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勇者被害者の会が結成されました

作者: シラ猫
掲載日:2026/10/12

 ミーティア王国は豊かな国だ。


 財政が潤っているだけではなく、市場は活気に満ち、人々は飢えとは無縁の暮らしをしていた。他国から移住してくる者はいても、逆に国を出ていく者はほとんどいない。稀にあるとすれば、犯罪を犯して国を追われた者くらいだろう。


 国王アレキサンダーⅧ世は圧政を強いることなく、民を大切にしている。特に、世界のために身を粉にして戦う勇者を熱心に支持していた。


 そのため、国民には勇者の行動を邪魔しないようにと指示を出していた。


 王国では、軍務、内政、財務などの各部門が国民の生活を支えている。軍務は魔物や隣国の脅威から国を守り、内政は治安や法律を維持する。財務は国の予算を管理し、商業や交易を支えていた。


 各部門の責任者は、国民の代表者とも定期的に意見交換を行っている。国の方針を伝える一方で、民からの苦情や要望を聞くためである。


 この日も、会議室には各部門の責任者と民の代表者が集まっていた。


 顎髭を蓄え、茶色のロングベストを着た精悍な中年男性は不機嫌そうに話を聞いている。その向かいでは、丸い眼鏡をかけた茶髪の男が、悔しさをこらえるように歯を食いしばっていた。


 円卓を囲む他の責任者たちは、気まずそうに目をそらしたり、俯いたりしている。


 沈黙を破ったのは、議長を務めていた宰相だった。


「――というわけで、国としては勇者様の行動を不問にすることにしました」


 商業ギルドのトップであるファーガスは、両手を机に叩きつけて勢いよく立ち上がった。


「ちょっと待ってください! 勇者の行動によって民が被害を受けているのですよ。民を守るために、国が動いてくれないのですか!」


「しつこいぞ! もはや決定が覆されることはない。そんなことも分からんのか、ファーガス」


 我慢の限界に達した軍務官のトップ、マルグイット・グスマンも椅子から立ち上がった。


「グスマン様……」


「そもそも、被害と言っても大した額ではないだろう。いいかね、街を警備している兵士の人員や予算は無尽蔵ではないのだよ。君の言うように取り締まりを強化するにしても、まず予算を捻出せねばならん。その予算と君たちの被害額を比べるまでもないだろう」


「だからって、勇者を放置するなんてあんまりです! 彼は勝手に家に侵入して壺を割ったり、タンスを漁ったりするんですよ!」


「そこはそれ、商業ギルドが運営している保険というもので賄えばいいのではないか?」


「そんな無茶がありますか! 保険にだって元手は必要です! 何より、保険とは加入者のためにあるものです。保険料だって安くはありませんし、お金がなければ保険に入ることすらできません。今回の被害は国の怠慢が原因なのですから、補償はそちらで負担するべきだと思いますが、いかがでしょうか?」


「それは言いがかりというものだよ。先ほども言った通り、国民に何かするにも予算がかかる。そこまでして君たちに金を払わなければならないほど、国に貢献しているのかね?」


「税を支払って貢献しているじゃないですか!」


「ああ、平民にしてはそれなりにな。だが、それ以外に国が一目置くほどの貢献はないだろう?」


「……そりゃ商業ギルドは商売をするだけですから。戦闘などと違って、目立った功績はないですけど……。ですが!」


 グスマンは両手を叩き、ファーガスの言葉を遮った。


 そして、皆の注目を集めるかのように、コホンと咳払いをする。


「では言わせてもらおう。我々軍務の貢献はとても分かりやすい。日々の過酷な訓練に、犯罪者の検挙! 近隣の魔物の討伐! 隣国からの密偵の逮捕や国境の警備! 国を守るために、これほど貢献しているのだよ。一方の商業ギルドは小金を稼ぐだけだ。はっきり言って、平民の仕事など誰にでもできるだろう」


 ファーガスも、さすがにこの発言は聞き逃せなかった。


「ちょっと言葉が強すぎませんか! 確かに貴族様と違って、我々には学のない者もおります。もしかすると貴族様ならできる仕事なのかもしれません。でも、我々だって国のために働いているんです。そんな言い方は民への侮辱です。撤回を求めます!」


「なるほど、これは失言だったな。詫びておこう。だが、商業ギルドはずっと同じような手法で金を稼いでいるだけではないか? 我々軍務は常に新たな脅威を想定し、職務を全うしている。君たちだって考える頭があるなら、できることではないか?」


「それは……そうですけど、でも、すぐにそんなこと……」


「ふん、答えられんか。何とかしてやらんこともないが、こちらにも都合がある。何より、最初に言った通り、もう決まってしまったことなのだ。すぐに泣きついたりせず、ちゃんと問題を直視せよ!」


