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第3話 妹、魔女を見るなり魔法を放つ

 その日、ルークの屋敷にはめずらしく、玄関から雷鳴のような魔力の気配が吹き込んできた。


「お兄ちゃああああああんっ!!!」


 屋敷の門を突き破らんばかりの勢いで飛び込んできたのは、ルークの妹──ルミナ・アルヴェイン、15歳。


 魔術学院に通う才女であり、すでに中級以上の魔法を完全詠唱なしで操る実力者。

 とはいえ、精神的にはまだまだ年頃の女の子で、根っからのブラコンである。


「久しぶりぃっ! あのねっ、あのね! 討伐先の魔人が、急に全滅したの! それで学院に戻ったら、“勇者が倒した”って話になってて──ええっ!? お兄ちゃんだったのっ!? 本当にっ!?」


「まあ……うん、そうなるかな……?」


 玄関ホールで迎えたルークは、気恥ずかしさを隠しきれずに頭をかいた。だが、妹は感動に目を輝かせてルークに抱きつく。


「お兄ちゃん、すごいっ! も〜、大好きっ! 尊敬するっ!」


「わ、わかった、ちょっと落ち着けって!」


「えへへへ……お兄ちゃんが世界を救うなんて、ほんとに夢みたい……」


 くるくるとルミナが舞うように喜びを表現していた、その時だった。


「ルーク様、お茶が入りましたわ」


 廊下の奥から現れたのは、紅茶の盆を手にしたミレイアだった。

 白と黒のゆったりした部屋着に身を包み、穏やかな微笑みを浮かべた姿は、どこからどう見ても「良家の婚約者」である。


 だが──


「……お兄ちゃんの、後ろにいるの、誰?」


 ルミナの声が、一瞬で冷えた。


「えーっと、紹介がまだだったな。ミレイアだ。……闇の魔女だった人」


「魔女!? って、“だった”って何!? ああもう、理屈はいい!!」


 ルミナの瞳に魔法陣の光が宿った。


「ちょっとそこ退いてお兄ちゃん!! 今すぐその魔女、消し飛ばすから!!」


「待て! ルミナ、やめ──」


「爆裂魔法・中級詠唱――《ブレイズ・テンペスト》!!」


 放たれたのは、火と風を複合させた破壊力特化の魔法。

 爆音とともに室内の空気が焼かれ、廊下が閃光で包まれる。

 吹き抜ける衝撃波に、絨毯がたわみ、柱の一部が焦げた。


「ふふ……すごい威力。なるほど、これが“勇者の妹”の魔法なのね」


 煙の中から現れたミレイアの姿は、肩口が焼け焦げ、腕からは血が流れていた。

 だが、彼女は涼しい顔で自らの傷に手を当てると、ゆっくりと笑った。


「……けっこう痛いわね。でも、大丈夫。すぐに治るから」


 ルミナが目を見開いた。


「う、うそ……当たったのに……なにそれ……」


 その目の前で、ミレイアの皮膚が再生していく。

 炭化していた皮膚が、徐々に滑らかな白肌へと戻っていき、血の跡もまるで幻だったかのように消えていった。


「不死身って、そういう意味よ?」


 微笑みながら差し出された手に、ルミナは何も返せなかった。


「お兄ちゃんっ! うそ……こわい……! 魔女、こわい……」


 バタリと崩れた妹を、ミレイアがふわりと抱き止める。


「大丈夫です。ちょっと魔力を使いすぎただけですね。すぐお部屋にお運びします」


 完全看護モードに入ったミレイアを、ルークはただ呆然と見つめるしかなかった。


 目を覚ましたルミナは、ふわふわのベッドに寝かされていた。

 部屋の照明は落とされ、カーテンの隙間から夕方の光が差し込む。


 ナイトテーブルの上には冷たい水と、柔らかなメモ。


『少し休んでください。水を飲んで、落ち着いたら下に来てくださいね。

ミレイアより』


「……魔女のくせに、優しすぎるんだけど」


 ルミナは顔を赤くして、枕に顔を埋めた。

 怒っていいのか、感謝すべきなのか。頭の中で感情がぐるぐる回る。


「……でも、負けない。負けてたまるか……!」


 立ち上がった彼女は、決意を胸に階下へと向かった。


 そこでは、ルークが夕食の準備を進めていた。

 隣ではミレイアが野菜の皮を剥きながら、時折「きゃっ」と小さな声を上げている。


「ほら、力入れすぎると皮じゃなくて指まで剥くぞ」


「うぅ……料理って難しいのね……。でも、あなたのために頑張ってるのよ?」


「その顔で言うな、怖いから……」


 そこへ、階段を駆け下りてきたルミナが、勢いよくダイニングの扉を開いた。


「お兄ちゃんっ!! 私も、お兄ちゃんと結婚する!!」


「……なに言ってんだお前は!?」


「魔女が“妻になります”って当然のように言って受け入れたんでしょ!? だったら、実の妹が婚約申し込んでも文句ないでしょ!!」


「いや文句しかない! 文化とか法律とか以前に、常識ってものが──」


「三年待てばセーフでしょ!? 私、待つからっ!」


「ぐっ……この家、もうツッコミが追いつかねえ!」


 その時、扉の脇からぬっと現れた男がいた。


「うわー修羅場ってるねぇ。はいはい、ジークさん登場っと」


「ジーク! お前、なんでうちにいる!?」


「いやあ、ノクトヘルムの魔人いなくなってからヒマなんだよね。勇者ん家なら刺激ありそうだし?」


「だからって勝手に人ん家来るな!!!」


 がしっとルークが頭を掴みにいくが、ジークはひょいと逃げる。


「ま、嫁候補がふたりってことは……次は“第三の女”かな?」


「やめろ、フラグを立てるなッ!!!」

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