気づけば横断歩道
私は横断歩道の上に立っていた。
ここに来るまでの過程を覚えていないわけじゃない。
あのカースを見た直後、目の前は薄い黒い膜に覆われ、右手には剣のような物を握っていた。私は躊躇い無くそれで壁を切り裂いた。
何もなかった壁からさらに部屋が現れた。それはさっきの部屋とは違っていろんなものが置いてあった。何かまでは分からなかったけど機械。テレビのようなものもいくつもあって、何かの映像が映っているのが分かるけど何かまでは分からなかった。
その大量のテレビの前には人がいっぱいいた。黒い膜のせいではっきりと色は分からないけど白衣のような気がする。見覚えのある感じ、地下の研究所の人がこんな服装をしていた気がする。
その人たちはこちらを身構えながら一定の距離を取っている。私が一歩出すたびに囲むように離れていく。
怖がっている、私のことを。でも都合が良いや。
私を止める気配はない。見回していくと扉が見えた。その前まで歩くと件で切り裂き、さらに奥へと進んだ。奥はまたごちゃごちゃした部屋だった。今度は自分の2倍くらいの大きさがある筒のようなものが並べられていた。そこにも白衣らしき者がうじゃうじゃいたけど何もしてこない。
そのまま奥の扉へと進んで行った。そこから2、3くらい同じような部屋が続いた。扉は全部真っ正面にあったわけじゃなかった。右へ、左へ、正面へ、扉を切り裂きある部屋へと出てきた。
見覚えのある部屋、正面には公園が見えた。前にも見たあの公園。ここでどこかがはっきりした。そこからはまた同じように扉を破壊しながら進んだ。そうしてエレベーターへとたどり着いた。だけどそこで初めて障害が発生した。
エレベーターから3人ほど出てきた。見たことのない男3人。それぞれ武器、槍、剣、斧をこちらに構えている。
待つ間もなく、すぐにそれらが襲ってきた。
彼らは早かった、完全に出遅れ、間に合わないと思ったけどそれらを避けていた。そこで初めて私が私の意思で体を動かしていないことに気がついた。
3人の間を通り抜け、その間にエレベーターへと入っていた。だけど襲ってくる彼らはそれを許すはずもなく、一瞬、男たちへ視線が映ると斧を飛ばそうとしてくるのが見える。
私の視線が上へと向いた。
いつの間にか持っていた剣が刺ささっていた。こじ開けるように剣を回し、上に丸い空洞ができた。直後、映像が一気に動き始めた。
多分穴を通って上へと跳んだのだと思う。どのくらい飛んでいるのか分からないけど数秒間、管のようなものと、一定間隔で扉のようなものが見える。
そして、何個目の扉か分からないけど上への移動が止まり、扉は斜めに開かれた。
出るとそこは3階だった。何度も見たことのある場所、間違いない。
勝手に足は進み、303号室で止まった。また扉が斜めに開かれた。そのまま中へと入るとあの男が来た。だけどいつもと様子が違う。
「アミ!」
私の名前を叫んだが、何かをするわけでもなくゆっくりと下がって行く。分かっている、すでに私がどうなのか、さらに、私がどうしたいのかも。
あっ、と言う間に男の顔は目の前にまで来てた。男の顔は苦しいのか、激しく歪んでいるのが分かる。
「何してるの!」
後ろから女性の声がした。振り向くとそこにはティルさんの姿だった。手には武器と思われる剣が持たれていた。
その刃が私を切りつけようとしたが、私の剣でそれを防いだ。相変わらずの黒い膜ではっきりとは見えなかったけど、私の剣には何かが付いていた。液体のようなものが。
私とティルさんは剣を交えたが、そのまま押されて背中に壁をぶつけた。
同時に何かが横から襲って来た。私は何が起こったか分からなかったけど体は動いていた。剣は左に構えられ、その刃には別の刃が付いている。その先を見ると槍、持たれているのはショウだった。
このままだとこの場の全員殺してしまう。そんなのは、違う。
そんな思考が頭をよぎった。体はショウの槍を弾き、そのまま横を通り過ぎた。通路の先のガラス窓を破り、外へと脱出した。
体はそれからも勝手に動いていて、視界の黒い膜が消えたと同時に居た場所は横断歩道だった。ある意味、思い出の場所、すべての始まりでもある。
私はすでに2段階のカースだ。あの男だって普段は普通の人そのものだった。だから私もその状態なんだと思う。落ち着いたのは、あの男を刺したせいだろうか。
そう言えば、大丈夫かな。死んでないと良いけど。
思わずため息をして、落ちつかせていると自分の異変に気がついた。
自分の吐く息が白い。確認するように自分の手に吹きかけるとほのかに温かさを感じることに気がついた。
感覚が、戻っている。というか体がある?!
足元見ると自分の影があった。陽のあたり方のせいか、少し平べったい黒のシルエットが横断歩道を染めていた。確認するようにアスファルトに触れると冷たさを感じる。けど、寒いとは感じなかった。
今の時期、こんな服装だと普通寒いはずなのに。けど触ると冷たさや温かさを感じるけど刺さるような冷たさはなかった。
何だかわからないけど、今、私はとても便利な体を得たと言うこと?
何にしてもラッキー、もしも寒さまで体感できたら凍えるだろうなぁ、12月だし。さすがにこの時期だとストッキングくらいは履かないと、ねぇ。
でも、これだと他の人にも見えるってことだよね。それってまずくない? 私はもう死んでるし、でも、どうせなら一度でいいから父さんや母さんに会っておきたい気も……
「どうしたの? こんなところで」
いきなり女の声が聞こえた。考え事をしていたせいか、全然気づかなかった。声の方も向くと女性が立っていた。一目見たら分かった。明らかに普通じゃない。多分、この人が私を殺しに来てくれた人だと思う。
「何、おばさん」
わざとおばさんと言った。実際は肩にかかるほどの長さの黒髪はつやがあって綺麗だし、顔立ちも人形みたいに一つ一つの顔のパーツに違和感が無いくらいに整っている。表情はキチっとしていて大人びているけど老けているわけでもなく、同性でもうらやましいくらいだし、お姉さんと言うのが妥当なほど若く見えた。
だからと言って初めて会った人にそんな言葉をかける必要はない。そうすれば、躊躇い無く私を仕留めてくれるだろう、そう思って私は言った。
だけど、そんな私の意に反して女性は何事もなかったかのように自己紹介を始め出した。
「私はカシュー・マシュー、よろしくね。お話は出来る? アミちゃん」
「……はい。あんた天使でしょ。やらないの」
「うーん、出来ればやりたくはないんだけど。今は落ちついているようね、さてどうしましょうか。どうしよ?」
「どうしよって」
そんなの私がどうこう出来ることなの? カシューってどっかで聞いた事があるような気がするけど。どこでだっけ?
「じわじわ痛いのと、一瞬痛いの。どっちが良い」
いきなりそんな質問をしてくる。言っている意味は分からないけど、じわじわよりは一瞬の方がいいと思ってそちらを答えた。
答えを聞き終えるといつの間にか女性の右手には鞭のようなものが持たれていた。あっ、と言う間にその鞭は姿を替えた。はっきりと見えなかった。ただそれは蛇のようにうねり、私に目がけて襲ってきた。
気づけば私は空を飛んでいた。言われた通り、一瞬痛かった。