 ファーガスからの苦情をグスマンが一蹴すると、静まり返った会議室に場違いな拍手が響いた。


 拍手の主が立ち上がる。


「いやあ、さすがですね。ええ、私もグスマン殿の意見に賛成ですな。市場にも私を満足させられる食事処を用意できるなら、貴方の言う被害額を私財で支払ってもいいのですよ」


 肥満体形の男がグスマンに追従する。


 内政官である彼は食道楽で、金に物を言わせて近隣諸国から食材を輸入し、豪華な食事を取ることを趣味にしている。


「ビスタ様まで……そんな……」


 ファーガスが言い返せずにいると、会議終了の合図とばかりにグスマンが部屋から出ていった。


 それにつられるように、他の責任者たちも立ち上がり、ぞろぞろと会議室を出ていく。


 一人ポツンと残されたファーガスは、悔しさのあまり机を叩いた。


 ◇◇◇


 日が沈み、闇に包まれた夜。


 商業ギルドの応接室には明かりが灯り、窓から漏れる光が外を照らしていた。


 彫刻が施された木製のテーブルには、真っ白なテーブルクロスが掛けられている。その周りには一人掛けのソファーが二脚と、二人掛けのソファーが一脚置かれていた。


 テーブルの上には、会議の議事録が書かれた羊皮紙が広げられている。


「……という事情で、勇者に対して国が何かをすることはありません」


 ファーガスは力不足を詫びるように頭を下げた。


「そうですか……。でもでも、ファーガスさんが謝ることじゃないですよ。お貴族様が悪いんです」


 優雅に淹れたてのお茶を飲んでいた服飾店の代表、シオンがファーガスを気の毒そうに見つめる。


 艶のある水色の髪をポニーテールにしたシオンは、持っていたティーカップをテーブルに静かに置いた。


「いや、ファーガス先輩はお貴族様との会議に民の代表として出たんだろ? こっちの主張は一切認めてもらってないんだからよう。俺っちとしては、謝るのは間違ってないと思うぜ」


 ファーガスの斜向かいに座るマレーナが首を振る。


 彼女は港を行き交う商船の運航や売買を管理している。白く長い巻き毛の毛先を弄りながら、仏頂面で足を組んでいた。


 男のような口調で喋るが、見た目通り女性である。


 言葉に怒りを交えてはいないものの、イライラを隠せずに貧乏ゆすりをしていた。


「マ、マレーナちゃん!?」


「シオンはちょっと落ち着け! ワシも兄貴に謝られたところで、事態が改善するわけではないのは分かっておる。さて、どうするか……」


 二人掛けのソファーに一人でどっかりと座り、目を瞑って腕を組んでいた大柄な男が口を開いた。


 鍛え上げられた身体に、顔には大きな傷跡がある。かなり威圧感のある強面の男だが、落ち込んでいるファーガスを見つめる表情には、彼を気遣う様子があった。


 ファーガスを慕う自称弟分である。


 鍛冶屋の代表である男の名はグリフィス。


 シオン、マレーナ、グリフィスはこの町で生まれ育った幼馴染で、ファーガスは一つ年上の先輩だ。四人とも、この街で暮らす民を守るために日々頑張って働いている。


「グリフィス君までそんな悲しいこと言わないでください。ファーガスさんだって頑張ったじゃないですか」


「くうぅぅぅ……本当に力不足ですいません……」


 意気揚々と会議に挑んだものの、結果は芳しくなかった。ファーガスは終始元気がない。


「ファーガスさん、お気を落とさずに。ほら、今日のために用意したクッキーを食べてください。美味しいですよ」


 側に控えていたシオン付きのメイドが、クッキーの盛り付けられた陶器の皿をテーブルに置いた。


 待ってましたと言わんばかりに、マレーナが最初に手を伸ばして一口食べる。


「おっ、うまいじゃん。さすがシオンが用意しただけあるな」


 かなり美味しかったのか、マレーナは二枚目にも手を伸ばした。


「何にしても補償がないのはキツイな。じゃあ、これからどうするかを考えねえとな」


「うむ、そうだな。それにしても勇者というのは武器を扱うのは上手いが、倫理観がないわい。普通、人の家に勝手に入って物を盗むか?」


「普通の人間は魔王に挑まねえからな。普通のうちらとは考え方が違うんじゃねえの?」


「うーむ。そうだとしても、民を守るのが勇者の役目だとワシは思うがのう。空の樽にへそくりを隠していた知り合いが、樽を壊されたうえに金までなくなっていたと嘆いておったわ」


