遭難して漂着
自分が起きた時、周りは砂浜だった。
着ている服は、わずかに湿っていて、生ぬるい風が砂浜を通り抜けている。
立ち上がって後ろを見ると、海が広がっていて、向こうのほうに大きな船が座礁しているのが見えた。
「…流れ着いたのか」
どうしてここにいるのかを、あまりよく覚えていないが、周りに誰か流れ着いていないかを確認するために、歩き出した。
「おーい、誰かいないかー!」
自分は、叫びながら歩いた。
誰かいないかと思ったが、1日探しても、誰1人見つからない。
そして、最初に自分が起きた砂浜に、帰ってきた。
遠くに見えていたあの船は、もう半分以上が海の中に、沈んでいた。
木が生い茂っている島だが、生き物の類は、見つからなかった。
その時、後ろの茂みがガサガサ音を立てて、揺れはじめた。
なにが来るのかと、身構えたが、数人の子供と、保護者であろう女性と男性が1人づつ出てきた。
「ああよかった。やっと人を見つけた」
安堵のため息をついて、彼女たちは自分に近付いた。
「あなたたちは誰ですか」
自分は警戒しながら、聞いた。
「あの船から、運よく逃げられた者です。実は、近所の子供と旅行に出ているのですが、船が見ての通り沈んでしまったのです。救難ボートに乗り込んで、他の人たちと、この島へ逃げてきたんですが…」
「他の人たちは、どこかに行ってしまって。ここにいる者たちだけが残ったんです」
自分の記憶は、かなりあやふやで、部分的にはなくなっていたりしている。
そんな状況では、選択肢は二つに一つ。
「そうですか、それは大変でしたね。自分も、あの船から逃げてきたんですよ。といっても、気付いたらここに流れ着いていたんですけどね」
「そうだったんですか」
彼らを、自分は信頼することにした。
別に分かれてもいいんだが、別れたとしても、自分は誰かと一緒にいたがるだろう。
だとすれば、ここで一緒に過ごしていた方が、助かる確率もあがるだろうから、一応は信頼した。
自分は、そんな彼らと、海岸沿いに家を造り、流れてきたものを利用して暮らしやすくしたりした。
自分と一緒に何人かで、森の中に食料を探しに行ったり、海へ漁へ行ったりした。
そうやって、助けを待った。
自分たち独自にカレンダーを作って、お祭りの日を決めて、学校を造ったりした。
いつの日にか、自分たちを助けに来てくれるだろうと、そう信じていたが、1年が過ぎ、2年が過ぎと、年月は一気に過ぎ去っていった。
「5年目だね」
「ああ、そうだな」
木で作った舟で、釣りをしながら言った。
「12歳の子が最年長だったが、今となっては17歳だ。怪我をしたりした子もいたが、幸いにも、命にかかわるようなものはなかった。全員が元気に生きていることだけが、今や奇跡ともいえるだろうな」
「そうかも。最初は自分がだれかって言うことすら分からなかったけども、今では、みんなと仲良くしながら記憶も戻ってきた」
服は、木の繊維を梳いて作った。
つりざおは竹、釣針は加工をした針金、釣り糸は竹の繊維を固めたもの。
そんな感じで、自分たちは漁をし続けていた。
助けについては、もうあきらめていた。
だから、ここで定住することを念頭に、設計をやり直した。
さらに3日ぐらい経つと、近くでヘリコプターの音が聞こえてきた。
「…ヘリか」
自分は寝ていた家から出て、砂浜へ出た。
濃い緑色の迷彩を施したヘリが、こちらに向かって飛んできていた。
「おーい!」
自分は常に用意していた、白い旗を振りながら、そのヘリに自分がここにいることを示した。
ヘリはそれに気づいたようで、こっちに来た。
「どうした」
音に気づいた人たちが、順次自分に聞いてくる。
「ヘリが来たんだ!」
「おーい!」
皆で声を張り上げ、旗を振り上げながらヘリを誘導した。
しかし、ヘリはグラっと右に揺れたと思うと、そのまま墜ちてしまう。
「なっ」
衝撃波が自分たちが居るところまで響いてきた。
「…これで、また数年はココみたいだな」
自分たちは、肩を落とした。
すでに定住する気でいたから、それでもいいと、自分は思い始めていた。