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カース ~親友と天使と化物と~  作者: 世良
4話 カース
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思わぬままに

 地面から私の身長よりも軽く上へと飛んでいた。身長の倍くらい、大体3メートル。見えるのはアスファルトの道路とカシューと言う女性の姿。

 私は体を動かせなかった。それは空中にあるからというわけではなく、すでに私では無くなっていたから。

 見える映像はまたあの感じ。黒い何かを通して、徐々に迫ってくる道路が映った。

 

 映像は地面に着く直後に止まり、道路が目の前に広がるように移り変わった。

「やっぱり、戦わないといけないのね。邪魔ものは倒すって感じ?」

 声と共に視界に入ったのはさっきの女性、手に持っている鞭を生き物のようにうねらしながら再び襲ってくる。

 さっきと違った。鞭の動きは遅く見える。正確にはすべてがゆっくりと、そして、はっきりとその動きを捉えていた。

 すり抜けるように鞭の間を走り抜け、女性の近くまで行く。私の手には黒い剣が、以前と同じ、いつの間にか持たれていたことが分かった。

 その剣が届く間合いに入った直後、私の体は動くのを止めた。一瞬だったけどその理由は分かった。女性の手には拳銃が握られていたからだ。

 映像が大きく動く、同時に2、3回ほどの轟音が聞こえた。

 見える映像はものすごい勢いで縦に一周して女性を見下ろしながら下へと降りていった。地面に着くと、剣を女性へと構え直した。

「さすがに強い、勝てるか、負けるか。どうしたものか――」

 残念そうに言いながら拳銃を下ろしているのが見えた。そんな言葉を遮るように、剣は振られていた。だが、その跡には女性の姿はいない。代わりに小さな拳銃が綺麗に二つに割れていた。マキシムが持っているのよりもだいぶ小さく、簡素なつくりの銃が落ちている。

 見えなくなった女性は左に居た、本当にすぐ傍に。私の目はそれを捉えていたけど、その映像からは手遅れだったことが分かった。

 目の前に刃物が迫ってきている。眼前へと来ているそれ、それから守るように黒い何かが目の前に来た。それもまた刃物だった。

 手に持っていた剣が肩から生えて刃物同士が重なり、動きを止め、ナイフのようなものを上へと弾き飛ばした。

 カシューさんも予想外だったのか、かわいらしい叫び声を一瞬上げて退いていた。でも、その表情は怯えて無くて、むしろ楽しそうに頬を緩ませていた。その女性の右手は肩の辺りを握っているのが見える。

「これは本気で逃げないと、迎えもせっかく来たんだし」

 服にしわができるほどにしっかりと握るのが分かると同時に目の前は真っ暗に切り替わった。

 私には何が起こっているのか分からなかった。少し焦ったけど体は冷静に対処したのか、1秒もしないうちに道路が映りだした。足元には白い布きれが虫の羽みたいに二つに割れているのが見える。あれが私の顔に被さっていた、と言うことが分かった。

 見回すと遠くに女性の後ろ姿が見えた。いつからあったか分からない黒塗りの車の上に跳び乗って、こちらを見ながら遠くへと行ってしまった。

 

 私の体は追いかけることはなく、いつもの綺麗な映像が戻っていた。

 

 

 それから数分経ったけど、誰もくることはなかった。私自身どうして戻れたのか分からない。カシューさんの姿が見えなくなると気分がすぐに落ちついた。そのまま追いかけて、殺しにいってもおかしくなかったのに。

 見えなくなると本当に何事もなかったかのようにスッと軽くなった。

 体を触って見るけど異常はない。元の私だ。今思うと恐ろしい、いつの間にか私もあの人を殺そうとしていた。何をやっているんだろう、カースに思い通りに体を使われて、本当に戻りたいならあの状態を制して、負けないといけないのに。

「はぁ……どうしよ」

 ため息と共に自問自答するように声が漏れてしまう。

 このままあの人か、もしくは他の人が来るのを待つべきなのか、それとも適当に動いて他の天使を探すべきなのか。正直、何をしていいか分からない。

 殺されるのを待つ、なんて変な感じ。殺されたら、私はまた幽霊? そしたらまた天使ヒルズに戻れるのかな。あぁ、そう言えばマキシムを刺してるんだよね、それにショウやティルさんにも迷惑かけたし……なんか戻るのが嫌になってきた。逃げたい。

 いきなり心臓が飛び跳ねそうな大きな音が響いた。さっきまでの陰鬱な思考が吹っ飛び、今は驚きしかない。見ると車が、男性がこちらを見ながら「邪魔だ! 何やってんだ!」と怒声を飛ばしている。

 早足に軽く頭を下げながら道路の脇へと向かうと何事もなかったように車は過ぎ去って行った。

 そう言えば見えるんだ、私。

 幽霊だったはずなのに、今はカースのせいか見える。これってある意味生き返ってるって感じなのかな。こう考えると幽霊から2段階になっている人って死にたくないのかな? 

 再び体を触っているともうひとつ変化に気がついた。服に触ることができる、つまりそれは……着替えることが、出来る。

 その時、私の気持ちは一気に最高潮。

 今までは学生服で、正直凄く嫌だった。動きまわることが多いのにスカートだったからパンツが見えそうで嫌だった。他の人には見えないとは言っても天使ヒルズの人やカースには見えていたし気にはなってたんだよね。だけど着替えられないし……着替え?

 ここで私は気がついた。服は?

 ポケットの中を見るけど財布なんて入っていない。持ってきている物は相変わらず何もなし。

 一気に気分は下がった。こんな、こんな絶好の機会に何も出来ないなんて、私の服がある場所なんてどこにあるって、あそこしかないよね……

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