「わ、わたくしも勇者に下着を取られましたわ。返して欲しいと言ったのに、これは装備品だから返せないと言われましたの」


「がっはっは。下着まで盗むとはな。して、どのような下着なんだ?」


 グリフィスのからかうような物言いに、マレーナはニヤリと笑う。


「そうだ、そうだ。どんな下着だったんだよ。じっくり俺っちにも教えてくれよ」


 シオンは恥ずかしさに顔を赤くした。


「もう! その話はおしまいですわ!」


 ほっぺたを膨らませて抗議するシオンに、三人は堪えきれず、笑い声を上げた。


「冗談はここまでにしとくわい。なっ、マレーナ」


「そうだな。グリフィス、相談しようぜ」


 マレーナとグリフィスが話し合う。


 四人の中で率先して話を進めるのは、この二人だ。


 リーダーであるファーガスは余計な口を挟まず、二人の意見を聞いている。頼りになる年下の友人を信頼し、何かあれば自分が責任を取る覚悟を持っているからだ。


「国のために働いているのに、無下にされるのは俺っちとしては許せねえ。怒りが収まらねえよ」


「そりゃワシも同じことだ。無茶な注文にも徹夜して応じてきたのに、扱いがこれでは腹が立つわい。いっそのこと、店でも閉めてやるか?」


「それはいいな。誰でも務まるらしいから、全部の店を閉めてやろうぜ。なっ、シオン?」


「ふぇっ!?」


 突然話を振られ、驚いたシオンが素っ頓狂な声を出した。


「そうするしかねえだろ? 国は何もしてくれないんだ。困ってる民を守ってくれないんだぜ?」


「こ、今回は私が立て替えてもいいと思いますけど……」


 荒事が苦手なシオンは、何とか事態を収めようと試みた。


「そんなもん、一時的な解決でしかねえだろが。勇者が街を訪れるたびに被害が出るんだぜ? ずっとお前が庇いきれるもんじゃねえよ」


 シオンの提案をマレーナは一蹴する。同意するようにグリフィスも頷いていた。


「中には富豪の家にある、金貨数万枚はくだらない高価な壺まで割られたらしいからのう。お前さんが逆に一番の被害者になってしまうわい」


「うう……反論できませんわ」


 提案したシオン自身も、それが一時しのぎであることは分かっていた。


「ということで、明日の朝一番から準備に取り掛かるわ」


「ふぇっ!?」


 マレーナの発言を予想していなかったシオンは、本日二度目となる素っ頓狂な声を出した。


「い、いくら何でも早すぎますわ!」


 シオンは驚きを隠しきれず、育ちの良い令嬢らしからぬ声を上げた。


「ワシはそうは思わん。被害を食い止めるためには、早いに越したことはない」


 マレーナの意見にグリフィスも賛成している。


「少なくとも、勇者が魔王のいる大陸に行くまで我慢するしかねえか。アイツの顔を見ただけで腹が立つしな。とはいえ、どうするのがいいか。店を閉めても兵士が来たら終わりだしな」


「それならワシに考えがある」


 グリフィスの言葉に、マレーナは顎に手を当ててニヤリと笑った。


「へえー。聞かせてもらおうじゃねえか、グリフィス」


「マレーナはこの後ちょっと付き合え。それとシオンは明日、一緒に行くところがあるから付いてこい。兄貴には何かあればフォローを頼む」


「わーったよ」


「はい、ご一緒させていただきます」


「グリフィスとマレーナの考えに任せます。何かあれば頼ってください」


 三人からの返答を聞いてから、グリフィスがソファーから立ち上がる。


 マレーナも後に続くように立ち上がり、二人そろって出口に向かった。


「お二人はどこへ行かれますの?」


「ワシらのやるべきことを相談するんじゃ。国に気づかれる前に準備する必要があるからのう」


 グリフィスたちが扉を閉めて姿が見えなくなると、残った二人は顔を見合わせた。


「大丈夫でしょうか?」


「ええ、彼らなら大丈夫です。それに、何かあれば私が責任を取りますので」


「私だって頑張りますわ。ファーガスさんを困らせないようにしますから」


「それはありがたいです。よろしくお願いしますね」


 その後、二人は少し話をしてから帰路についた。


 ◇◇◇


 翌日、グリフィスとシオンの二人は朝から魔術具店を訪れていた。


 他にやることがあるマレーナとは別行動である。


 ここに来るまで、二人はろくに会話をしていない。考え事をしているのか、ずっと上の空のグリフィス。そしてシオンは、グリフィスの背中に隠れるようにして、木々が生い茂る森の中にポツンと建つ怪しい小屋を見つめていた。


 ここは王都の近くにある森の中で商売をしている、知る人ぞ知る魔術具店ベアードである。


 魔術具とは、魔力を込めることで複雑な魔法の構築や発動を自動で行ってくれる道具のことだ。


 例えば、使い手が複雑な呪文を唱えたり魔法陣を描いたりしなくても、魔力を注ぐだけで魔法の効果を得られる。照明や火を点ける道具などが一般的だろう。


 便利な道具だが、作るためには知識や技術のほかに素材も重要になってくる。特に重要なのが魔石だ。


 魔石とは魔物の体内に存在するもので、価値は魔物の強さに比例する。弱い魔物からは「屑魔石」と呼ばれる価値の低いものが得られ、強大な魔物からは大型の魔術具にも使用されるほど強力な魔石が採取される。


