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手のひら返し:PVつかない女の子の逆転劇

作者: 秋月心文
掲載日:2026/05/22

 とある場所に、小説家になる事を、夢見ている少女がいました。


 彼女は、毎日のように、投稿サイトに、作品を投稿します。

 けれど、まったく、PVが付きません。


 書いているのは、いわゆるラノベでした。

 ですが、ジャンルは、今の流行りとは、全然違う方向性の作品ばかりでした。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 彼女は、意を決して、大きな出版社に小説を持ち込みました。

 ラノベで有名な某社です。

 対応にあたってくれた人は、新人の担当者でした。


 少女は、とても正直者でした。

 投稿するも、PVが、全く付かない事まで、話してました。


 担当者は、読んだフリをした上で、言います。

「ダメですね。全然、ダメです。うちでは、扱うに値しません」


「そうですか……。時間をとって頂き、ありがとうございました」


 担当者は、時間を無駄につぶしたな……と思い、席に戻りました。


 その小説を、机の片隅の書類の束に、埋もれさせました。

 そして、やりかけていた仕事の続きを始めました。

 彼の仕事は、優秀な新人の発掘でした。


 PVの多い作品の中から、次々と候補を絞っています。

 この世界は、数字が全てです。

 数字の後押しがあれば、頭の固い上層部でも、GOサインを出してくれるからです。


 さーて、どの作品を推そうかな……。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 帰りしな、聞いた事もない出版社を、見かけました。

 彼女は、意を決して、その出版社に、小説を持ち込みました。


 その会社は、小さな会社でした。ラノベとは、無縁の会社です。

 もっぱら、海外の作品を翻訳して、国内で出版していました。


 対応にあたってくれた人は、新人の担当者でした。

 担当者さんは、ぶっちゃけ、ヒマを持て余していました。


 なので、ヒマつぶしには、いいかと、その少女の小説を読みました。


 そして、わんわん泣きました。

 ……と思ったら、次の胸をすく瞬間に、わくわくされました。


 なんで、誰にも、評価されて、いないのだろう……と思いました。


 「流行り」を欠片も、反映してない事もあるかな?


 彼女が言うには、キーワード設定も、してないらしいです。


 改めて、読まれない、原因を探してみると……


「なんです、このタイトル! 誰も読もうと、思いませんよ!」


 酷いものでした。

 キャッチーなフレーズなど、全くありませんでした。


「え?、いい小説を書けば、みんな読んでくれるんじゃ?」


「そんな事、ある訳ないでしょう!」


「いいですか、星の数ほど、小説があるんです。

 タイトルで、読ませる気にさせないと、ダメですよ」


「誰も、読んでないと、わかってたなら、

 せめてタイトル変えないと……」


「せめて、何かひとつでも『流行り』を反映してれば、

 検索でヒットして、読んでもらえた……かもですが……」


「そういうものですか?」


「そういうものです」


「それに、この冒頭部分なんですか?」


「冒頭に説明が多すぎです。

 もっと、わくわくする部分を持ってきてください」


「かなり後の方まで、読まないと……

 面白さが伝わらないって、全く、どうなってるんです?」


 彼女の小説は、読めば、読むほど、面白くなる半面、

 冒頭から、しばらくの間は、酷いものでした。


「出版の際は、構成を変えましょう。私も、手伝います……」


「とはいえ、私の判断だけで、出版を決められません。

 まずは、上司と相談します。後日、結果を連絡します」


 そう言って、連絡先を交換しました。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 その頃、某大手出版社。

 新人さんの仕事が遅いので、上司が激を飛ばしにきました。

「どうだ!?、いつ頃、終わりそうか?」


「すみません、今、やってます!」

 新人さんは、入社以降、一度も、ホウレンソウを、しません。


 今、何をどういうアプローチで進めてて、

 今、どれだけ絞り込んでいて、

 いつ頃、終わりそうか

……という事を、上司にも、同僚にも、共有しようとしません。


 けれど、上司は、

 この仕事の期限が、先月までだったのに、

 その上の人に駆け寄って、結果を待ってもらっていました。


「何日も、同じ答えじゃないか!、何やってんだ!」


 もう、同じやりとりを、3週間以上続けています。


 新人さんは、結果を出すだけが、仕事と思い込んでました。


 上司は、状況報告や、完了見込みを、聞いてるつもりですが、

 新人さんは、今すぐ、結果を出せと、言われてるのだと思い、

 どんどん、仕事が雑になっていました。


 どちらも、コミュニケーション能力が、残念でした。


 上司は、新人さんのPC画面を、覗き込みました。


 昨日、ミーティングで、共有した情報が、伝わっていない!!


