたいし、これからのことと言うは凄く気になる。
バロウズさんは小さく頷いて、話を続ける。
「まずは君がどうして研究所の方に連れて行かれたことだ。これは研究者たちが進めているカース研究が秘密裏に行われていたからだ。きっかけになったのはカースが倒した物からカースが現れたということからなのだが、その報告はマキシムくんの報告にあったから君も知っているか」
小さく返事をする、これはおばあさんのことだ。
「ここでは、地下の研究者たちにはある程度の権利を与えていた。それは研究になるべく推し進めれるように、君たち共闘者の同意があれば研究に協力することも一応可能と言うことにはなっていた」
「あれ? でも、私は研究所に行かないために共闘者になったはずなだけど? あっ、すいません」
確かにそうだったはず。おかしいと思って口を挟むと、ゆっくりと、丁寧に説明が始まった。
「そうだな、原則は出来ないようになっている。だが同意の元なら出来る。もちろん亜美さん、あなたが拒否すればする必要は無いはずだった。しかし今回、共闘者数名が無理やり連れて行かれた。その一人が亜美さんだった、と言うわけなのだ。理解、できたかな」
分かったことを表すように頭を縦に振った。
「亜美さん、あなたは少し特殊だということを知ってはいるか?」
「特殊?」
良い意味には全く聞こえなくて、語尾を上げて聞き返した。
「そう、カースを殺されたのに全くもって異常が無い。今の所、あなただけなのです。他の共闘者とは会ったことは?」
首を左右に振る。よくよく考えると一度も他の共闘者とは会ったことが無い。
「なら一度あって見ると良い、君から見れば狂人に見えるかもしれないが。それほどまでにカースを倒された人は危険な状態にある。それは任務を何度か受けているから分かるかもしれないがね」
そう言えば討伐任務で倒された幽霊はぐったりしていた気がする。それに、研究所に行った時のあの人たちは変だった。と言うことは他の共闘者ってあんな感じになっているってことなのかな。
「一つ聞きたいのだが、おばあさんはどのような状況だった分かるか?」
「普通に話は出来たような、すいません、正確には」
「そうか、済まないね、このことは私も知りたい所だったからね。では、これからのことについて話していきたい。君はここで何がしたい、一つだけ、出来ることなら聞き入れよう」
いきなり話が変わった。それと一緒に私の心臓が高鳴った。考えるよりも先に言葉は出ていた。
「サチ、サチについて教えてください」
「サチ、それはどういった方で?」
「甲本幸です。亡くなったけど、マキシムは知っていて、カシューさんも知っていて、だからここなら――」
自分でも気づかないくらいに早口になっていて「落ちつきなさい」と諭された。
「甲本幸という方に知りたい、ということでよろしいか?」と、要約して聞いてきた。
「はい」
「分かった、特徴を教えてくれるか?」
「私と同じ学生で、その……今年の5月に亡くなりました」
「なるほど。あなたはその甲本幸さんをどうしたい」
「知りたいんです、どうしてマキシムがサチのことを知ってたのか、どうなったのか。ただサチのことが」
「そう、分かった。じゃあ一つだけ、私の知っていることを教えてあげよう。私も甲本幸さんを知っている。細かいことは知らないが、その子の名前を聞くことはあったよ」
「な、なら教えてください!」
「私の今知る情報では大したことは述べられん。だが一つだけ。甲本幸さんは、カースだった。後はあなたの想像で」
サチはカース。って言うことは、どこかで、私と同じように生きている、ということ?
「いつになるか分からない、次に会う時はもう少し詳しいことを教えて差し上げよう。では――」
黒服たちと一緒に立ち去ろうとしている途中で、私は言葉を出していた。
「あの、サチに会うこと出来ますか」
多分、期待にも似た不安からだと思う。
「それは分からない。詳細は調べ直す必要がある、なるべく早くしておこう」
返答に変化はなかった。さっきも分からないって言ってたのに、これで機嫌を損ねたりしたらどうするつもりだったんだろう。
馬鹿だ、私は。
バロウズさんが出ていくと、静かになった。頭の中は、さっきの話でいっぱいだ。
もしかしたら、サチの手がかりが手元に来ている気がする。しかも、私と同じようになっているのかもしれない。そう思えるとたまらなく会いたい。
会いたい、会いたい……ダメだ。またアレが来そうな気がする。怖い、黒い何かが覆うような、背中が寒くなるような感覚。寒く感じることはないけど、体は少し震えた。
今は気にせず待とう、じゃないとまたあんなことになるかもしれない。
同じ部屋で入院している3人。この人たちは私のせいでこうなっている。なのに、退院した時に謝りに行ったけど誰も私のことは咎めなかった。それどころか『気にしてない』『未熟なこっちが悪い』『お前は悪くないよ』と、軽く笑いながら言った。
変に気を使わせたくなかっただけかもしれないけど、その声、表情には全く嫌な感じはなくて、私も少し救われた感覚があった。
でも、もう迷惑はかけられない、どれだけかかっても安全に、確実に……。今の私に出来るのは待つこと、焦ってはいけないんだ。