 魔石には火・水・風・土の四大属性があり、ほかにも光、闇、雷、影など希少な属性が存在する。


 火を点けるには火属性の魔石が、水を出すには水属性の魔石が必要になるというわけだ。


 屑魔石であっても、購入すればそれなりの値段がする。手に入れるには危険な魔物を討伐しなければならず、冒険者ギルドから買う場合も中間手数料が上乗せされる。


 そのため、魔術具を作るには相応の費用が必要になるのだ。


「あの……本当に入りますの?」


 本音としては引き返したいシオンが、グリフィスに確認する。


「何を言っとるのだ。そのために来たんだろう。さあ、行くぞい」


「ま、待ってくださいませ」


 さっさと先に進むグリフィスにシオンは慌てて追いついた。


 異様な雰囲気に怯えたシオンは、彼の服の裾をちょこんと摘まんで中に入っていく。


 掃除が行き届いていないのか、部屋の中は埃っぽく空気も悪い。耐えられなかったシオンはハンカチを取り出して口に当てた。


 店のカウンターには誰の姿も見えない。


 どうしていいか分からず、シオンはオロオロしてしまった。


 反対にグリフィスは慣れているのか、平然としている。


「おーい、爺さんいるか? ワシだ、グリフィスだ!」


 グリフィスが大声で呼びかけると、奥の部屋から物音がした。


 すると、白髪頭の小柄なお爺さんが姿を見せた。ゆっくりとした足取りで店のカウンターの前まで歩いてくる。


「なんじゃ、グリフィスか。前に修理してもらった鍋はまだ壊れておらんから、用事はない」


 用事はないと言い張るこの老人は、凄腕の魔術具師で、名はノーマン。国のお抱え技師への勧誘に嫌気が差し、こんな辺鄙な場所で店を構えている。


 自分でも魔物を狩れる腕があるためか、グリフィスが危ないから街に戻ろうと何度誘っても首を縦に振ることはなかった。根負けしたグリフィスは、たまに顔を見せに行っている。


「いや、爺さんじゃなくて、ワシが爺さんに頼みごとがあるんだ」


 グリフィスは苦笑いをしながら、こめかみを指で掻いた。


 意外そうな顔をしたノーマンが「ん?」と短く呟く。


「ということは、ワシに頼み事か。……なら魔術具か?」


「ああ、すまんが作ってほしい魔術具が三つある。金は払うから、早急に作ってほしい」


「ふん、金さえ払えば作ってやるさ。で、何を作ってほしいのじゃ?」


「先ずは移動キーだ。あらかじめ登録した者なら、触れるだけで指定した場所へ転移できる。数百人分の魔力を蓄えられる特別製じゃ。往路と復路で別々のキーが必要になる。それと、一ヶ月くらい持つ魔物除けのお守りもだ。後は……戸締まりした店に誰も入れないようにしたい」


