うろうろと、どこかへ
結構時間はたったと思う。正直分からない。だってずっと暗いから、何時か分からない。その間に3人、斬った。多分死んではないと、この体も殺すつもりはないのだと思う。
襲ってくる人たちはカシューさんに勝るとも劣らず、とても強かった。さすがに私も無傷では済んでいない。腹の辺りと左の脇の辺りにそれぞれ一か所刺された。どちらも何かの刃物で、確認はしていないけど刺された、痛みもある、激痛と言うほどではないけど。そう言えばショウと一緒に戦った時の2段階のカースも痛くて叫んでいた気がする。
このくらいの痛み、大したことないじゃん。
殺すつもりのあることが分かった。そして、邪魔をする人には襲いかかるようだ。
なんて単純な思考なんだろう。もしかしたらもっと他の事があるかもしれないけど今の私にはこれくらいしか分からない。
カースは私の意思。多分そんな物だと思う。だって今は思うように体は動かせる。殺して、本当のことを知ろうという気持ちは私の意思なんだ。納得すればするほど体になじんでいるのが分かる。
今は自分で動かしているんだ。だけど、どこを歩いているんだろう。何でもいいや。
「アミちゃん、また会ったね」
「また天使、邪魔。あなたは」
声の方を向くと見覚えのある女性。
「着替えたの? でも、ちょっとワイルドだね」
女性は何事もないように普通に話しかけてくる。けど私は答えることはなかった。すでに頭の中は一つの目的でいっぱいだから。
手に持っている剣を構え、全力で切りかかった。素早く刺すように突きを繰り出したが、体を反らして軽くかわされた。そこから縦横無尽にに斬りかかるが当らない。
この人は強い、さっきまで戦った人たちとは違う。軽くあしらわれている。
けど、以前とどうも調子が違う。今回は攻撃するような気配はない、ただ避けているだけで、手には何一つ武器を持たれていないことに気がついた。前に使っていた鞭は腰に付けられたまま手を付ける様子はない。
「ねえ、声は聞こえてる? 聞こえるなら返事をしてほしいのだけれど」
涼しい顔をしながら問いかけが聞こえる。そんなことは出来ない、絶えず斬る動作を止めることはなかった。
「返事は無理か、じゃあ甲本さ――」
サチの名字が聞こえた、聞き間違いじゃない。知っている。
目の前のカシューさんも少し様子が変わった。小さく「逆効果?」という声を漏らしながら避ける動作が大きくなって避けるのが必死になっているように視える。
「ちょっと、聞いてるでしょ! 手を、休めて。聞きたい、でしょ!」
さっきと違って、途切れ途切れで声を出して聞いてくる。だけどそれは逆効果だ。さっきの話を聞いて私の思考はこのように固まっている。
殺してでも、聞いてやる、と。
口も「教えろ」と、小さく呟きを繰り返している。
そんな私をカシューさんは嬉しそうに唇を三日月にして、満月に形を変えて声が響いた。
「3番!」
突然叫んだ番号、一緒に遠くで竹が割れるような乾いた音響いた。それは徐々に大きくなって私の体を突き抜きぬけていったのが分かった。分かっただけで何かは分からない。
私の左肩の辺りに何かが当って、体は大きく後ろに反れ、なんだか分からない痛みが襲った。 それが怖い、何か分からないけど、危険な物が音の向こうにある。
逃げようと上へと跳ぼうとすると大きな紐のようなものが体に巻きつき、両手両足が動かせず地面が近づいてくる。
「3番! 頭!」
返事をするように再び乾いた音が近づいてくる。それに合わせて黒い物が視界を覆った。
この黒いのは剣だ。剣が幾重にもなって襲ってくる何かを防ごうとしている。それでも迫ってくる恐ろしい音は近づいて来て、何事もなかったかのように剣の丁度真ん中に丸い穴が空いた。同時に映像が所々色が付いた。
そこで自分がいた場所が分かった。私は戻ってきていた。元の横断歩道の所に、結構歩いていた気がするのに、ずっとここら辺をグルグルしていただけだったんだ。
体には、まだカシューさんの鞭がまとわりついていて、見動きは取れない。私の体はまだ宙を舞っている。
「もう一発!」
綺麗な鋭い声が響いて、寸分の狂いなく綺麗な円に何かが通り過ぎた。2回目でその視界は綺麗な色のついた空を見せる。色は紫色に近く、うっすらと周りを照らしている。明け方なのか、暗くなり始めているのか。どっちか分からないけど薄暗い、そんな空が広がっていた。
同時に私の頭を何が通り過ぎたのか、完全じゃないけど理解した。道路真ん中に誰かが一人立っている。
手には大きな銃。マキシムの持っている物より何倍も大きい、持っている人と同じくらいの大きさのそれを背負いこちらに歩いて来ているのが見えた。服装は全身が地味なローブで覆われていて誰かなのか分からない。
誰かを確認したかったけど体は着地して、視線は上へと向いた。
落ちても痛くなかった。体はカシューさんに首の辺りと腰の辺りに手を添える形で支えられていて、体中を巻いていた鞭は外れている。力が入らなくて、ずっと上しか見ることしかできなくて、その視界から覗きこむように女性の顔が現れた。
「大丈夫? 自分が分かるかな」
カシューさんの優しい声。表情は優しくて、心配するように語尾が上がっていた。私は声を出すことが上手く出来なかった。何とか自分の名前「アミ」と一言で答えるのがやっとだった。
「よろしい、じゃあゆっくり寝てていいよ」
「はい」
もう限界、銃を持っていた人が誰か気になるけど、爽快感と倦怠感が同時に襲ってきて、それが眠気のように考えることを放棄させてくれる。
おやすみ。