 読者の興味が、急速に薄れてる、ジャンルがあると、

 全員に共有したハズだったのですが、

 今、新人さんが、発掘中のものは、全部、それでした。


「はぁ……」

 上司は、ため息をつきました。


 そして、隣の中堅社員に、言いました。

 彼は、仕事の速さと、判断の速さで、部内髄一でした。


「今、やりかけの仕事、来週末まで、延期していいから……。

 悪いけど、こいつの仕事、変わってやってくれないか?」


 新人さんは、慌てました。

 自分が、無能だと言われたと思い、慌てました。

 ホウレンソウすら出来ない時点で、十分無能なのは確かですが……。


 新人さんの机に、山積みされていた書類の束が、崩れました。

 机の上をキレイにする事も、出来ていないようです。


 隣の中堅社員が、それを拾いますが、

 その時、例の少女の小説を見てしまいました。


 中堅社員さんは、速読の能力に長けていました。

「おもしろい……」


「え?」

 上司と、新人社員は、中堅社員の方を見ました。


 中堅社員さんは「残念なタイトル」も、

 「苦痛なまでの冒頭部分」も読んでなかったのです。


 いきなり、クライマックス部分を読みました。

 目には、ほんのり、涙がにじんでいました。


 上司は、それを見て「いける!」と判断しました。


 上司は、早速、少女の連絡先を聞きました。

 しかし、少女から、別な出版社に持ち込んだと聞きました。


 上司は、一計を講じます。

 上司は、その小さな出版社に圧力をかけました。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 少女の元に、例の小さな出版社の担当者さんから、連絡が入りました。

 残念ながら、出版許可が下りなかったそうです。

「そうですか……」


 少女は、肩を落としました。


 実際には、某社から「圧力」が、かかっていました。

 その旨は、伝えられませんでしたが、

 担当者さんは、なぜか、海外での出版を勧めました。


 少女は、日本での出版は、無理なのか……と感じました。


 その上で、彼女の小説の治すべき点を、いろいろアドバイスしました。

 彼女は、それを真摯に聞きながら、メモを取りました。


 担当者さんの行動は、全く、出版社の利益にはなりません。

 この作品を、埋もれさせたくない、という気持ちによるものでした。


 少女は、担当者さんの気持ちを、ありがたく思いました。

 そして、次の行動を始めました。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 某大手出版社では、例の小説を出版するか協議が行われていました。

「予定の期日を、1月も遅れて、発掘してきたのが、この作品か……」

「はい、そうです」


「PVが、1つもないという時点で、考える意味ないだろ。

 数字が、全てなんだよ。数字なんだよ。数字が……。

 PVもなしに、どうやって売れる事を、証明出来るんだね?」


「ダメだな……。ちっとも、面白くない。

 おまえ、この作品、ちゃんと読んだのか……」


「なんだ、このタイトル! 読み手を舐めてるのか……」


「独りよがりの作品じゃないか。

 今の流行りに、欠片もかからないって、プロ意識あるのか?」


 ……もう、ボッコボッコです。

 いや、なんか、私の事を言われてるみたいです。


 あれ?。上司は、改めて、彼女の作品を読みました。

 タイトルも、小説の冒頭部分も、非常に、非常に、残念なシロモノでした。


 結果、この作品の出版は、取りやめになりました。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 一方、少女は、別の出版社に、持ち込んでいました。

 その会社は、海外にありました。


 彼女は、6か国語の翻訳を得意としていました。


 小さな出版社さんからのアドバイスを元に、いろいろ修正しました。

 タイトルを……。

 作品の構成を……。

 いくつかの表現を……。

 そして、翻訳された6か国語の作品を、インターネットで、持ち込みました。


 海外の会社は、判断が迅速です。

 日本とは、比べ物になりません。


 いくつかの修正箇所をお願いされましたが、即決採用されました。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 彼女の作品は、ベストセラーになりました。


 そして、例の小さな出版社で、日本語に逆翻訳されました。

 海外で、ベストセラーになった事から、日本でも、大人気です。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 某大手出版社では、この件が、問題になっていました。

「聞いた話では、当社に、最初に持ち込まれたそうじゃないか?」

「何、やってるんだ、お前らは……」


 ……そのように言ってくるのは、

 会議で、ボッコボコに否定した人たちです。


 会議では、誰が、この件の「悪者」なのかを論議してました。

 そう、自分が、その原因ではないと、決めたいが為に……


 こうして、結論のない、無意味な会議が、続けられました。

 いつまでも、いつもでも……。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

数ある作品の中からこの物語を選び、貴重なお時間を使って読んでいただけたことを、とても嬉しく思っています。


もし少しでも楽しんでいただけましたら、【ブックマーク】や【ポイント】で応援していただけると励みになります!

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