第16話 包容の帰路と王都の再起
「それじゃあ、帰りましょう。グレイア、外に出る道を案内してくれる?」
ルークがそう尋ねたとき、洞窟の静寂が少しざわついた。
グレイアは柔らかく微笑み、ぽんと両手を合わせた。
「えっと……ごめんなさい。私……この洞窟の外、行ったことがないの」
「……」
「……」
「……え? ちょ、え?」
沈黙が流れ、やがてジークが小さくぼそりと呟いた。
「……天然かよ」
「いや天然でしょ」
「間違いなく天然だな」
総ツッコミがその場に響き渡った。
「だって今まで、誰もここまで来なかったし……ご飯も洞窟で育つキノコと水で足りてたから……」
「隠遁生活にもほどがあるでしょ!」
クラリスが思わず突っ込み、ミレイアが軽く頭を押さえた。
* * *
どうにかこうにか、来た道を思い出しながら、迷いに迷って地上へと戻った一行。
太陽の光が差し込んだ瞬間、ルークは思わず目を細めた。
「……やっと戻ったな」
その肩に、そっと影が重なる。
「よく……頑張りましたね」
グレイアだった。ふんわりとした笑顔で、彼の肩をぽんぽんと撫でながら──
そして次の瞬間、彼の頭を引き寄せ、ふわふわの胸元へと包み込んだ。
「よしよし、よしよし……大丈夫、もう安心していいのよ」
「──っ!?」
思考を一瞬で奪われるほどの柔らかさと、温もり、そして圧倒的な包容感。
ルークの動きが、完全に止まった。
「ちょっ、な、なにして──」
「包んでるだけですよ? 母性とは、こういうものなのです」
「いやいやいやいやいや!」
「やばいわ、これは……強敵よ……!」
ミレイアの声が震える。
「さすがに、おっぱいで包むとか反則でしょ……!」
クラリスも顔を赤くしながら睨みつけた。
「ルーク様が……母性に目覚めてしまったらどうするのよ……!」
「だ、誰も目覚めてないから!!」
ルークの必死な否定も、胸元から出てくる声では説得力が皆無だった。
* * *
そうして騒がしくも帰還した一行が王都へ戻ると──
そこには、以前とは打って変わった景色が広がっていた。
活気が、あった。
子どもたちが笑い、商人たちが声を上げ、鍛冶屋の槌音が街を活気づけていた。
「……よかった。ちゃんと、戻ったんだな」
ルークが小さく呟くと、後ろから老賢者の姿が現れた。
「勇者殿……いや、ルーク様。
本当に、ありがとうございました。この国は、あなた方によって目覚めを得ました」
深く、深く頭を下げられる。
続いて現れた国王は、以前よりも少し目元に“光”が戻っているようだった。
「おかげで助かった。……ずいぶんと迷惑をかけてしまったな」
「いいえ。こちらこそ、大変な事態に首を突っ込んだのは僕たちですし」
ルークが笑って応じると、王は小さく頷いて続けた。
「急ぎでなければ、宿を手配しよう。王都にはまだ整備中のところもあるが、観光地としてはなかなかのものだぞ」
ジークが食い気味に乗ってきた。
「観光!? 温泉!? 食べ歩き!? あるの!? 行くしかなくない!?」
ミレイアが呆れたようにため息をついた。
「……この人、元気になったわね」
クラリスが微笑みながら言う。
「まあ、少しは息抜きも必要かもね。だって、ここからまた──」
クラリスがルークを見て言った。
「旅が続くんだから」
ルークは、照れくさそうに頷いた。
「そうだな……じゃあ、ちょっとくらい……観光、するか」
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