 移動用キーとは、触れた者を指定された場所へ瞬間移動させる置物型の道具である。


 魔物除けのお守りは、その名の通り魔物を近寄らせなくするものだ。


 使い道はさまざまで、袋に入れて持ち歩いたり、馬車に設置したりする。馬車に設置する場合は、より高い効果が必要になるため、その分値段も高くなる。


「最初の二つは分かるが、最後のがよく分からん。詳しく話せ」


 ノーマンは最後の注文が理解できず、グリフィスに説明を求めた。


「ああ、実は王都の店を一時的に閉めようと思っている。泥棒に入られないように、簡易的な結界で覆ってほしいのだ。数は……そうだな、百個くらいは欲しい」


「……作れなくはないが、べらぼうに金がかかるぞ。少なく見積もっても金貨一千万枚はかかる」


「一千万枚ですって!!」


 二人の会話を邪魔しないように大人しくしていたシオンは、あまりの金額に驚いて声を上げた。


 王都なら家が建つほどの金額である。貴族が住むような屋敷ともなれば、金貨一億枚を超えることも珍しくない。


 一方のグリフィスは予想していたのか、驚きもせず眉一つ動かさなかった。


「ふん、金なら払うわい。それで、いつ頃できる?」


「一週間くれ。そうしたら全部そろう。道具を作るのにも金がかかるから、先に払えよ。全部で……そうじゃな、金貨1100万枚でいい」


「分かっておる。後で持ってくるから、なるべく早く作り上げてくれ」


「年寄りをこき使いおってからに。まあ、お前さんの頼みじゃ。早く仕上げるようにするわい」


「ああ、よろしく頼む」


 グリフィスは用件が終わったとばかりに、さっさと店を出ていく。


 支払う金額の大きさに驚きが抜けきらないシオンは、置いていかれないように後を追った。


 店を出てすぐ、シオンはグリフィスに尋ねた。


「この後、どうしますの?」


「マレーナのところだ」


 グリフィスはそれだけ言うと、黙々と歩き出した。


 説明が少なすぎてため息を漏らしたシオンも、彼の隣に並ぶように歩き出した。


 ◇◇◇


 一時間後、二人は港にあるマレーナの事務所にいた。


 執事の男性が全員にお茶を配り終えると、一礼してから部屋を退出する。彼の姿が見えなくなってから、マレーナが口を開いた。


「それでよう、そっちは上手くいったのかい?」


「ああ、金は後で兄貴のところに取りに行くが、一週間くらいでできそうだ」


「そっか、それは僥倖だな。うちのところは大型貨物船を整備中だ。もうちっとかかるから、ちょうど良かったぜ」


「……貨物船……ですの?」


 一人蚊帳の外にいるシオンが、マレーナに尋ねる。


 マレーナは紅茶を一気に飲み干すと、子供のように袖口で口元を拭った。


「ああ、勇者の被害を訴えている住民が全員乗れる船だ。一隻じゃ足りないから、追加でもう一隻準備してる」


「そ、そんな大それたことをしたら、大変な事態になるんじゃないかしら?」


 シオンは不安になり、二人の顔を見比べる。


「大丈夫だ、シオン。これはあくまで慰安旅行だからのう。貴族には兄貴から報告してもらうから」


「しっしっし。そういうこった、シオン」


 悪だくみをしているようにマレーナが笑う。


 説明を受けたシオンは目を丸くした。


「旅行……ですか」


「ああ、心配することなど何もないわい。平民の旅行を貴族にとやかく言われる筋合いはないからのう」


「そうだそうだ。シオンはもっと俺っちたちを信用しろっての!」


「信用はしておりますが、不安な気持ちは仕方ないと思いますわ」


「とりあえず、船に食べ物とか衣類とかを運ばなきゃならないから、シオンのところの従業員も貸してくれ」


「それくらいなら、お安いご用ですわ」


 ようやくシオンから不安な表情が消え、笑顔に変わる。


 その様子にグリフィスは安堵した。彼は言葉足らずだが、面倒見のよい性格なのだ。


 ファーガスが合流するのを待っていた三人は話題を切り替え、学生時代の話に花を咲かせていった。


 ◇◇◇


 その頃ファーガスは、仕事の都合で合流が遅れていたため、急ぎ足でマレーナの店に向かっていた。


 港に着き、海の香りを感じながら歩いていると、


「おい、ファーガス」


 と声を掛けられ、足を止めた。


 声がした方に振り向く。


「やっぱりファーガスではないか。どうしてお主がこんなところにいるのだ?」


 呼びかけてきた相手は、軍務局の若きエリート。つまりグスマンの部下である。


 嫌な奴に会ったと思ったが、そんなことは微塵も感じさせず笑顔になる。


「これはこれは、チャールズ様。商業ギルドの関係者と船旅にでも行こうかと思いまして、その下見でございます」


 言い終わると、胸に手を当てて頭を下げる。貴族に向けてのお辞儀だ。


「ほう、船旅とはいい身分だな。私など、かれこれ二ヶ月は休んでおらん。やっぱり平民は楽でいいな。お主もそう思わんか?」


 チャールズは側にいた兵士に意見を求めた。


 兵士も同じように感じたのか、頷いてから「そう思います」と言葉少なに返答する。


 ファーガスは彼らのやり取りを気にしていない。


「いえいえ、それもこれも貴族様たちのご尽力のおかげでございます」


「ふむ、まあよい。お主たちがおらんでも王都が困ることもあるまい。ゆっくりと過ごすがよい」


「はい。ありがとうございます」


「して、どの船で行くのだ? まさか漁船ではあるまいな? わっはっは!」


 嫌味な言い方をしたチャールズの笑いに釣られるように、部下の兵士も失笑している。


 ファーガスは相手にばれないように拳を握りしめ、屈辱に耐えた。依然として営業スマイルは崩さない。


「はい、もちろんでございます。国に納品予定の大型貨物船の試運転を兼ねようと思っております」


「なるほど、殊勝な心掛けだ。お前たちも国のために少しは尽くす努力をするようになったのだな。グスマン様もお喜びになられるだろう」


 チャールズは顎に手を当てながら、上から目線で言葉を伝えた。それでもファーガスは貴族を敬う態度を保っている。


「はい。平民に足りない点があれば、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。それと、我々が不在の間に何かあれば、ご対応していただけるようグスマン様にお伝えください」


「ん? ……まあよい、グスマン様に伝えておこう。お主たちがいなくとも、我々貴族がいれば国は困らん。何とかしよう。その代わり、旅先でよいワインでも手に入れたら献上するように」


