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第20話 風の巫女団と、閉ざされた神域

「ここが……神域ノアの入口か」


 風の大陸・ゼフィロール。王都アエリシアの上空には、浮遊する巨大な神殿が鎮座している。


 その入口は、王宮裏の高台に造られた塔の頂にあり、風の橋――魔力の浮遊床が空中に繋がっていた。


 「なんか、天界に続いてるって感じだな……」

 ジークが冗談めかして言うが、その顔に緊張が浮かんでいるのは、風の勢いのせいだけではない。


 一行が橋に近づくと、塔の正面に立つ銀の甲冑をまとった衛兵たちが、すかさず槍を交差させた。


「止まれ! ここは神聖なる《巫女の道》。選ばれし者以外、立ち入りは許されん!」


「俺たちは、勇者ルーク・アルヴェインだ。風の魔女と話がしたい。通してくれ」


 ルークの堂々たる口調にも、衛兵たちは微動だにしない。


「勇者だと?……偽るな。そんな戯言で神域が汚されると思うか!」


 するとミレイアが、スッと前に出た。


「だったら、こっちは魔女よ。“風の魔女”の仲間ってこと。責任者を出しなさい」


 クラリスも乗っかる。


「そうよ。こっちは魔核を割られて、もうおとなしい元魔女三人娘。身内の顔くらい分かるでしょう?」


 だが衛兵たちは、顔を見合わせて鼻で笑った。


「その格好で? 巫女の衣装を真似してるつもりか? 粗末な詐欺師め」


「貴様らなど、神を騙る異端者だ!」


 バチンッ!と風の障壁が展開され、塔の前に新たな魔力の防壁が張られた。


「……ダメだ、こりゃ話にならないな」


 クラリスが眉を吊り上げると、ミレイアも呆れたように溜息をつく。


「リィナに会うには、まずこのバカたちをなんとかしないとね」


 その時、フィオナがおずおずと手を上げた。


「あの……魔法で眠らせる、というのは……いけないことですか?」


 ルークが一瞬だけ迷い、そして静かに頷いた。


「最低限の被害で済むなら、やるしかないな。お願い、フィオナ」


「はい……“白眠のシエル・ノーネ”……!」


 風に溶けるような光が、衛兵たちにふわりと降り注ぐ。

 数秒後、全員がコトリ、と倒れ込んだ。


「おぉ、フィオナってばやるじゃん!」

「すごーい! ごめんなさいとか言いながら、結構ガチよね!」


 仲間たちが驚く中、フィオナは「す、すみません……」とぺこりと頭を下げていた。



 神域への浮遊橋を越え、**風の神殿ソル・セフィリア**にたどり着く。


 だがその正面に、待ち受けるように姿を現した男がいた。


 金の法衣に身を包み、背後には再編成された衛兵たちが控えている。


「私は“風の巫女団”教祖──カリス・フェルマータ。

 よくも聖域に土足で踏み込んでくれたな、異端者ども!」


「お前が……リィナを“神”に祭り上げた本人か」


 ルークが静かに問いかけると、男は目をぎらつかせて言い放つ。


「神とは、導きの象徴。リィナ様がいかに風の象徴として美しく、尊い存在であるか……

 それを理解しない者に、この空を歩く資格はない!」


 「ただの独裁宗教のボスってとこね」


 ミレイアが吐き捨てた瞬間、衛兵たちが一斉に襲いかかってきた。


 「ふん、こっちも遠慮する気はねぇ!」


 ジークが短剣を抜き、風の斬撃を跳ね返しながら前へ出る。

 ルークは構えず、ただすっと剣を横に振る。


 ――カンッ。


 聖剣アルシエルの峰がカリスの胸元を打ち、彼はその場に崩れ落ちた。


 「よ、弱っ!」


 クラリスが呆れると、ミレイアも冷たく言い放つ。


「この程度の実力で、よく風の頂点に君臨しようと思ったわね」


 残った衛兵たちも動揺し、戦意を喪失したように次々と武器を下ろした。



 神殿の奥へと続く、封印の扉が開かれようとしていた。


 ルークが手をかける直前、倒れたカリスが苦しげに口を開いた。


「……巫女様に会っても……無駄だ……」


「……なに?」


「……彼女はもう……“本当の意味”では、お前たちの声なんか届かない……。

 その目で見て、絶望すればいい……」


 その声には、かつて崇めていた存在に裏切られた者の……怨念にも似たものが滲んでいた。


 ルークは一瞬だけ目を伏せ、そして言った。


「それでも行くよ。たとえ拒まれても……本当に必要なのは、“神”じゃなく、“人”だから」


 風が静かに流れ出す。


 閉ざされた聖域の扉が、きぃ……と開かれていった

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