私の物はここに
よく知った道を通り、迷うことなく目的の場所へと着いた。死んでからは2回目、その入口の扉は以前よりもハードルが高く感じる。
以前と何も変わらない、私の家だ。
今の私には一つだけ道具が増えた。この破れた白い布。さっきの戦いの時に残されたそれだ。何かに使えるかもと持ってきてみた。時間は空を見る限り3時くらい、まだまだ親は帰ってくる時間じゃないのは分かる。
入口は車が無いことから今日は平日、両親ともに仕事中だと見てとれる。
最初の障害、当然ながら入口に鍵が掛っていた。
まあ、ここは大丈夫。いつもの通りポストの中に入ってるっと。何なく中へと入ることに成功した。そこから2階の私の部屋へと向かった。誰も居ないのは分かっているけど罪悪感からか、ゆっくりと2階の部屋へと到着した。
中に入ると少しだけ変わっていた。なんと言うかすっきりしている。小物とか家具の配置は変わっていないけど、凄く綺麗に整理掃除されているような、そんな感じがした。
匂いは懐かしい感じ、こういう所は変わってない。懐かしく感じて、本当に懐かしくて、あいた――
ダメだ、会っちゃだめだんだよ。会ったら、絶対に死にたくなくなるじゃん。今は忘れるんだ、目的は会うことじゃないだ。
クローゼットの中を開くと何一つ変わりなく服は綺麗に畳まれていた。除湿剤独特の臭さが鼻に着く。
正直、この匂いはあまり好きじゃない。まあしょうがないよね。
いくつか服を出していく。
さて、どれにしようかな。時間はあまりないし早めに決めないと。早めに。そうしないといけなかったのに。
最初の数分はちゃんと気には留めていたよ、だけど、気づけばそんなのどこかへ行ってしまった。
思い出したのは、扉が開く音がしてからだった。
私の両親、父は遅いが母はパートなので帰ってくるの早かった。大体4時くらい。私が居なくなってからもそれは変わっていなかったようで、部屋の向こうで扉が閉まる音が聞こえる。
その甲斐あって、服選びも終わった。上は黒パーカー、下は白のショートパンツ。あとは黒のストッキングをはいて今の時期でも違和感のないようにはなったと思う。でも、それまでの間、鼻歌を歌いながら色々と服を試していた私を、今は凄く殴ってやりたい。
この部屋の出口は二つ、さっき入った扉と一つだけある窓。逃げるなら窓からだろう。逃げるだけなら簡単。その前に、やらなくちゃいけない事がある。それはここに来てなかったことにすることで、だからこそ今、必死に服をたたんでいるのだ。
「お父さん、いるの?」
扉の向こう、声からしてまだ下だとと思う。お母さんの声だ。
お父さんがいると勘違いしているのが分かった。その足音はまっすぐとこっちに向かっているのも分かった。
階段の軋む音が徐々に徐々にと近付いている。
今の問題は外の母さんじゃない、私の部屋だ。脱ぎ散らかしている服という、この状況からしてどんな解釈されるか分からない。
でも、もう近くまで来てる。
もう無理だ、確実に誰かが入ったことはばれるけど、しょうが無い。最悪空き巣だ、私とは思われないはず。
着ていた制服と、持ってきた白い布を手に持って窓を開けた。
続けて少し遅れて後ろのドアノブが動く音がした。
それを私は異常なほどはっきりと、ゆっくりと。まるでカシューさんと戦った時のようで、その音が何かを理解した。その上で、私は振り向いてしまった。見なければいいのに。
お母さんの目がしっかりとこっちを見て、まるく、大きくさせているのが忘れられないほどはっきりと視えた。その口が何かを言いかけているようで、それが言っちゃいけないことと思って、私は手に持っていた物を投げつけた。
そして、窓枠に足をかけて、遠くへと跳んだ。無我夢中に。
私の体は幽霊の時と似たようなもので、その時と同じように思う通りの高さを飛ぶことができるようになっていた。考えずに飛んだので着陸がうまくできなくて、途中で家の屋根に不恰好に着地した。
いや、着地なんて出来ていない。足が着くと同時に転げて、そのまま地面に落ちた。そこから、無茶苦茶に立ちあがり、さらに跳んで、跳んで。最終的に途中にあった公園で休憩することにした。
砂場と遊具がいくつかある公園。最近は行くことはなかったその場所のカラフルな土管の中に入って休憩。
公園なのに誰も居なくて、だからこそここに留まることにした。外はだいぶ暗い、だから子供すらいないんだと思う。
落ちつくとポケットに何かが入っていることに気がついた。家の鍵だ。あの時、持って帰ってたんだ。だからお父さんと勘違いして。
他には何も無い。白い布も、学生服も、あの時に投げてしまった。夢とは思ってくれるだろうか。でも、学生服があそこにあるし、何にしてもただ事では済まないような気がする。
あぁ、なんて馬鹿なことをしたんだろう。
お母さんは元気だった。本当に元気かは分からないけど以前と変わらない姿だった。そのせいで余計に死にたくなくなった。あのまま普通に話してもよかったんじゃないか、そう思えてならない。
今の私なら普通に接することだって可能だ。会って、話して、いつものように過ごして、学校だって。そうして、いつも通り、いつも通りだ。
無理だ、そんなの私は死んでるから、無理。
残酷だ、こんなの。くやしいなぁ、ほんのちょっと違うだけ、ほとんど一緒のようになったのに。でも、「生きかえっちゃった」なんて、そんなの出来ない。
それに、幽霊になったってすることはあるんだ。終わりじゃない、サチのことを知ることだって出来るかもしれないんだ。
だから、サチのために、やらないと――
暗い周りが、さらに黒く染まった気がした。