 厚かましい願いにも、貴族の扱いに慣れているファーガスは笑顔を崩さない。


「はい、もちろんでございます。それでは、これで失礼します」


 ファーガスはこれ以上絡まれないように、そそくさとその場を後にした。


 ◇◇◇


 三日後の夕暮れ。


 市場の屋台では、通りを行き交う住民に対して競い合うように声を掛けていた。


 そんな頃、再び王都にやってきた勇者は、国王のもとを訪ねていた。


「勇者よ、よくぞ参った。して、今回は何の用だ?」


 豪華な椅子には、白ひげを蓄えた老賢王を思わせる年老いた男が座っていた。金細工や宝石が散りばめられた重厚な王冠、深い赤色の長大なマント、胸元には王家の紋章が入ったチュニックをまとっている。


 彼こそは国王、アレキサンダーⅧ世その人である。


 その目の前には、赤髪の青年が跪いていた。


 白銀金属《ミスリル》の鎧を身にまとい、腰には剣を差している。王の間で唯一武器の所持を認められた男こそ、勇者アベルだ。


 声を掛けられ、アベルは顔を上げた。


「はい。街の様子というか、住民の様子がおかしくて。なんか私に対する視線とか態度がよそよそしく感じます。以前とのギャップに困惑していて、どうしたら良いのか相談に来ました」


 勇者の発言を聞いた国王は片眉を上げた。


「ほう、民の態度がのう……。お前たちは何か聞いておらんか?」


 国王の問いかけに、その場にいた部門責任者たちは互いに顔を見合わせた。


 宰相が代表して口を開く。


「実は……。勇者様が民の家に入って壺を割ったり、タンスを漁ったりして困ると、苦情を言われております」


「なるほどな。勇者は何用で民の家を荒らすのだ? 何か理由があるのか?」


「そうですね。魔王討伐に役立つ物があったりするんですが、目当ての物はトークンと呼ばれていて、小さな金属片ですね」


「トークン? なんじゃそれは?」


「六芒星の証が刻まれた球状の金属で、普通の人にはまったく価値がありません。ただし、それを集めている人に渡すと、珍しい武器や防具、便利な道具などと交換してもらえます」


「なんと! そのような物があるとはな。民も突然のことで驚いたであろうが、魔王討伐よりは些細なことじゃな。ちゃんと説明したら分かってくれよう。宰相らは、たまに話し合いをしておるじゃろ?」


「ええ、二週間後にまた話し合いがあります」


 宰相の話を聞いて、グスマンは慌てだした。


「さ、宰相殿、ファーガスはしばらく休暇を取ると聞いている。もしかすると再来週は無理かもしれない」


「そうですか。まあ、急ぐこともありませんし、問題ないでしょう」


 グスマンの発言で少しざわついた雰囲気が、宰相の言葉で収まった。


「よし、これで問題解決じゃな。勇者よ、食事をしながら旅の話でも聞かせてくれ」


「はい、喜んで」


 ファーガスたちのあずかり知らぬところで、国王たちと勇者は安堵していた。これで事態が収束するだろうと。


 言うまでもなく、彼らは豪華な料理に舌鼓を打ちながら、勇者の旅話で盛り上がることになる。


 ◇◇◇


 一週間後、魔術具が完成したとの連絡が入った。


 すべての準備が整った次の日。


 太陽が顔を見せ始めた早朝にもかかわらず、商業ギルド内の大会議室には大勢の人々が集まっていた。


 彼らの前にはファーガスが立っていた。全員に声を行き届かせるため、手を口の前にカップ状に添える。


「えー、皆さん。これからこの移動キーに触れてもらい、大型貨物船が停泊している港に移動してもらいます。その後は速やかに船に乗り込んでください。船は二隻あるので間違えないようにお願いします。向こうにはマレーナさんたちが待機しているので、分からなければ彼らに尋ねてください。では、さっそく移動を始めましょう」


