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《音のない鍵盤》  作者: 奏
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暗黙の了解を超えた何か

生まれつき聾唖で、どんな音も聞こえない誠。しかし、ピアノをこよなく愛する誠。孤立やいじめを恐れ、補聴器もつけない。

静寂の世界で、誠は触覚と記憶で音楽の響きを感じ取り、指先で静かな旋律を紡いでいく。

転校生のひなが現れ、彼女の情熱と優しさが誠の人生を光のように照らし出す。二人はピアノで静かな橋を架け、学校の困難や偏見に共に立ち向かい、孤独と成長の道を手を取り合って歩んでいく。

これは、静寂の世界で紡がれる、勇気と友情、そして純愛の物語。


翌日の火曜日、晴れた朝。キャンパスの空はいつもと変わらないが、白石真琴の世界は奇妙なほど静まり返っていた。


教室の隅に座り、テーブルの上に英語の教科書を広げていたが、集中力が続かなかった。補聴器はまだ壊れていて、音は全く聞き取れなかった。先生の講義内容は、目と口の形から推測するしかなかった。まるでガラス越しに生きているような感覚で、黒板の文字を一筆一筆書き写していた。


しかし、彼女の視線はいつも無意識に窓辺に向けられていた。そこには、藤原春菜が数人のクラスメイトと笑顔で談笑していた。春菜が笑うと、目は小さく弧を描き、手はいつも何かを真似するかのように大げさに振舞っていた。真琴にはその動きは全く理解できなかったが、クラスのクラスメイトたちは楽しそうに笑っていた。


春菜はクラスですぐに友達になったようで、二人の距離も違和感なく、まるで違う世界から来たかのようだった。


ところが――昼食のベルが鳴った時(真琴にとっては、クラスメイトたちが次々と立ち上がる光景に過ぎなかった)、見慣れたあの人物がまた真琴のところに歩み寄り、明るい笑顔でホットココアの缶を手渡した。真琴は顔を上げて真琴の目を見た。


彼女は一瞬呆然とし、心臓の鼓動が二拍ほど早まったように感じた。


春菜は急いでノートに書き込んだ。


> 昼食を食べていないと思ったから、先にこれを買っておいたの! 昨日ピアノを弾いてすごく楽しかったから、また弾きたい!


それを読み終えると、真琴は膝の上で指を動かし、筆箱からペンを取り出してこう書いた。


> ありがとう…私もとても嬉しいです。


そう書きながらも、真琴の顔は少し赤くなり、視線は窓へと移り、春菜と目を合わせる勇気はなかった。


午後の授業はいつも通りだった。真琴にとっては、それは沈黙のマラソンだった。チャイムが鳴ってようやく心から安堵し、ランドセルを掴んで、馴染みの音楽教室へと向かった。


ドアが開くと、すでに誰かがピアノの前に座っていた。藤原春菜だった。


「まさか…?」真琴は思わず半歩後ずさりし、苦笑いした。何も聞こえないので、春菜が早く来たことに気づくはずがない。


春菜は真琴を見つけると、すぐに椅子から飛び上がり、ノートを掲げた。


> 来たわね!!また迷子になったから、ここで待っていようと思って~


小さく笑顔の絵も描いてくれた。


真琴はメモを読みながら、つい彼女の顔を覗き込んでしまった。春菜と一緒にいると、いつも何気なく不自然になる気がしていた。ほんの少しの言葉、ココアの缶、そして笑顔。でも、彼女の心はひどく乱れているようだった。


彼女は返事をせず、ただそっとピアノに歩み寄り、座った。


二人は特に何も言わず、昨日と同じように、右手でメロディーを、真琴は左手でベースを弾きながら、黙々と弾き続けた。


二人の連弾で「月光ソナタ」の第一楽章がゆっくりと展開していく。


演奏中、真琴の視線は何度も陽菜へと向けられた。その瞳は、まるで聞こえない旋律に耳を澄ませているかのように、じっとしていて優しく、澄んでいた。ちょうど気が散っていた時、ひなは突然立ち止まり、かがんでバッグから何かを取り出し、目の前に置いた。


それは新しいココアの缶だった。


真琴は突然の行動に驚き、肩を少し震わせた。ひなは「また気が散ってるね!」と言わんばかりに、静かに微笑んで真琴を見た。


指はキーボードから離さなかったが、少し恥ずかしそうに頭を下げた。


ひなはペンを取り出して、急いで書いた。


> よく気が散るのね?私のこと考えてるの?(笑)


真琴は一行の文字を見て、頬が一瞬赤くなり、ペンのキャップも外さずに、紙を突きそうになった。


彼女は急いで返事をした。


> いやいや…


ひなは「ふふ」と笑い、次の文章を書いた。


> 真面目な話をしましょう!


> ――ピアノクラブを作ろう、どう?


真琴はぼんやりとメモを見つめた。春奈の言葉の意味が分からないかのように、まばたきをした。ピアノクラブ?そんな発想は考えたこともなかった。まさか、一緒にやりたいと思ってくれる人がいるとは思ってもいなかった。


彼女は無意識にこう書いた。


> えっと…どうしたらいいのかわからない。クラブなんて作ったことがないから。


この文章を読んで、春奈は首を傾げて考え、こう書いた。


> 大丈夫、先生に聞いてみるわ!


そう言うと、彼女はすぐに立ち上がり、リュックサックを掴んでくるりと振り返り、出て行った。真琴が反応するよりも早く、ドアが「バタン」と閉まった(ドアが動くのは見えたが、音は聞こえなかった)。


しばらくして、春奈が戻ってきた。


彼女は何かを祝うかのように両手を高く上げ、興奮に満ちた顔で新しいメモを手渡した。


>先生が大丈夫だって言ったんだから!!!!願書に記入するだけ!あなたが会長で、私が副会長になるんだけど、どう?」


真琴はその言葉を見て、何かに優しく胸を押されるような気がした。


なぜ頷いたのかわからないけれど、陽菜が歓声をあげると、思わず笑い出した。


笑う勇気はなかったけれど、どうしても笑ってしまった。


――まるで何か新しいものが静かに始まっているようだった。

第二話をご覧いただきありがとうございました〜 真琴と春菜がまた一歩近づきましたね! 応援よろしくお願いします

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