 ファーガスが言い終わると、彼の部下である商業ギルドの職員が最初に移動キーに触れ、目的の港へと転移した。


 それを確認した住民たちが、順番に列を作って移動キーに触れていく。


 住民たちが船に乗り込むと、シオン、グリフィス、ファーガスの三人は、まだ港に残っていた。


 三人のうち、シオンだけが暗い表情をしていた。


「本当によろしいのかしら?」


「心配するでない。あとは兄貴が話をつけてくれるわい」


「ええ、私に任せてください。この前のリベンジをさせていただきます」


「分かりました。ファーガスさんがそこまでおっしゃるなら、信じますわ」


 シオンが笑顔を取り戻すと、船に乗っていたマレーナが声を上げた。


「準備できたぞー! お前らも早く乗っちまえ!」


 彼らが船に乗り込むと、船長の号令の後、ゆっくりと船が動き出し、陸から離れていった。


 ◇◇◇


 ファーガスたちが慰安旅行に出てから十日後。


 アレキサンダーⅧ世が王に即位してから、経験したことのない未曾有の危機を王国が襲っていた。


 商業ギルド、鍛冶屋、商船関連、服飾関連、飲食店など、あらゆる店が閉まっていた。


 その影響で物資が不足し、居残った民や貴族から連日苦情が殺到する。王宮でも食料の補充や衣類の修繕が滞り、関連する業務は停止寸前まで追い込まれていた。


 駆けつけた兵士たちが店に入ろうと試みたが、強固な結界に阻まれ、まったく歯が立たない。


 仕方なく王宮にある食料の備蓄庫を開放したものの、次々と運び出される食料は、ひと月も経たずに枯渇してしまうほどの勢いで消費されていく。


 王宮の厨房では料理人が食材の不足を訴え、貴族たちからは食事の質が落ちたと不満が上がった。


 衣類も新調できず、繕うための糸も足りない。武器に関してはメンテナンスもできず、兵士たちの訓練にまで支障が出ていた。


 この日の大会議室では、国王を筆頭に各部門の責任者が一堂に会していた。


 重苦しい雰囲気を破ったのは宰相だった。


「グスマン、ファーガスからの手紙が先ほど王宮に届いた。読んでみたが、彼らの休暇中の対応はお主が引き受けるらしいではないか? どうなんだ? できるのか、できないのか?」


「それは……なんと答えてよいのか……」


 口ごもるグスマンの態度に、国王の機嫌が悪くなっていく。


「ええい、まどろっこしいわい! できるか、できないかくらい答えることができるじゃろ! このままではワシは歴史に名を残す愚王と呼ばれるではないか! 早く言わんかっ!!」


 国王から直々に叱責され、グスマンの肩がびくりと震えた。


「申し訳ございません。私には彼らの代わりはできません」


「……そうですか。ファーガスからの手紙には、送受用通信具が一緒に付いていました。これを使えば彼と会話ができるのでしょう。おい、頼む」


 宰相の命令で、壁際に控えていた兵士の一人が送受用通信具を受け取りに来る。それを宰相が手渡した。


 兵士は会議机の近くにある物置台に設置された拡散型通信具に送受用通信具をセットした。


 残っていた兵士たちが、拡散型通信具と連動する小型の通信具を各自の席に置いていく。そして魔力を注入し、使えるようにした。


 無音だった通信具から徐々にノイズ音が聞こえてくると、やがて鮮明な声に切り替わった。


『……もしもし? こちらはファーガスですけど?』


「おお、ファーガスか。今こちらでは国王様も同席して会議をしておる。それで、お主たちには至急戻ってきてほしいのだ」


『冗談はやめてくださいよ、グスマン様。だって、平民の仕事なら誰でもできるっておっしゃったではないですか。貴族が約束を破ってもいいのですか?』


「それは、その…………」


 グスマンはファーガスからの反論に答えられない。


『一応、移動キーで戻ることは可能ですよ?』


 思わぬ朗報に、グスマンはテーブルに身を乗り出した。


「そんな物まで用意してあるなら、すぐに戻ってくれ。頼む、ワシが間違っていた」


 グスマンは小型の通信具に向けて頭を下げて謝罪した。


『そうしてあげたいのですが、こちらとしても旅行に同行している住民から不満が出ますし、何よりこの旅に費やしたお金もあります。我々にただで戻ってきてほしいほど、グスマン様は我々に貢献してくれましたっけ? すぐに泣きついたりせず、ちゃんと問題を直視してくださいよ』


 以前、自分がファーガスに言った言葉を思い出し、グスマンは苦虫を噛み潰したような顔になった。


 ファーガスに何か言い返そうとしても、言葉が浮かんでこない。


 会議室にいた全員がグスマンに注目していると、再び通信具から声が聞こえてきた。


『金貨二億枚です』


「へっ?」


 思わずグスマンから間の抜けた声が漏れた。


『金貨二億枚を支払ってくれたら、今回の旅行は断念して今すぐにでも戻りましょう。もちろん、税金ではなくグスマン様が個人で支払ってくださいね。約束を破るのですから当然でしょ? ああ、忘れていました。グスマン様に賛同していらしたビスタ様にも協力していただかないと駄目でしたね。これはうっかりしておりました』


 当事者ではないと油断していたビスタは、その言葉を聞いて目を見開いた。


「わ、私もですか? それはあまりにも……」


「そうだ! 二億枚はいくらなんでも法外ではないか!」


 グスマンが声を荒らげた。


『法外ですか? 旅行費用、営業停止による損失、住民への侮辱に対する賠償を含めた交渉額になります。高くはないと思います。逆に今回の件で国が受けた損害を考えてみてください』


 通信具から聞こえるファーガスの声は、落ち着いていた。


『商店が閉まり、食料や生活必需品が届かなくなった。職人たちが仕事を止めたことで、武器や防具の修理も滞っている。船が動かなければ港の物流も止まる。これらをすべて国が自力で補おうとすれば、いったいいくらかかるでしょうね』


「それは……」


 グスマンは言葉に詰まった。


『私たちは、国を困らせるためだけに仕事を止めたわけではありません。自分たちの仕事がどれほど国を支えているのか、あなた方に理解してもらうためです。それなのに、私たちの仕事を誰にでもできると言い放ったのは、あなた方でしょう?』


 会議室に沈黙が広がった。


 国王アレキサンダーⅧ世は、ゆっくりと目を閉じた。


 今回の騒動で、国がどれほど多くの人々の働きに支えられていたのか、嫌というほど思い知らされた。住民たちの要求を拒めば、彼らは戻ってこないだろう。そうなれば、王国の機能そのものが立ち行かなくなる。


「……わかった。グスマンとビスタには、それぞれ金貨一億枚を支払わせる。国としても、住民たちの要求を受け入れよう」


『それを聞いて安心しました』


「ああ、任せておれ」


 国王の返答を聞いた関係者たちは、これで問題がようやく解決すると安心していた。


『それから、国王様にも言いたいことがございます』


 国王もまた、自分は当事者ではないと油断していたため、目を見開いた。


「な、なな、なんじゃ?」


 突然のことで言葉がうまく出てこない。国王に即位してから初めての体験である。


『国王様が勇者を支持しているのは理解しておりますが、彼の行動は常軌を逸しております。我々は、再び彼が愚行を繰り返すなら、同じような行動を取る覚悟がございます。それは分かっていただけますか?』


「も、もちろんじゃ。二度と勇者には民に被害を出させないことを約束しよう」


『では、国王様にも罰を与えましょう』


「ワ、ワワ、ワシは国王だぞ!」


 国王は本日二度目となる、言葉がうまく出てこない状況に陥った。


『国王様は、責任や自分が招いた罪から権力を振るって逃れようとする王様なのですか? 自分の非を認め、成長されることを国民は望んでおります』


 ファーガスの物言いに、国王は両手を上げて降参した。


「わかった。わかった。ワシの負けじゃ。ワシは民の見本とならんといけない立場じゃ。何でもするから言ってみよ」


『はい。国王様には民の暮らしを知っていただくために、商業ギルド、鍛冶工房、商船支部、服飾関連の仕事を手伝ってもらいます。もちろん、立場は一番下として扱います。当たり前ですよね? 罰なのですから』


「くっ、それでよい。だから戻ってきてくれるのか?」


『ええ、移動キーを調整してからなので、半時ほどかかりますけど、戻りますよ』


「分かった。それで頼む」


『それから、もう一つございます』


 ファーガスの言葉に、国王は再び身構えた。


「な、何じゃ?」


『今後、勇者が民の家や店に無断で立ち入ったり、物を壊したりした場合、王国が責任を持って被害を補償してください。また、勇者には民の財産を尊重するよう、国王様から直接お伝えください』


「うむ、約束しよう。今後は勇者の行動をきちんと監督する。二度と同じことは起こさせん。勇者を支持するあまり、民の訴えを軽く見ていた。余にも責任がある」



『ありがとうございます。それでは、帰還の準備を進めます』


 ファーガスとの通信が終わると、その場にいた全員からどっと疲れが出た。


 その後、国王から直々に命令されたグスマンとビスタは、金貨一億枚ずつを出し合い、ファーガスのいる商業ギルドに届けた。


 もちろん、これは単なる魔術具の費用ではない。住民たちが被った被害や、今回の旅行にかかった費用、そして彼らを侮辱したことへの責任を含めた賠償である。


 その代償は大きく、二人に重くのしかかった。


 グスマンは子供の頃からの夢だった希少な雷属性の魔剣の注文を取りやめ、ビスタは趣味である豪華な食事を少なくとも十年は諦めざるを得なかった。


 そして国王はというと、平民たちからいいようにこき使われ、疲労困憊となった。


 初めて経験する仕事の連続に、国王は自分がいかに民の働きに支えられていたのかを思い知らされた。


 勇者のことが少し嫌いになったことは言うまでもない。


 騒ぎの張本人である勇者は、国王から民への迷惑行為を厳しく注意され、気まずくなって逃げるように王都から離れていった。


 その後、勇者が民の家や店に勝手に立ち入ることはなくなった。その反動からか、隣国では勇者の行動はエスカレートしていく。王宮すらもターゲットにして、トークンを必死に探しまくった。次第に勇者を非難する声が上がったらしい。結局彼は居場所を失い、魔王の大陸を目指すことになる。



 こうして、商業ギルドの歴史書に書き残されるほどの住民たちの戦いは、ようやく終わりを迎えた。


 反省した国王は王の間の壁に以下の言葉を記した掛け軸を飾った。


『誰かの仕事によって社会は成り立つ』


 グスマンとビスタは国王の命により、羊皮紙に百回その言葉を書かされた事について、誰にも秘密にされている。


(おわり)

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